世界の真実
「ちょ! 神様落ち着いて!」
「料理料理料理⋯⋯」
止まらない口。無理やりお菓子を突っ込んでもボリボリと消え去るだけで効果なし。
「そんなお腹空いてたんです!?」
「空いてるなんてもんじゃないわ⋯⋯たらふく食べて寝るのが趣味だったのに、貴方の料理を見たらすぐにお腹が鳴って。一生収まらない空腹感に襲われてたのよ」
「なにそれ⋯⋯そんなになってたの?」
「あまりに空腹すぎて、覗き見てる水晶を舐めたんだけどガラスの味しかしなくて。自分のおかしな行動に⋯⋯」
【おかし⋯⋯おかし⋯⋯お菓子?】
「そういえばプリン作ってたわよね⋯⋯あれが美味しそうで美味しそうで⋯⋯手作りってどんな味がするのかしら⋯⋯スーパーのと味が違う? ねぇ⋯⋯ねぇ⋯⋯!」
おかしいを超えて、もはや怖い。機嫌を損ねれば何されるか⋯⋯
「か、神様⋯⋯食材出してくれればなにか作りますよ?」
「⋯⋯ほんと?」
「ほん⋯⋯」
「ありがとう! 貴方と出会ったことを幸運に思うわ! それでだけど、とりあえず今まで作ってた料理は全て出して? それからカツ丼にお好み焼きに海鮮丼に⋯⋯」
俺が了承をする前に手を取り、目を輝かせ、感謝を伝えてきた。次から次へと鳴り止まない注文。
「ちょ! さすがに多い⋯⋯」
「あん? てめぇ私に嘘ついたのか?」
どこからか出した包丁を片手に持ち、逝っちゃってる目。選択を間違えればあれで⋯⋯
「あ⋯⋯いえ⋯⋯なんでも作ります⋯⋯」
◇◇◇
神様が出してくれたキッチンに食材。料理を作ってるさなか、ふと思い出したこと。
「神様?」
「なに?」
「神様の世界、食材とか調理器具とか、俺の居た世界と変わんないじゃないですか?」
「そうね」
「なんでなんです? 姫龍たちは神様が授けた云々、言ってて、聞いてみたかったんですけど。俺らと何も変わらない食文化なのに明らかにおかしい。なんて言うか⋯⋯合ってない印象なんですよね〜」
いくら人種が違い、世界丸ごと違っても、同じ食べ物なのにああも変わるものか。当たり前にある当たり前の調理器具も使えず、意味の分からない偏った知識と食文化。なにか秘密が隠されてるとしか思えない。
「あぁ、それ? そのまんまの意味よ。絶滅しかけてた私の世界に貴方たちの食材やら調理器具やら全て送ったの」
「⋯⋯はい?」
思わず洗っていた野菜を洗い場に落としてしまった。
「貴方も聞いたでしょ? 飢餓地獄の事」
「そ、それは聞きましたけど⋯⋯」
「あの時、私が手を貸さなかったら確実に滅んでたわ。せっかく、私を崇めてくれる人たちが居るのに見殺しになんて出来ないでしょ? だから数ある星々の中から、一番食文化が進んでる貴方たちの世界。地球から色々持ってきたのよ」
「⋯⋯」
違う世界からの運搬。神様スケールでしか出来ない力技。それと同時に様々な疑問が解消されてゆく。
「私ね、地球の食べ物が一番好きなのよ。だから私の世界の住人たちに同じものを与えれば美味しいものが食べられる! そう思って次から次へと世界に降りたって、調理器具の使い方から野菜の種とか調味料とかポンポン各地で教えて行ったのよ。そうすれば地球と同じ食文化になるって」
切っていた手が止まる。神、本人から明かされた世界の秘密。ずーっと不思議に思っていた謎。全てが一斉に解けた。
「後は冷凍食品、レトルトの類、保存食とか後ついでに電気も開通させたりその他もろもろ⋯⋯」
ファンタジーな世界観に見合わず普通にある冷蔵庫やエアコン、洗濯機まで。もはや日本と何も変わらないレベルの代物たちが普通にあった。
どこから産まれたのか疑問だったが⋯⋯
「だけどさ〜さすがに全部教えてたらキリないじゃん? だからある程度の所で切り上げてここから見守ってたんだけどさ〜」
「いや、ちょっと待てい」
「ん? 何よ」
思わず神様の会話を止めてしまった。だってあまりにもツッコミどころしかなかったから。
まず世界を救うために俺たちの世界の食材を預けた。ここまではいい、ただヤバいのはこの後。自分が行った壮絶とも言えるスケール。その責任を途中で辞め、放置し、後始末をしなかった。
「⋯⋯あれもこれも⋯⋯全部送ったから食の時代が止まってんじゃねぇか! 長きに渡って積み上げるべき歴史が! 急に進みすぎて足踏みしてんだよ!? 圧力鍋が爆発とか⋯⋯料理の当たり前が知られてないのって⋯⋯」
【これのせいじゃねぇか!?】
異世界に渡り数ヶ月。やっと判明した事実。全ては三段腹食欲暴走神のせい⋯⋯
「全員があれもこれも美味しいで止まってて! 料理の意味が無い! 栄えすぎて成長がない! 便利な世の中のせいで⋯⋯満足しちゃってんじゃねぇかぁぁぁぁ!」
自分でまいた種を回収しなかった結果、中途半端に育ち、成長の余地が無くなった。しかもそれが足枷になり、かえって自分首を絞めている。
「神様! 貴方の世界がおかしいのは⋯⋯自分のせいじゃないか!」
思いっきり指を指し、本人を目の前にして言った。
お菓子を食べるために止まらなかった腕も、今のおれの発言を聞き、固まったように静止。ピタリとも動かない。
今ではコンロの音と食材たちが炒まってる音しか聞こえず、会話が途絶えた。




