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異世界偏食飯  作者: 愛姫
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人喰い

 皆さんどうもこんにちは飯郎です。なぜ僕は今、心の中で自己紹介をしているのか。どこの誰に向ける訳でもないのに、不思議に思われてると思います。自分でもはっきり言って、おかしいことこの上なく、変なことをしてるなぁ⋯⋯と自覚しており、それなのに何故そんなことになっているのか。それは、今見ている景色が大変恐ろしく、現実逃避をしたいがために脳が冷静になるよう、働きかけてるとだと思います。さて、それでは今私が見ている光景がどんものか気になりますよね? いいでしょう。それでは見てください。



「イヤア゛ア゛ア゛ア゛――」



 周りを見渡せば空を飛ぶハーピー族の方々。手を平げ、立派で大きな羽を生やし、空中なのに何も変わらず、それどころか活き活きとして自由闊歩している姿はまさに圧巻の一言。流石は空を根城に住んでいる種族。空中都市を築いては、空の覇者とも言われている存在。でも、違う。別にハーピー族の方々にビビり散らかしているわけではない。



「なんだ飯郎よ? そんなに騒ぐでない」



「姫龍うぅぅ! スピード落としてぇぇえ!」



 体長はおよそ数百メートルはありそうか。地球のクジラとも為をはれそうな程のデカさ。華奢で小柄。人間サイズの時からは想像もできないほど豹変っぷり。龍族とは聴いていたが、空想上の生き物と思っていた節があり、実際に見て背に乗るとそれはもう⋯⋯鼻息一つで俺なんかぶっ飛ばされ、天に昇るだろう。無防備で塵芥なただの人間が、数千メートルの高さで空中に居り、煽るなんてものじゃない、全身を殴れるような横風に体を震わせながら、いのちづな、なしでしがみついている状況。目など開けた日にはあまりの恐怖に気絶し、あれよあれよという間に地面に叩きつけられるだろう。死にものぐるいで踏ん張ってる俺に対し、神様は面白いアトラクションぐらいにしか思ってなく、ポメラニアンは膝に抱えられ、優雅で世界一安全なフライトを楽しんでいる。料理長はいつもと変わらない様子で姫龍の成長を泣きながら喜んでいて、絶対今じゃないだろとツッコミを入れたい。それはそうと、何故こんなことになったのだろうか。あれは確か⋯⋯



 ◇◇◇



 療養から約一ヶ月。体調も万全になり、姫龍たちとの打ち合わせで、どこの種族から訪問するか悩んでいた時。



「姫様。今しがた、ハーピー族の方々から卵のお届けがありました」



「おおそうか、すぐに向かおう。すまんな飯郎よ、少し席を外すぞ」



「おう!」



 ハーピー族。噂でしか聞いたことがないが、何でもこの龍の国との友好国らしい。数少ない空が飛べる種族同士として、昔から長い付き合いだとか。交易も盛んで、主に卵を輸入しているとか。



「卵かぁ〜地球だと鶏とかが産むイメージがあるけど⋯⋯」



 ハーピー族の卵は大変大ぶりで味もよく、ダチョウの卵のようにデカイ。主に祝い事で使われていて、他の国では食べる機会が無いとか。



「んートレビアン! 早く味わいたいものだねぇ⋯⋯」



 龍族の人たちは体が大きく、一般的な鶏サイズの卵では食った気にならないらしい。当たり前に五、六メート以上がデフォルトな大型な種族。人間サイズで満足しないのも無理はない。とはいえ、流石に量が多く、使い切れない為、キッチンには普通サイズの卵を常備している。



「ハーピー族には確か卵料理と養鶏の知識を与えたわね。何となくイメージに合ってるし、結果的に一番有名になったから私の目に狂いはなかったわ」



「さすが神様⋯⋯と言いたいところですが、どーせ変な食事してるんでしょ? 怒らないので言ってみてくださいよ」



「いえ、ハーピーの人たちは特に変な食事じゃないわ」



「え? そうなの?」



「ええそうよ。それどころか一番食に対して貪欲な種族で、もしかしたらすんなり仲間になってくれると思うわ? ただ――」



 明らか頭を抱えて、困り顔。絶対、いや間違いなく何か問題があるのだろう。



「神様、怒らないので言ってみてください?」



「⋯⋯じ、実はね。ハーピー族の人たちには、とある通り名があるの」



「通り名? なんですそれ?」



【通称⋯⋯人喰いの鳥獣】



「え⋯⋯絶対関わったらダメじゃないですか⋯⋯」



「ハーピー族はね。世界一舌が肥えてると言われてるの。そしてとても食い意地が張ってて、地上に居る人々の食べ物を空から盗んで貪り食うの」



「⋯⋯」



 空から盗む食料。それを聞いて、地球で見たことある動画が浮かんだ。それは海辺。トンビやら鳥類が人間の食べ物を奪い去る光景。テレビ等でも取り上げられて、一時期話題になっていたあれ。



「そして恐ろしいのはここから。奪った食べ物が不味ければ激昂して、村や街を襲うのよ⋯⋯」



「はい?」



「自分から盗んでおいて、美味しくなければ報復に出るのよ。幾つもの都市が破壊されて、あまりの恐ろしさに、外で食べ物を見せてはならない。そうしなければ喰われるぞって言われてるわ。その噂が歩き回って、世界中に広まった結果が」



「人喰い鳥獣と言われたと⋯⋯」



「全く、誰に似たのかしら?」



 身の毛もよだつ話。日本でも昔から伝わる話があるが、夜口笛を吹くと蛇が出るとか、火遊びするとおねしょするとか。大抵、子供のしつけ目的の為。大人になった時、振り返ってみれば、よく考えたものだと感心することだろう。ただこれは、本気で命を狙われるからこそ伝わった、本当の怖い話。



「ハーピー族か⋯⋯確かに奴らは恐ろしい」



「ノミマクール! もしかして⋯⋯なんかあったのか?」



 今の話を聞けば何となく察せる。激辛しか食べてこなかった獣人族の食事を食べたらどうなったか⋯⋯



「ある日、唐辛子をかじっていたら奪われたらしくてな。何度も忠告したんだが聞き入らずに食べて意識不明になったらしい」



「あ⋯⋯」



「その事に怒ったハーピー族が攻めてきてな。森を守るために仕方なく応戦したのだ」



 もはやこれは料理一つで変えられる領域なのだろうか。種族全体がバーサーカーで当たり屋。仮に美味しい料理を作っても止められるのか。



「かなり昔の戦いで、父上が産まれるより前の事だがな」



「そうか⋯⋯」



「まぁでも安心しろ。何でも、祖先たちは唐辛子をすり潰して、粉状になった物を空に撒いて撃退したと聞いている」



 この時、俺は思った。獣人族の皆さんも中々にヤンチャをしてると同時に、今居る龍の国が安全過ぎるのではないかと。



(もしかしてこの世界ヤバいんじゃ――)



 世界を回ろうとしているのに次から次へと出てくる争いの痕跡。気合を入れ、心にハチマキを巻いたのに、今の一件でどんどん緩く、解けてきたやる気。




「まぁでも、神様の話が本当ならハーピー族の皆さんも今の食事に憂いて、快く協力してくれると思ったんですけど⋯⋯ 」



「そうだな。マイナスな印象が付きすぎてるとはいえ、食事に対する執着心と思いは広く知れ渡っている。協力出来れば彼らの口を通して料理革命が起こるかもしれんな」



「料理革命⋯⋯いいなそれ!」



 扱いに注意は必要そうだが要するに、口コミが広いとも言える。彼らを納得させられる料理を作れれば、世界に蔓延っている、料理の低迷と意識の低さを改善出来るかもしれない。



「それに、女神に対する信仰が全種族で一番なんだから。すなわち、この私が出向けばトントン拍子に話が進むはず!」



 渡りに船とはこの事。神様が居れば何が相手でもどうにかなるはず。



「うし! それじゃあ初めての旅はハーピー族の所で決定!」

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