28.英雄願望者2
その日、少年はとても可愛らしい女の子を見つけて喉を鳴らした。
紺青の長い髪をツインテールにした、ピンク色の瞳を持つ儚げで庇護欲の唆る容姿は彼の好みドストレートだった。
(最近、気が強いのやら、やたら引っ付いてきてウゼェのが多かったしな)
少年はロナルド・アンモライト。
勇者のジョブスキルを持って生まれた転生者だ。
聖女マリエが異世界転移する際に、運転していた車が無人となり、暴走した車に轢かれて死んだ青年。それが彼の前世だ。
そんなロナルドは転生してからやらかしていた。
幼馴染の母親と淫らな行為に耽ったり、学園で近寄ってくる女子生徒たちと身体だけの関係を結んだりと好き勝手やっていた。その結果、幼馴染と自分の家族が村を追われようと、彼には現実味がなかった。
ロナルドの中で家族とは、前世の両親であり、この世界の家族はそうとは思えなかった。
——この世界はどうせ夢のようなもの。
ロナルドはそのジョブスキル故か、この世界で特に危険な目にもあったことがない。厳密に言えば、恐怖を恐怖と感じたことがなかった。
それ故にいつまでも、彼の中でこの世界は『現実』にはならない。ただ、チートな能力を使って、ゲームのようにレベルアップと身の回りの女の攻略を重ねていく。
それも少し食傷気味だった。
そもそも、彼の好みは儚げで、愛らしい、守ってあげたくなるような女の子だった。
イベリアも、最近側にいるイオも、それには当てはまらない。
神に力を与えられ、『特別』になった彼は慢心していた。
だから、全てが自分の思い通りになると思っているし、実際になってきた。
だから、愛らしい少女が罠だと気がつけなかった。
ロナルドを見つけて、控えめに微笑む少女に近づこうとすると、少女は背を向けた。
よくわからないまま、けれど惹かれるようにロナルドは少女を追いかける。
たどり着いた先はあまり人が来ない教室だった。
思いの外、積極的な女だ。そう、少しだけ残念にも思いながら扉を開いた。
「久しぶり、ロナルド」
ゾッとするほどに美しく成長した幼馴染がそこにはいた。左右に少年が二人立っており、先ほどの少女は幼馴染のすぐ隣の椅子を引いていた。
「は、何だ。今更恨み言でも言いにきたのかよ、ハロルド」
「別にそんなつもりはなかったんだけど……言って欲しかった?」
意地の悪い笑顔だった。
思えば、昔からどこか大人びて、油断ならないやつだった。それでも、自分を誘き寄せるのに女を使うやり方は『らしく』ない。
「まぁ、いいか。俺はあなたに誘いをかけにきただけだし」
「誘い……?」
怪訝そうな顔をしたロナルドに、ハロルドは凄絶なまでに冷たく、けれど神々しいほどに美しい笑みを向ける。蠱惑的で、目を離せないその姿に、彼は思わず後ずさった。
「本物の、英雄になるつもりはないかな?」
そして、勇者というジョブスキルを持ちながら、そう呼ばれる機会を与えられることがなかった少年への餌が投下される。
それは、それは……甘い蜜のような優しい声音だった。
ちなみにロナルドはペーターのことなんてすっかりぽんと忘れてたりする。マジで興味ないので。




