29.握られているもの
男はジッとルートヴィヒを見つめる。
ハロルドと同じ服を着て、あの場所に立っていたからには彼にも利用価値があるはずだ、と思い至ってニヤリと口角を上げた。
戦い方など、『正攻法』にこだわる必要はない。
正面に自分がいることに気が入って足元がお留守だ。
ゆっくりと彼らの足元に魔力を伸ばし、床を突き破るように攻撃を放つ。けれど、それは炎によって阻まれた。
「ローズ!」
「大丈夫。アタシ、やれる。こんな程度で負けてやるもんか」
ゆらゆらと立ち上がる彼女に腹が立ったのか黒い蛇のような何かが彼女を締め付けた。
(浄化が、効かない!?)
ハロルドも得意とは言えないが光系統の魔法を扱うことはできる。それを駆使しても全く効いている感覚がない。
ルクスとルアに視線をやると、揃って首を横に振った。
(特殊な解呪術が必要なタイプの呪術か……)
ヴィクトリアが授業で話していた。
単に呪い、呪術といってもいろんなタイプがあると。スキルによるものであれば尚更。特殊な工程を必要とする解呪術もあると。
気づくのが遅れた自分を思い切り殴りたい心境だ。
(向こうには聖堂を破壊できる手段があり、周囲の神官は死んでいて報告に行けるものもいない。……この様子だと、王家の護衛も怪しいな。死因は、毒、呪術、外傷も一応はあるか)
ルートヴィヒは努めて冷静に周囲の状況を見極めようと視線を巡らせた。
ハロルドを普段メインで守っているシャルロットは家の都合で外しており、代わりの聖騎士がいたはずだが、この様子では死んでいるかもしれない。アイマンは聖騎士でないからこちら側に入って来れなかった。
ウィリアムはおそらく女神の光柱が現れたことによって聖堂をまとめているだろう。
(何よりあそこには、我が友人であり、ハルの大切な者たちがいる)
ハロルドに対する人質、としてはこの上なく正しいものばかりだ。
同じことを考えていたのか、ハロルドの眉間にも皺が寄っている。ローズを手の上にのせてゆっくりと息を吐く。
「要求は」
「あなた方の身柄と、我がマーレ王国の天災を排除して豊かに変えていただくことです」
自業自得だろうに、とハロルドは舌打ちした。横にいるルートヴィヒが少し驚いた顔をしているのは、ハロルドのこんなにお行儀が悪いところをそう見ることがなかったためだろう。
投げ出された巻物を受け取って中身を確認する。
ニタニタと汚らしい笑みを浮かべる男を一瞥することもなく、契約書の穴をつくことを考えながら読み終えるとルートヴィヒにもそれを渡す。
「いいのか?」
「……仕方がない」
聖堂にいる友人たちを、ただフォルテを信じて集まった人々を、近くにいる孤児たちを巻き込むわけにはいかない。
腹の中で煮えたぎるものがあるのに反して、ハロルドの表情は無くなっていた。




