32.勇者の追っかけ
再び、花香へ進み始めたハロルドたちは馬車に座っていた。
どこかで見たことのある少女がロナルドの腕にしがみついているのを見ながら、二人は「物好きな女性もいるものだな」なんて思っていた。彼らにとっては、ロナルド・アンモライトが女性に好かれる男ではないので、本当に不思議に思っている。
ハロルドは目の前にある光景のことを忘れたいとでも言うように膝の上のルナリアを撫でている。それを見たスノウが催促するので、アーロンも膝の上にスノウを乗っけて撫でていた。甘やかされている小狼は満足そうである。
一方で妖精たちは若干不服そうにハロルドの頭や肩の上に座っていた。
「納得いかないわ」
「ボクたち悪くない」
「あの猫と犬が悪くなぁい?」
彼女たちが喧嘩をふっかけたのが理由なのに反省の色はない。とはいえ、三人揃ってハロルドからおやつと花をせしめることに成功しているため、宿で言い合いをしていた時よりは機嫌がいい。
自分たちが大きくなれば、おそらく同じように撫でてもらえるとわかっているため、少し悩んだ彼女たちだったが、自分たちが力を増していると喧伝するとややこしいことになりそうなので我慢しているあたりは賢いかもしれない。
「ねぇ。羽虫がうるさいんだけど」
「じゃあ、君が降りればいい」
「そうだな。邪魔だし」
ロナルドに縋り付いていた少女が妖精たちに文句を言ったと同時に即座に「降りろ」と言ったハロルドと、それに頷くロナルド。主にロナルドの発言にショックを受けたのか、少女がフリーズしている。
「つーか、誰だよこいつ通したの。うっぜぇな」
ロナルドの発言はかなり酷い。
「ロニーはあたしの運命の人。一緒にいるのは当然」
ロナルドにぽっと頬を赤らめながらもその手は彼の腕を離さない。
「当然じゃねぇから」
しかし、そんな彼女に本気で嫌そうな顔をしたロナルドは馬車を開けて動いているそれから少女を放り投げた。
流石にギョッとするハロルドとアーロンだったが、数秒後には走りながら「照れ屋なんだから!」と並走する少女を見てしまった。
「チッ……しつこい女だ」
「どうなってるの、あれ……」
「まぁ、女子の肉塊見ずにすんでよかったって事にしようぜ」
ロナルドは思い切り馬車の扉を閉めると、席に座り直す。イライラした様子で窓をカーテンで覆うと、「ようやく静かになったぜ」と口に出した。
「アレはマリガー子爵令嬢のイオだ。お前らどっちかいるか?」
「そういう言動、どうかと思うぞ」
放り出した扉の方向を親指で指したロナルドは厄介払いをするように、自分の所有物だとでも言うように「いるか?」と口に出した。アーロンはそれに思い切り嫌そうな顔をしている。
一方で、ハロルドは彼女の正体に思い至って、眉間に皺を寄せた。
イオ・マリガー。
フィアンマ帝国との戦いで大きな戦果を上げたとされた子爵令嬢である。ハロルドが男爵位をもらった際の夜会に彼女もいた。
(それで見覚えがあったのか……)
わかったことで、どこかスッキリした気持ちがある。
しかし、それはそれだ。まず、馬車に入ってくることができた時点で誰かしらの協力を得ているか、この警備に穴があることが考えられる。
(ルクスと一緒に点検するかぁ……)
これ以上厄介なことが起きていなければいいな、としか思えないハロルドだった。




