神は何度でも変身する
神様が固まってからどれぐらい経っただろう。
料理も完成し、盛り付け、机の上に置いても反応がない。
「神様? 冷めちゃいますよ? とりあえず食べて気分でも回復しましょ?」
自分でも驚いて少し責めてしまったが、あまりの落ち込みっぷりに心が傷んでくる。ケロッとした性格と少し抜けてる所がある、ほんわかとしたタイプ。そんな人がガチでへこんでいる。
まるで子犬を叱ったら思ったより耳が下がり、しっぽが下がり、涙目で哀愁を漂わせた背中を見せつけられたような。叱ったこっちが罪悪感に包まれるあれ。
「善意でやったことが裏目っちゃっただけですよ! それに俺は違う星の人間だけど、姫龍含めた世界の人たちは神様に感謝してますから!」
心音が優しいのは間違いない。神様からしたら、数ある星々の中の一つが滅びそうになっただけ。見捨てる選択肢も出来たはずなのに、崇めて貰ってるからそのお返しに世界丸ごと救ったんだ。
「知ってます? 龍族だけじゃなくて、獣人の人たちまで神様の話をする時笑顔になるんですよ? 救ってもらった恩を感じて日々生きてるんです! だからそんな⋯⋯」
下を向き、沈んでいた顔が少し起き上がった。
「ウウッ⋯⋯」
「え⋯⋯」
久々に対面した顔。目や鼻周りが濡れている。
「あんたってほんとに良い奴ゔゔゔ⋯⋯」
よだれの次は滝のような涙。唐突に泣き出し、足首が濡れ、机が流されそうになる。
「ちょっと! なんでそんな⋯⋯」
泣き止むどころか勢いを増す。まるで川の氾濫。股下まで浸かるほど、辺り一面に涙が溜まった。
机は流され、どこかへ消えた。何とか料理の盛った皿だけは回収したが⋯⋯
「神様! 俺このままだと死んじゃいます!」
二度目の死が神による涙の水死など洒落にならない。
「いやあぁ! 助けてぇ!」
聞こえてないのかなんなのか喋りかけても反応がない。
胸元まで迫り、あと少しで顔が浸かる。神様を見ると薄い膜に覆われ、一つも濡れていない。
「なんで自分はなんともないんだよ!?」
無敵の空間なのか一切、周りの涙を寄せ付けてない。
「やば⋯⋯」
顎に当たる感触。すぐそこまで迫ってきている。
「神様ぁぁ!」
両手を上げ、料理の皿を掲げてるがそれも限界。もうすぐ俺は溺れるだろう。着々と迫り来る涙。
(あっ⋯⋯俺死んだ)
そう思った時、何故だか亡くなったばあちゃんが川岸から見えた。なんだろう、楽しそうに手を振ってきている。浅瀬の川。すぐに渡り切れそうだ。
「ばあちゃん待ってて! 今そこに⋯⋯」
◇◇◇
「ってそれ三途の川!」
やばい事に気づき、慌てて飛び上がる。
「あれ? なんで俺⋯⋯」
周りを見るとふかふかのベッドの上。オマケに腕は真上にピシッと挙がったまま。
「目が覚めたのね」
聞こえた声。随分幼い女性⋯⋯いや、女の子の声。神様ではない別の人の。
(この空間に他の人居たっけ?)
誰なのか疑問に思いつつ、声の方を向いた。
「え⋯⋯誰ですか」
ここに来て二度目の。全く持って見たことの無い幼女。背は百三十センチとかぐらいのとても小さい子供。
「私に決まってるでしょ? 神よ」
同じことを先程も言われたが、さっきとは違い明らかな別人だろう。声も形も容姿まで違う。
「いやいや、冗談は良くないよ。俺の知ってる神様は君みたいに痩せてないんだ。縦より横に長いからね」
「何よ失礼ね! さっきまでの褒め言葉が嘘みたい!」
おかしい。なぜこの子はその事を知っているのだろう。どこからが見ていたのか⋯⋯いや、それは無い。こんな小さいなら涙に流されるはず。
「⋯⋯もしかして本物?」
「そうだって言ってるでしょ!」
八等身からおデブから幼女にまで。いくつ変身出来るのか。顎が外れそうになるほど口が開いた。
「な、なんでそんな姿に?」
「カロリー消費したからよ。あれだけ泣けば体の脂肪だけじゃ賄えなくて過去のエネルギーから徴収したの。その結果、幼児化に至るまでになっちゃったわ」
「何言ってるかよく分かんないけど⋯⋯元に戻れないんです?」
「無理ね。体の精神年齢が巻き戻っちゃったから食べて成長するしか戻れないわ。体の感じから見るに成長期の頃かしら」
度重なる意味の分からない言葉に脳が拒絶する。
「まぁ⋯⋯要は小さくなっちゃったんすね⋯⋯」
「そういう事ね!」
子供声。随分高く、キーが上がった。いつもの大人しめな印象とは一変した、ハキハキと元気な声。
「ねぇ飯郎⋯⋯私、決めたわ」
「え⋯⋯何を⋯⋯」
初めて呼ばれた名前。覚悟の決まった瞳。
「私のしでかした責任を取らないといけないって」
「ま、まぁ⋯⋯でも責任を感じるほどじゃ――」
「いいの、もう決めたから」
迫力のある表情。美人顔故により一層、覇気が感じられる。
「だからね飯郎。貴方、私と一緒に旅しなさい!」
「⋯⋯へ?」




