26.リリィのおつかい
捕まり、拘束されたユリウスは尋問を受けていた。助けに向かったというのに、彼の主はユリウスのことなど何一つ覚えてはおらず、それどころかオブシディアン辺境伯家の人間を傷つけたと敵意を向けてきた。
忘れられたユリウスは茫然自失する。
「あーら、落ちぶれたものねぇ?」
牢にクスクスという笑い声が聞こえる。彼は突然目の前に現れた愛らしい妖精を見る。その目は虚で澱んでいる。
「お前は、神子の」
「ふーん、覚えてたんだぁ?」
その瞳は、明確にユリウスを見下していた。
くるくるしたツインテールの髪と淡い黄色の翅。少女の姿をしたそれはこのエーデルシュタイン王国の神子、ハロルドと共にある妖精リリィだ。
「今日はぁ、色々聞きに来ちゃったぁ」
語尾にハートでもつきそうな甘ったるい声に、ユリウスはボーッとする。
彼は己が目でその凶悪さをみている。少なくとも神子ハロルド本人と違って人の命に配慮するような存在ではない。それに思い至ってなお、ユリウスは意識がハッキリしなかった。
それくらい、彼は己が主に『忘れられた』ことに対してショックを受けていた。
「おい、何とか言えよ!腐れ竜騎士ぃ!!」
バシン、と思ったよりも重い音がした。
リリィは強化した手で容赦なく引っ叩いていた。そもそも、ハロルド以外にかわいこぶる必要も、手加減する必要もない。
「テメーの可愛いご主人様が遭難してたのを助けたのはハルなんだから、ちょっとくらい役に立てよ」
ドスの効いた声音の中にデイビッドに関する情報を見つけて、ユリウスはようやく頭を上げた。その様子を見てリリィはニタリと口角を上げた。
「お前は、何を知っている」
「ハルが知ってることならぁ、だ・い・た・い?」
ユリウスはハロルドの能力と、現在いるであろう地位に考えを巡らせる。
取引をする価値があるか、回らない頭で考えて「お前は何を知りたい」と呟いた。
「フォルテ様に神罰落とされた間抜けが、どうやってハルのこんな近くに来れたのかとか、今回やらかしているヤツの狙いと正体かしら?言っとくけどぉ、嘘ついたらあの子、ぶっ殺すわよぉ?ウチはハルと違って平和主義じゃないもの」
そんなことを言うリリィに納得してか、ユリウスは話出す。
ユリウスにとって、大事なのはデイビッドであり、それ以外はどうでもいいものだ。リリィにとってはハロルド以外がどうでもいいのと同じように。
ユリウスの捕まっている牢。その小さな窓に、青髪の妖精がいた。通信はハロルドの方に繋がっている。
「前もいた、あのドラゴン。どうする?」
【この件が終わるまで動けないように眠らせておこう。そちらは頼んでいいかな、ネモフィラ?】
リリィは聞かれていないと思っているが、ハロルドは彼女が思っているほど優しくない。数多の厄介ごとに巻き込まれているせいだろう。
「殺す?」
【いや、ドラゴンが悪いわけじゃないから。生活のためでもないのに動物傷つけるのって気分悪いし】
「りょ」
了解の略だろう言葉を最後に通信は途切れた。
ネモフィラは「悪いハル」と言いながら少しだけ楽しそうに飛び立った。
——計画とは、意図せぬところから崩れるものだ。
リリィはだいぶお口が悪い。
でもハロルドは「ユリウス相手ならリリィでもいいだろう。まぁ、だって犯罪者だし。リリィもおつかいやりたがってたし」と今回派遣した。
多分、話終わるまでにボコられてる。リリィちゃん気が短いので。




