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異世界偏食飯  作者: 愛姫
18/25

ワンチーム

「⋯⋯ハッ!」



 目覚めた時、感じたのは激しいほどの息切れ。そして体の倦怠感と、なんとも言い表せない心の重さ。心身共になぜこんなにも疲れているのか。それになぜベッドの上に寝ているのか。すっぽりと抜け落ちた記憶。



「なんだろう⋯⋯なにかしてはならないことをした気がする⋯⋯」



「姫様⋯⋯起きましたカーネ?」



「料理長!」



「なんか⋯⋯久々に動揺した気がする⋯⋯」



「獣人族の姫よ! 二人とも何があったが覚えているか?」



「はっきりとは⋯⋯ただ、薄ぼんやりと浮かんでくるのは、私たちが不敬を働いた気がする⋯⋯それだけ」



「私もデース⋯⋯」



 全員が何も覚えていない不可解な現象。全員の顔を見ても首を傾げてどこか上の空。普通なら解明したいと思うのだが、本能と、消さざるを得なかった脳が心に語りかけてくる。



「あれ? そういえば飯郎は⋯⋯」



「皆さん起きました〜?」



 全員が気絶してからベッドに運んだ時、体が栄養不足になっているのに気づいた。二か月も食べてないから当たり前なのだが、このままやばいと思い、全員起きる気配が無いのと、神様の飯を作れとの命令によりキッチンに行っていた。



「おお! 飯郎! 聞いてくれ。我々は今、事件に巻き込まれておるのじゃ!」



「事件? 何が起きたんです?」



 ベッドに座り、近くの机に鍋敷きを置いた。カタコトと音を立てて、香りと存在感を放つ土鍋。蓋を開けると立ち上る湯気。



「実はな⋯⋯ここにいる全員の記憶がないのじゃ!」



「え!? 大事件じゃないですか!」



 柔いお米。トロッと水分を含み、卵の黄色が輝く。二人分を茶碗に入れ、ベッドに腰をかけた。



「そうなのじゃ。だから――」



「神様熱いから気をつけてくださいね」



「了解よ!」



 木のスプーンの上。掬い上げた米の光沢。口を近づけると、触れてすらいないのに伝わる熱。息をふきかけ、食べ頃になったら豪快に。



「んまい! 土鍋で炊いたから米の甘みが強く伝わってきて、卵のコクがお粥をワンランク上にしてるわね」



「神様からしたら薄味だと思いますけどね。それじゃ早速俺も⋯⋯」



 口に運ぼうと歯まで触れた時、視線を感じた。



「ん?」



 震えながら、美味しそうに、ほうばる神様を見つめる三人。食事ができて幸せなこちら側とかたや、今にもまた倒れそうな雰囲気あちら側。同じ部屋の空間。数メートルの間に天国と地獄が向かい合って存在していた。



「も、もも⋯⋯申し訳ありません!!」



 一人は天高く飛び、一人は勢いよく膝を滑らせ、もう一人は手足を曲げ上を向き、全員が一斉に謝罪した。



(ジャンピング土下座にスライディング土下座、それに⋯⋯ノミマクールの奴は動物界の服従のポーズか? お腹を上に向けて参ったってする時の⋯⋯)



「ん? 何してるの?」



 食事のさなか、頭を地面に擦り付けてる二人と服従した一人が目の前に現れた。神様からしたとんでもない奇行集団。



(姫龍たちからすれば謝罪のつもりなんだろうけど⋯⋯全くもって本人に伝わってません⋯⋯)



 ◇◇◇



「ドカ食い気絶最高⋯⋯」



 食べるだけ食べ、胃袋がパンパンになった途端、一瞬で眠りに付いた。食べて寝ると牛になると言うが、これを見る限り、神様が太っていた理由が一目で分かる。



「とりあえず、そういう事なんですけど⋯⋯いつまでやってるの?」



 今まで起こったことを説明して早数時間。怒涛の質問攻めと自分たちのやらかしに魂が抜けたようになってしまった。当の本人は寝てしまったのに。あれから自問自答を繰り返し、犯した罪の重さからかずーっと謝罪ポーズをしている。



「我らがやってしまった事。はっきり言って万死に値する」



「女神様に働いた数々の失言と態度。一族全員の血で償っても足りないぐらい⋯⋯」



「今起きたことが知られれば全員むち打ちの刑デース!」



 ある意味、これはもう宗教に近いだろう。神様一人を全世界で崇めている故の弊害⋯⋯までとは言わないがやはり神様は絶対なんだ。


 俺の膝の上でグースカといびきとよだれを垂らしながら、眠りこけている人とは思えないほどの絶対的な権力。神様と居れば世界を変えられると思ったけどこれはいくらなんでも力関係が壊れてる気が⋯⋯



「まぁ、聞いてもらった通り、神様と一緒に世界を回って食文化変えたいんですけど――」



「飯郎よ。それは我に任せるがいい! こう見えても一国の姫だからな! 協力は惜しまん!」



「そうだ。私もそれなりの力はある。龍族の姫と協力して、サポートしようではないか」



「姫龍⋯⋯ノミマクール⋯⋯」



「ボーノ! 私も何とかして協力したいデース! こうなれば実家の権力を使ってあれやこれや⋯⋯」



「料理長⋯⋯うし! こうなったらみんなにも協力してもらうぜ!」



 全員が手を突き出し、拳を交わした。全てが始まったこの地からの出発。出会った仲間たちとの協力、神様と俺だけじゃない、ここにいる全員で作る歴史。ワンチームになり、より強固になった絆。準備は出来た。まだ見ぬ未知の世界へ、一歩、足を踏み出す力と勇気。



「あ、兄者よ⋯⋯我ら忘れられていますぞ⋯⋯」


「お、弟よ⋯⋯少し寝過ごしてしまったようだ⋯⋯」


「こ、このままだと我ら忘れられてしまうのでは?」


「お、恐ろしいことを言うな弟よ⋯⋯」



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