偽り女神
スーパーの帰り道。赤信号が変わるのを待っていた。手に抱えた袋からネギの緑頭が飛び出て、匂いが漂ってくる。今日の夕飯何にしようか、なんて考えていた矢先、信号が青に変わった。頭の中で献立を広げながら渡りきる直前、車のクラクションが鳴った。
「なるほど⋯⋯俺の最後は車に追突されたと⋯⋯」
「そうです。貴方は飲酒運転の車に轢かれてペシャンコになりました」
あの横断歩道を渡った最中、突如として視界が白くなった。霧のように広がる白い煙。自分の手を伸ばしても見失いそうになるほど。
「貴方何者なの?」
そんな状況に困惑している時、突然聞こえた女性の声。俺はすぐに声の方へ振り向いた。
目に映ったのは光。神々《こうごう》しく金色を纏った、人のような姿。眩しすぎて、うっすらとした輪郭しか見えない。言葉を発したかと思うと艶やかで惹かれる声。俺は緊張しながら答えた。
「えーっと⋯⋯あの⋯⋯俺は⋯⋯料理好きです!」
完全な自己紹介。否、事故紹介。初対面の人にこんなことを言ったら百パーセント変なやつだと思われるだろう。内心、終わった⋯⋯と絶望する俺。
「ぷはっw」
ただその直後、笑い声が聞こえてきた。
「貴方面白いわね」
その後、なんだかんだ意気投合して話し合った結果、俺は死んだらしい。なんでもこの人は神様で、とてもお偉い様らしく、俺の死を確認したようだ。
「まじかぁ⋯⋯俺死んじまったのかぁ⋯⋯」
俺は寝そべりながら何も見えない天井を見る。
神と名乗る女性と自分の死。どう受け止めれば良いものか。
正直この人が神様なのは俺目線疑いようがない。なんせ、俺の死んだ瞬間を見せてくれたから。
「貴方死んだ瞬間を覚えてないのね。いいわ、思い出させてあげる」
彼女はそう言って俺の頭に指先を触れた。途端、走馬灯のように俺の頭に映像が浮かんだ。
鳴り止まないクラクションの音。何か悲鳴が聞こえる。
頭が痛い。なぜ俺は地面に倒れ込んでいるのだろう。
あぁ⋯⋯食材たちが散らばって⋯⋯勿体ない⋯⋯
なんだろう、この赤い⋯⋯ダメだ、眠くて限界⋯⋯だ⋯⋯起きたらカレー⋯⋯ライ⋯⋯作⋯⋯
「貴方⋯⋯随分、料理が好きなのね。死に際にもあんな発言して」
「そうですね⋯⋯こんなこと言ってたのか俺⋯⋯」
走馬灯から戻ってきた時、彼女が言った。どうやら俺の記憶を覗いてたらしい。
「俺、このまま行くと生まれ変わるんすよね?」
「そうね。規定通りだと貴方は生まれ変わるわ」
なんでも死んだ人間は天国に行ってうんたらかんたら。よく聞いてなかったけどそんな掟があるらしい。
「もっと料理したかったなぁ⋯⋯自分の店持つのが夢だったのに」
捨て台詞のようにボソッと呟いた。もう叶わない自分の未来に。
「貴方、料理の腕前いいの?」
「え? うーん⋯⋯まぁ、はっきり言ってプロレベル?」
「そう⋯⋯なら私の世界来る?」
「⋯⋯はい?」
聞き間違いかと思うほど、あっさり言ってきた神様。
「私の世界の住人、ちょっと様子がおかしいのよね。なんでも食に関することが」
「おかしいってどんな?」
「うーん⋯⋯はっきり言って、あなたたちの世界の離乳食以下かしら」
「そ、それはなかなか⋯⋯」
「それで、来るの?来ないの?」
神様に与えられたチャンス。断ればそのまま生まれ変わって記憶を無くす。次の人生で料理を好きになるとも限らない⋯⋯か。
「神様⋯⋯俺行きます!」
「そう、歓迎するわ。異世界の料理人さん」
そう言って差し出してきた神様の手。俺はそれを握り返した。途端、少しずつ露になる神様の姿。どんなことが待ち受けてても構わない。包丁を握って誰かを笑顔にできるなら。未知の種族、未知の人種、かかって来やがれ。俺が絶対お前たちの舌を唸らせる料理を作ってやる⋯⋯
「え⋯⋯? かみ⋯⋯さま⋯⋯?」
「ん? 何かしら」
おかしい。先程までスリムな八等身の影が見えたはずなのに今は⋯⋯
「横に⋯⋯八等身⋯⋯」
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