25.妖精たちへの贈り物
辺境伯家に襲撃があったという知らせに、ハロルドは渋い顔をする。
その犯人がユリウス・オルカであると聞けば、なおさら。
吹雪の中、国を出るのはドラゴンであっても厳しいと聞いていた。神罰を落とされたうちの一人であれば尚のこと。
(捕まった、って聞くけどなんだか……まだ嫌な感じがするな)
何らかの思惑が絡み合っている感じがして、気持ちが悪い。
そもそも、ユリウスがこの国の内情を……それも、彼らマーレ王国民が雪に閉じ込められてから、辺境伯爵家に保護された一人の少年の存在を知ることは難しい。情報を意図的に漏らしている人間がいるのだろう。だが、そんなことをするメリットが思いつかない。
デイビッドが高貴な人間である可能性は確かに聞かされていた。だが、彼は記憶が全くない。自分がどのような立場か、なんてわからないはずだ。もしそれが偽りであったとしても、自分を窮地に陥れることなんてあるだろうか。
そうなれば辺境伯家、もしくはデイビッドに近い人間の仕業となるが。
(利点がどこにある。彼が狙われているというのなら、俺と彼で人員が分散されることくらいしか……いや、突入したのはユリウス一人。それは利点にならないはず)
「神子様、何か気にかかることがお有りですか?」
考え込むハロルドにシャルロットが声をかけた。
昨晩の騒ぎに関する報せを聞いてから、眉を顰めている。
「デイビッドは記憶がない。だから、彼の身の上がどういった経緯で耳に入ったのだろうか、と少し気になっただけです」
「平民としての枠で入ってきているのにあれだけ品があって、勉強ができれば『事情がある高貴な人間だ』くらい俺たちにだってわかるよ」
ペーターは欠伸を噛み殺しながらひょっこりと現れて、そう話した後、「おはよう」と笑みを浮かべた。
「それはそうだけど」
「噂と身体的な特徴くらい、すぐに広まるよ。だって、Fクラスのメンバーって、大概冒険者活動かアルバイトしてるじゃない」
そう言って肩をすくめる、噂と身体的特徴を広めた張本人。ハロルドの前では可愛い弟分の顔をしているが、友好的に接する相手を簡単に囮にしてしまえるあたり、頭のネジがぶっ飛んでいた。
言い訳もハロルドが苦笑して「まぁ、確かに」と思えてしまうものを用意していた。ルアが胡乱な目を向けているのが若干気にかかるハロルドだが、彼にしてみればペーターは問題は確かにあれど素直ないい子だ。信用した。
「けれど、その竜騎士が此度の黒幕というわけではございません。この国に来た経緯を含めて捜査する必要はあるかと」
シャルロットの言葉に少し考え込んで、ハロルドは「リリィ」と妖精の名前を読んだ。
リリィは楽しそうに「なぁにぃ?」とハロルドのカップの上に座って足を組む。首を傾げて微笑む姿が様になっている。
「お願いがあるんだ」
「ふふ〜ん!ウチに頼むなんて、見る目あるじゃない」
得意げなリリィはその先を促すようにハロルドを見るけれど、彼は「その前に」と妖精たち全員を呼んでその前に宝石箱を置いた。
「俺からみんなへの贈り物だよ」
その中にあったのは小さな小さなアクセサリー。妖精サイズのそれを見て、妖精たちは瞳をキラキラと輝かせた。
「こんな細かい細工、良く手に入ったな」
「作りました」
「作った!?ハロルド、お前はどれだけ器用なんだ」
アイマンがそう感心するのをよそに、彼女たちは自分の名前の花がついた髪飾りを楽しそうに身につけていた。ルアとルクスは色違いのブレスレットをつけている。
「魔石の加工技術の習得もできたので、なかなか良い試みでした」
「ということは……もしかして、これは魔道具なのか?」
「はい。一定の相手と通信ができるようになっています」
ハロルドの言葉に言葉が出ないといった様子のアイマン。その様子を気にすることなく「現状、この子たちとしか繋がらないので、そのうち人間同士でも連絡が取れるようにしたいんですけど」と続ける。
「ハロルド、なんで妖精たちとしか繋がらないの?」
「彼らと俺は加護や色んな要素から魔力的に繋がりが大きいんだ。だから彼らと同じ魔石を身につけることで言葉を伝えることができる。けど、人間同士にはそんな繋がりはないからね。教会の貯蔵物の中には通信用の魔道具があるって聞くから確実にそちらの品の方が性能が良いね」
普通の人間に使えるものではないと知ってペーターは肩を落とした。
しかし、シャルロットは「それでも、神子様と妖精の皆様が協力すれば大きな力を持つのではありませんか?」と問う。
「そうですね。彼らに情報を集めてもらって、色んな悪いこともできるかもしれません」
「んー、でも面倒よねぇ?」
「ボク、そもそも離れたくない」
「ハルは僕たちを、そんな道具のように使ったりしませんし」
各々が、ハロルドに何かが起こらない限りそんな心配は杞憂だと笑う。
しかし、その懸念があることが問題なのだとシャルロットは思う。ハロルドの力は強い。神からの愛がそのまま力となって、彼の身を守ろうとしている。
(どうしても欲深い己の考え方でしか、人を判断できぬ輩は存在する)
近くにいればこそ、その人柄はよく分かる。多くを望まず、慎ましやかで、身の回りにいる人間を守りたいと苦心する普通の男の子。
だが、神をも惑わす、世界を傾ける可能性すらある少年だと考える人間も現れるだろう。
「……力の使い方には、どうか慎重になっていただくことを進言致します」
「あー……うん。厄介ごとが元気よく近づいてこなければ是非ともそうしたいです」
ハロルドは大変困ったような顔をした。
懸念はわかるけれど、手を打たなければ危なそうな出来事があまりにも多すぎるのである。
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