神様、聞いてないっすよ
「⋯⋯」
いくら目を擦っても現実は変わらないらしい。八等身の足長な影はみるみる縮んでスリムな腹筋は見事な三段腹に。
「ん? 何かしら」
今もお菓子片手にアイスまで持って⋯⋯
「よし! 準備できたわ!」
元気よく声を上げた。なんでも異世界に繋がる扉を開けてたらしい。
「よし! この扉を通れば私の世界よ」
「わかりました神様!」
紫色の禍々しい扉の前に立つ。
「神様⋯⋯俺あっちの世界で美味いもん作りますんで。いつか食べに来てください」
「そうね。楽しみにしてるわ」
「それじゃあ⋯⋯ここでお別れです」
「ええ、行ってらっしゃい。期待してるわ」
俺はその言葉に背中を押され、扉に足を踏み入れた。後ろは振り向かない。次会う時はお客として⋯⋯
「あ、そうそう。扉を出たらあなたをサポートしてくれる人を手配しといたわ。しばらくはその人を頼りなさい」
「⋯⋯え?」
聞かされてない告白。思わず後ろを振り返った。
「え? どこ⋯⋯」
知らない景色。神様の姿はなく、辺り一面大きな柱が並んでいる。
「お前かぁ! 女神様が言ってた異世界人は」
バチン!と音が鳴った。振り向くと一人の少女が立っていた。
「あ! 初めまし⋯⋯て⋯⋯」
頭を下げて挨拶するとチラチラ映る”何か”。
思わず視線がそれに釘付けになった。
「ははw どうした?このしっぽが珍しいか?」
そう言うと背中を向いてしっぽを突き出してきた。
「うわ! すご! なにこれ!」
イメージはトカゲのしっぽのような。ただ、何やら鱗のようなものが付いている。
「ふははwお前は見どころがあるな。我のこの立派なしっぽの良さがわかるとは。流石は女神様に選ばれた男だ」
「あ! そうだ! 神様から俺をサポートする人って言われたけど⋯⋯」
「それは私の事だな! よろしく頼むぜ! 私は龍族の姫の姫龍だ! そのまんまだろ? がははw」
「そうか! 俺の名前は飯郎って言うんだ⋯⋯」
気のせいだろうか。何やら変な事が聞こえたような。
「そうか! よろしく頼むぜ飯郎! それじゃあ早速だが⋯⋯」
「ちょ! ちょっとまって!! 今龍族とか聞こえたんだけど⋯⋯?」
「ん? それがどうかしたか?」
「⋯⋯」
首を傾げて不思議そうにする姫龍。神様⋯⋯俺の予想してた世界と違いますよ⋯⋯
「クシュン! 風邪かしら⋯⋯それにしても今頃異世界に着いたかしら。少し覗いてやろうかな⋯⋯」
そう言いながら何やら水晶のようなものを取り出した。
「なるほどね〜俺の住んでる所とは全然違うなぁ」
「そうかぁ。いきなりびっくりさせて悪かったな」
「いやいや平気だよ! それに龍姫ちゃん見てたらものすごいワクワクしてきたよ!」
「ちゃん!? 言っとくけど私の方が年齢上だぞ!?」
「え? 俺二十二歳だけど⋯⋯」
「私は二百七十三歳だぞ?」
「⋯⋯え?」
龍姫に聞いた話を整理すると、この世界に人間は居ないらしい。その代わりに龍族を始めとした姿形の違う種族たちが暮らしてるって話。で、龍姫はそこの王族だとか⋯⋯神様、なんて人に俺の遣いさせてんのよ⋯⋯
「まぁ話もこの辺にして⋯⋯着いたぞ、厨房だ!」
住んでるお城を歩かされて数十分。ついに厨房に到着した。
「よし⋯⋯」
俺を腕を捲り厨房を開けた。途端、中から聞こえた爆発音。
「うああぁ!! また圧力鍋が壊れたぞ!」
「バカ! そんなことはいいから消化器持ってこい!」
「⋯⋯」
慌ただしい厨房。中の人たちが火を消そうと慌てふためく。香ってくる焦げの匂いと黒い煙。
「はぁはぁ⋯⋯」
「何があった!?」
「ひ、姫! 申し訳ありません⋯⋯女神様から伝わった秘宝、神器圧力鍋を使おうとしたのですがまた爆発を⋯⋯」
「そうか⋯⋯神器圧力鍋は未だに扱えるものがおらん⋯⋯仕方ない。怪我はしてないか!?」
「は、はい! 誰一人しておりません!」
「なら良かった⋯⋯あ! すまない飯郎! お待たせしたな!」
「うん⋯⋯」
中に居る人達が壊れた圧力鍋を片し、飛び散った液体を掃除する後ろ姿。
この時、俺は悟った。女神が言っていた言葉に、嘘偽りなかったと。いや、それ以上に酷いことを。会話の節々から感じるヤバさを、俺はひしひしと感じていた。




