王子の失速
今回はバルカ王子視点です。
いつもより文字数が少ないです。
「どうしてだ。なぜ、だ!」
今日も、バルカ王子は憤っていた。
あの怪しいローブの女、ミファを仲間にしたのはいいが、全然上手くいかない。
バルカ王子を支持していた貴族も、次々と第二王子派に寝返っていく。聖女の力に目覚めたという、ミルアナを使おうにも、使えない。
かすり傷を治す程度では、数多いる貴族に恩を売ることができない。
「何を悩んでいるの?」
「……これでは、俺の王太子の地位が。どこかに、都合のいい聖女がいないのか」
「都合のいい聖女ね」
ミファが考え込むと、すぐに顔を上げた。
「いい案が思い浮かんだわ」
「なんだ、そのいい案をいえ!」
「あなたが追放した聖女、セラを使えばいいのですよ」
「あの女をか」
「ええ」
バルカ王子は、一度は追放したセラを呼び戻すことには抵抗しかない。
かなりタイミングを見計らって追放したので、呼び戻したらまた元通りになるのでは、と不安だった。
「いい案よ。この石を使うの」
ミファが取り出したのは、透明な宝石だった。丸く、内側から澄んだ光を発光している。
「これを使えば、セラの治癒術を奪い、あなたの新しい婚約者のミルアナに授けることができるわ」
「そうか、これを使えば」
渡された宝石を、透かして見る。
「お前は使える女だな」
「あら、嬉しいことを言うわね」
バルカ王子の賞賛を容易く受け止め、ミファは頬に手を当てた。
「バルカ王子、その女は誰ですの!」
「……ミルアナか」
誰も入れるな。と言っていたはずの部屋に、婚約者が入って来る。
ミルアナは目を見開き、ミファを凝視している。
「その女は誰ですの!」
「あら、私のことお忘れで。あなたには、力を貸してあげたでしょう?」
「力って」
吠えていたミルアナは、みるみると顔が白くなっていく。
「あ、あなた……あの時の」
「ええ、思い出してくれたようね」
ミファがうっそりと笑う。
「何だ、お前たち。知り合いだったのか」
「ちがっ……は、はい」
違うと言おうとしたが、ギロリとミファに睨まれ、口を噤む。
「ええ、昔助けたことがあるのよ」
「ほう、そうだったのか……おい、ミルアナ。このミファは、俺の協力者だ。改めて、仲良くしてくれ」
「……はい」
バルカ王子には、不正をして治癒術を使えるようになったとは、言っていない。バレたら終わりだ。
だから、どんなに悔しくても、ミルアナの秘密を握るミファの前では何も言えなかった。
「そうか、よかったよかった」
バルカ王子は、ミルアナの気持ちに気付かず、ただカラカラと笑っている。
「お、王子。私たち、婚約者のままですわよね」
「そうだが、何を言ってるんだ。俺は、お前一筋だぞ」
「まぁ……私、信じているわ」
信じなければ、ミルアナには後がない。
王子に見放された偽聖女の行き場所なんて、どこにもないのだかから。
ミルアナは少し前までは、栄光が見えた場所が薄暗くなって見えた。
逃げたくても、今のミルアナでは逃げる能力も頭もない。ただただ、破滅に向かう部屋の中で、ジッとバルカ王子を見つめることしかできなかった。




