龍の姫
「⋯⋯ってことなんだ姫龍」
「なるほどな! 良い考えじゃ!」
諸々の決まった事を伝え、面談の約束を取り付けてくれと頼み込んだ結果、すぐに了承の連絡が帰ってきた。
「さすがに早過ぎないか? 一時間ちょっとで即返信って⋯⋯」
「仲良くさせてもらってるからな〜いつでもウェルカム! らしいぞ〜」
なんという受け入れの広さ。やはりどの国でも友好的というのは得らしい。
「それじゃあ三日後に出発するから各々準備して置くように!」
◇◇◇
出発の日。心做しかいつもより天気がいい気がする。まるで旅路を祝われて、祝福されていると錯覚してしまいそうだ。
「はぁ〜⋯⋯」
早朝、太陽に照らされ思わずあくびが出てしまう。
「朝っぱらとはいえ、そんなに気が抜けてて大丈夫なの?」
「平気ですって〜流石に今だけですよ」
「貴方あれでしょ。修学旅行の前日にはしゃいで寝坊するタイプじゃない?」
「か、神様⋯⋯よくそんなこと知ってますね⋯⋯」
「当たり前でしょ? これでも一応神なんだから、なんでも知ってるわ」
「おお〜初めてかっこいいと思いましたよ。神ってお飾りの称号じゃなかったんですね」
ついポロッと本音が一つ。さすがに気が緩みすぎてかもしれない。
「飯郎? よく言うでしょ? 仏の顔も三度までって⋯⋯あんまり調子に乗らない方が――」
「おはようございマース!」
「飼い主!」
「飯をくれ!」
じゃれ合ってるうちに、役者は揃いつつある。後は姫龍だけ――その時、突如辺り一面に影が曇った。城の中庭、テニスコート数百回個分の広さを持つ芝生が陰り、突如夜が来た。龍族の咆哮、鳴き声がそこらじゅうから聞こえ、耳が割れそうな勢い。
「な⋯⋯なにこれ⋯⋯」
「飯郎様〜姫様が来られたのデースよ〜」
俺以外の全員が首を上にして何かを見ている。空に何かあるのか? 姫龍が来たって一体⋯⋯
「え⋯⋯」
絶望、災厄、この世の終わり。今見ている光景は現実なのか。頭の隅々まで全てが拒否した。空飛ぶ龍族の集団と、明らかヤバい一匹。頭上に現れた規格外の存在。ゲームだったら確定で死亡する挑んではいけない敵。蛇に睨まれた蛙なんてものじゃない。今の俺は【死】そのものに見つめられている。
「ボンジュール⋯⋯姫龍も大きくなられて⋯⋯」
「まだまだチビだな!」
「俺らには敵わないな!」
「さすがに圧巻ね〜龍のお姫様らしく気品があるわ」
全員の反応からするに、あの集団の中に姫龍が居るらしい。はっきり言って姿が違いすぎて、俺では一ミリも分からないが。
「神様どこにいるんです? あと俺ビビって漏らしそうなんですけど⋯⋯」
「あら、飯郎には少し刺激が強かったかしら?」
「逆になんでみんな、平気なのか知りたいんですが⋯⋯」
「味方なんだし胸張ってればいいのよ。それと、お姫様は真ん中にいる一番大きい龍よ?」
目が合い、こちらに何度も振っている手。他の龍と比べると笑顔な気もする。とはいえ流石に間違いだろう。身長百六十センチ程が数十メートルはありそうな龍に変身するなんて。
「神様⋯⋯冗談きついですよ〜」
「あ、ハーピー族の人たちも来たみたい」
「ェ?」
離れすぎていて良く見えないが微かに見える人影のようなもの。龍族に囲まれ、何かを喋っているような雰囲気。
「そろそろ行く準備しなさい」
「楽しみデース!」
「ちなみになんだが⋯⋯」
「我らはどうすれば?」
地面に下ろしていたカバンをかけ、なにやら手を振って合図しだした。
「わんちゃんは私が抱っこするわ」
「おお〜」
「さんきゅ女神様〜」
ちゃっかりと、世界一安全な人に抱かれていたポメラニアン。本音を言えば今すぐ変わって欲しい。
「飯郎たち〜我の背に乗れ〜」
聞こえた姫龍の声。それと同時にこちらに急接近しだした一番デカイ龍。どんどん迫り来る姿。まるで線路の上、新幹線が超特急で発進してきたような気持ち。道中、雲が幾つも吹き飛び、勢いの反動で城の窓ガラスが割れる音がした。
「おまたせ〜」
離れていても目算で数十メートル。それが今、目の前にしたらそんなものでは済まされない。
「これは⋯⋯スカイツリー?」
いくら上を見上げても高すぎて先が見えない感覚。何を食べたらここまでなるのか。もはや恐怖の感情は無く、関心や好奇心が強くなった。
「飯郎様〜すこーし失礼しますぞ?」
そう言うと、料理長に軽々と片手で抱えられた。手持ちバッグのような感覚で、すんなりと持ち上げて軽〜くジャンプしただけで数十メートルをジャンプした。
「どああああ!!」
ため息一つ吐くより簡単そうに飛び、姫龍の背中へ飛び乗った。下ろされ、周りを見ても未だに信じられない。一瞬で地上から城より高い目線に居る。
「皆乗れたか〜?」
「姫様〜おっけデース!」
「了解じゃ〜それじゃあ行くぞ〜」
興奮冷めやらぬ中、何か不吉なことが聞こえたような。行く? 不安定なこの状態で? ただちょこんと座ってるだけのこのまま?
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
安全バーのないジェットコースター。何度もケツが空中に浮き、叩き落とされそうになる。料理長が服を握っていてくれるから辛うじて何とかなってるが⋯⋯地獄のフライト。いつまでこれか続くのか。
「今から数時間後の移動じゃ〜楽しんで行こ〜」
「おー!!」
俺以外がノリノリな空間。こんな状態で数時間⋯⋯?
「下ろしてくれエェェ!」




