到着
「飯郎そろそろ着くぞ〜寝てないで起きるんじゃ!」
「飼い主!」
「腹減った!」
「トレビアーンヌ!」
「顔真っ青だけど平気?」
空をさまよい三千里。どれだけの時間、空中にいるのだろう。肝が冷え、何を言ってもどうにもならない状況。叫んでも助けなどなく、体力を消耗するだけだった。擦り切れた精神。このままだとストレスで死ぬ。ポックリ逝かない為にも思い切って寝転び、景色の変わらない空を見て何とか心を落ち着かせた。
神様はどこから出したか分からないレジャーシートを敷いて、ポメラニアンと一緒にお菓子を食べていた。紅茶の水面に一つも揺れがなく、文字通りの神業を披露させ、二頭はキャッチボールを開始。一頭がボールを投げ、もう一頭が追いかける。いくら各々が自立していても体は一つ。傍から見て疲れないのだろうかと常々思う。それになぜ龍の背中でやろうと思ったのか。明らかに場所と状況とタイミングが違うだろ。
そして料理長は姫龍と話すだけでなく、ハーピー族の方々と会話をしていた。だがしかし、やり方が狂っている。本人は至って普通に行っていたが 、空中を何度も蹴り上げ事実上の浮遊をしていた。ギャグ漫画でしか見たことない足の回転。自由に空を歩行している姿に誰もツッコミを入れない。
各々が超人で自由気まま。これが当たり前なのだろう。俺が思っている料理の当たり前が違うように、この世界の当たり前が俺にとって違いすぎる。まさかこんな所で体験できるとは思わなかった。俺だけまともに楽しめてない旅路。だがそれももう少し。
「見えたぞ! あそこが空中都市じゃ!」
完全に天空の城。大陸一つが丸ごと浮いている。スケールが大きすぎて口が勝手に空く。実際この目で見ているのに未だに信じられない。
「な、なぁ⋯⋯間違って落ちてきたりしないのか?」
ファンタジーの一言で済ませられたら納得するしか無いが、どうやって浮いているのか。まるで隕石。少なく見積っても縦横数十キロは軽くあるだろう。
「大丈夫じゃない? 持ち上げてから何世代も落ちてないんだし」
「へぇ〜持ち上げ⋯⋯ん?」
疲れのせいなのか、ついには耳までおかしくなってしまったようだ。いくらなんでも脳筋すぎる。それに不可能だろう、何トンあると思っているのか。
「私って天からこの星を見てるじゃない? どれだけ登っても絶対にたどり着けない高さから。何だけどハーピー族はいつか必ず登ってみせる! って意気込んでてねぇ〜」
神様を一番に思っている種族と聞いていたが、いくらなんでも狂信者すぎる。もしかして信仰している本人を連れてきたのはヤバいのでは⋯⋯まさか身近にとんでもない爆弾があったとは。城で留守番してもらっていた方が良かったかもしれない。とはいえ嘆いても
もう遅い。
「到着じゃ〜」
下を見渡すと地上も変わらない景色が広がっていた。空の上なのにすぐそこに地面がある。不思議な感覚だが、そんなことはどうでもいい。今はとにかく、地に足が付けられる。それだけが喜び。
「皆様、お疲れ様でした。今から私が案内役を務めさせて頂きます」
同伴してきた人たちとは別に飛んできた一人の男性。今初めてまともに見れたハーピー族。二の腕は人間と変わらないが先、肘を境に羽になっている。足は完全に鷹などの鉤爪と言えば良いだろうか。立派で鋭そうだ。木に止まるにも便利そうだし⋯⋯まぁ、荒事にも向いていそうな感じ。よく見たら筋骨隆々だし胸筋と広背筋が分厚すぎる。神様の言っていた嘘みたいな話が現実に思えてしまう。
「龍族の姫様〜! 来てくれて嬉しいです〜!」
地上に近づく度にどんどん聞こえてくる歓声。一生懸命に手を振り、アピールしてる姿から愛されてるのが伝わる。
「は、恥ずかしいな⋯⋯」
「皆嬉しいのですよ。空を共にしている仲間が来られて」
「そ、そうか〜?」
見ている感じ、聞いていたほど血の気の走っている様子もなく好印象。このまま行けば何も起こらなそうだが――
「そろそろ地上も近くなってきました。ここから先は人の姿でお願いします」
「了解した。それじゃあ皆準備するのだ!」
「準備? 一体なんの⋯⋯」
「それじゃあ行くぞ〜? せーの!」
突如立ち止まって何か言ってきたと思ったら、いきなり合図して。俺だけついていけないまま覚悟も決まらず、そのまま落下した。
「え⋯⋯ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
空中で龍の姿から人間に。いつもの見慣れた姿になった。乗っていた背中は無くなり、 そのまま自由落下。
先程の合図はこれのことだったらしい。それならそうと言って欲しかった。とはいえ心構えをしても俺にできることはない。ただ助けを乞う。それだけ。
「助けぇぇぇぇ!」
投げ飛ばされ、空中を何回転。身動きが取れずされるがまま。踏ん張りも効かずにぐるぐると。
「飯郎⋯⋯貴方料理以外の事だと情けないわね⋯⋯」
呆れたような神様の声。俺の足首を持ってゆっくりと落下。呑気に傘を差してパラシュートみたくしている。穏やかに近づく地面。
「俺が情けないんじゃなくて皆さんが強すぎるんですよ⋯⋯」
完全におんぶにだっこ。一方的な介護で頭が上がらない。宙ずりの最中、次から次へと落ちていく面々。
「ワンダフォ〜!」
「人の姿は窮屈だな〜」
当たり前のように着地して無事そうな二人。生まれ変わったら龍族になりたいと思った。
「地面だぁ⋯⋯」
背中から地について、等々待ち望んでいた大地。手も足も自由が効いて歩き回れる。
「俺は⋯⋯」
【自由だ!】
あちこちをジャンプしたり飛び回ったり走ったり。己の意思で動ける。
「最高すぎる!」
生まれて初めて地面が好きになった。感謝してもし足りない。
「飯郎が⋯⋯おかしくなった⋯⋯」
「ノット⋯⋯トレビアーン⋯⋯」
「しばらく好きにさせときましょ⋯⋯」
三人の冷たい視線も露知らず。俺はその場で大はしゃぎ。きっとポメラニアンならこの気持ちも分かるはず。
「⋯⋯あれ? そういえばアイツらは?」
「あ、兄者よ! 手を止めれば死にますぞ!」
「お、弟よ⋯⋯そうは言っても!」
「口ではなく手を動かして!」
「うおお飼い主! 早く助けに来てぇぇ」
「犬かきだけで空中に留まるのも」
「限界なんだけどおおお!」




