27.英雄願望者1
本来ならば家に引きこもっているべきなのかもしれない。
だが、ハロルドは黒幕である男をさっさと捕まえて、普通の、ゆっくりとした生活に戻りたかった。友人も婚約者も動員されていて、しかも何かわからないが子を奪われて嘆き苦しむ動物(?)がいる。かなり不快だ。
そこでハロルドは考えた。
——英雄が必要なら、英雄を作ればいいじゃないか。
かなりぶっ飛んでいるし、身勝手ではあるが、ちょうどなりたい人間がいるのだ。向こうには迷惑をかけられたこともあるし、利用しない手はない。
一方で辞めるべきだと理性が叫んでいる。けれど、そう思うたびに頭の中で吹雪のような音が聞こえてそれが掻き消えた。
学園に登校すると、ブライトにちょっとしたお願いをして着替えさせた。ちなみにブライトは割と乗り気であり、婚約者であるエトナ・オパルスは「正気ですの?」と呟いた。
「呼んでくるだけでしたら、わたくしが行っても良いのですよ」
「エトナ。君さぁ、僕たち二人とも好き好んで好色暴君のところに女の子送り込むような外道にしたいわけ?」
「その肩書きだけで崇高な人間だと思うと、酷い目に遭うよ。その点ブライトは殴れば全てが終わるから」
「それ、終わるの意味が違いますよね?」
もちろん、御臨終という意味である。そのツッコミを聞いてもハロルドとブライトはとても良い笑顔であった。
「エトナ、じゃあもう帰って良いよ。ローウェル様も迎えに来てるだろうし。あ、アクセサリーは帰りに返しに行くよ」
「はいはい。わかりましたわ。代わりに……忘れないでくださいましね?」
「もう!大丈夫だよ。ねぇ?ハロルドくん」
「ああ、数日で手に入るとは思うけど……あんなものでよかったのかな?」
「ええ。弟にはどうしてもそれが必要でしたので」
にこやかなエトナはそのまま機嫌良く帰って行った。
「ブライトも嫌なら嫌って言って良いんだよ」
「え、別に嫌じゃないよ。女装が僕ほど似合う男なんていないでしょ。というか……身の回りで僕以上に可愛い女子居なくない?僕ちょー可愛い〜!!」
「うっっっざ!!」
鏡に映る自分を見て自画自賛しているブライトにローズがそう吐き捨てる。リリィは「ウチらの方がかーわーいーいー!」と主張しているし、ネモフィラも「不服」と言いながら腕を組んでいる。
「やっぱり僕ってば、いっぱい可愛い〜!!」
「ブライト……」
ハロルドも自分で頼んでおきながら何とも言えない顔をしてしまった。
絶対嫌がられるだろうと思っていたのに、彼は嬉々として頼みに応じてくれた。
しかし、嫌がる友人に強要するわけにもいかないと考えていたので、ホッとしたのも確かだ。
「まぁ、見てなって!これだけ可憐な美少女っぽい僕に不可能はないよ」
パチンとウインクするブライトに一抹の不安を覚えた。
(まぁ、でもブライトなら襲われても拳で解決できるし)
今のブライトの姿はおそらく彼のストライクど真ん中だろう。
誘い出してから後の段取りを考えながら「うん、ありがとう」とお礼を言った。
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