29.英雄願望者3
問いかけた幼馴染の表情が、何か渇望するようなものへと変わるのを見たハロルドは笑顔を保ちながらペーターの腰辺りを掴んでいた。仕方のないことではあるが殺意が凄い。
殺意が、凄い。
(おじさんたち、こいつのせいで死んだようなものだし仕方ないな。付いてくるっていうから連れて来たけど、やっぱりそう簡単に冷静にはなれないだろうし)
なお、ハロルドの脳内に「許す」なんて言葉が出ない辺り、彼も大概ロナルドのことが嫌いだった。
それはさておいて、ニヤニヤと「俺の力が必要なのか?」と言っているロナルドに溜息を吐く。
ハロルドは彼が神の寵を得ていると知っている。この国にいる神の加護持ちについては宰相からも説明を受ける機会があった。だから、おそらくロナルドも同じ状況であると考えていた。
(違うから俺が加護持ちだと知らないのか、知っていて俺に解決手段がないと踏んでいるのか……)
反応に困る。
その視線が美少女変装中のブライトに向いているのにも困る。完全に『可愛い女の子』としてロックオンされている。
母親とそういう関係になったこともあって、儚く庇護欲を唆る相手が好みなのだろうと踏んで、そうなるようにエトナにメイクを施してもらった。実際に誘われてここにいるのだから方向性は合っていたのだろう。
「別に嫌ならいいよ。他に頼むし」
「は?」
とても、かなり、非常に嫌だけれど、ハロルドが願えば神は力を貸してくれるだろうし、あのユースティアが「英雄になれる」などと言ってきたのだ。自分でなんとかできる。行使したいかどうかは別として、それだけの能力が、自分にあるだろうと知っている。
知っているが、行使する選択肢が『ない』。思い浮かぶことなく掻き消える。
「勇者である、俺以上に英雄に相応しいヤツがいると?」
「いや、日頃の行い見てたらそれはたくさんいるけど」
ハロルドの口からまろびでたのは彼から見た嘘偽りない真実だった。濁りなき眼である。ミハイルが「いくら本当のこととはいえ」と苦笑している。
ロナルドはその言葉にショックを受けたように目を見開く。
(魔物をたくさん倒して、それだけじゃダメなのか?)
その分、多くの人に迷惑をかけていればハロルドたちのような感想になっても仕方がないのである。
「英雄になりたい人と相応しい人は違うからね。一度きちんと考えてみるといいよ、その点についてはね」
「んー、でも僕的には性格終わってる人が英雄とか嫌だし、断ってくれてもいいかなー?」
鈴を転がすような愛らしい声でブライトがそんなことを言うと、更にショックを受けたような顔をした。容姿と声が違和感なく感じるのがすごい。
彼らの口ぶりで、代わりにその女をよこせなんて言えなくなる。
やがて、結論を出したロナルドと話し合いを済ませると、彼はふらふらと教室を出て行った。
「悪いハル」
「そんなことを言わないでよ、ネモフィラ」
ようやくペーターから手を離して、「蛇の相手なんてしてられないよ」と呟いた。
ゆっくりと上げた手の先にルアが止まる。
「アイツ、抜け出したみたいだぞ」
「今?……余計なことはしないで欲しかったんだけど」
指輪に魔力を通し、すぐ近くにいるだろうリリィに伝言を頼む。「言葉遣いには気をつけるんだよ」というハロルドの言葉に、彼女は「まっかせてぇ〜」と得意げに言った。
とても不安である。
ブライトは本当に女装が似合う……というかしゃべってもバレないくらい完璧に女子




