弥生くんと鬼空の間に何があったのか
鬼空がバッサリ長い髪を切ってしまった。
そこには、しきりに謝り続ける弥生くんの姿があった。
健太が聞いても寿樹が聞いても答えてくれない、 二人は何か隠している。
そんな、二人の間を ほんの少し過去に戻ってみた。
BGM:♪[かごめ]優里
弥生くんと鬼空は、やけ酒と言い二人で飲んでいたらしい。
「なんだよ、健太の奴、今まで俺が下の世話までしてきたってのに。寿樹が告ったらあのざまだ。おなかの子供は赤城家のだっつってんのに、お構いなしで寿樹とデートしてきやがって……。」
「くぅちゃん飲み過ぎですよ。それ日本酒でしょ?」
「あん?……日本酒とはこうやって飲むもんだ。」
といって御神酒用の一升瓶を片手にラッパ飲みをする。
口元から、ガバガバ日本酒がこぼれて胸をはう。
「あぁ。それ、間違ってますよ。」
弥生が、タオルを持ってきて拭こうとする。
白衣の襟元を拭こうとした手が鬼空に掴まれた。
「俺のテリトリーに入って来るな!」
弥生は手を抑えられて、拭きたくても拭けなくてそれが今の自分の気持ちと一致した。
「くぅちゃん、オレくぅちゃんの事、好きです。」
鬼空は弥生をうつろに見た。
「ちゃんと言います。鬼空さまが好きです。付き合って下さい!」
「……。」
鬼空は笑った。
「おまえが好きなのは、この髪だろう?毎日、毎日バカ丁寧に時間かけてとかしやがって」
鬼空は自分の髪を前に持って来たはずみで髪結がほどける。
サラサラ散らばる黒髪を見つめて、膝の上で拳を握りしめる。
「健太さんには優しいです。オレも同じにして欲しいです。そしたら、ずっと側に居ますから、裏切らないでずっとお側に居ますから!」
裏切るという言葉にピクッとなる鬼空。
健太に裏切られる?
「裏切られてねぇ!勝手な解釈してんな!」
一升瓶を置いて、それにもたれ掛かる。
「失恋したんですよ。」
「俺は男だぞ。」
「いつまで、そう思っているんですか。身体は変わってるんですよ。」
もはや、弥生がそう喋ったかもわからない。
意識がもうろうとしていて、それも、そうかと考える。
いや、弥生の言っている事があっているのかもしれない。
自分は今の気持ちに気付いてなかったかもしれないと。
弥生に目をやる。
「おまえ、何て言った?」
「え?好きって言いました。」
「そうじゃなくて!」
まだ、22、3の若い青年だ。
普通に彼女を作れるのに、何故にDSD疾患者を選ぶのか?興味津々だけなのかもしれない。
ある意味、若者にはこの「性」が新鮮に映ったかも知れない。
「この青二才のクセが」
鬼空の日本酒で濡れた胸元がべとつき、弥生の持ってきたタオルをぶんどって自ら拭く。
襟元を開けて平気で拭くから、弥生がそれ見て少し恥ずかしそうに眼をそらす。
「なんだよ、弥生。おまえは俺の何処が好きだって言うんだ?こんな可笑しな身体のどこが好きになれる?」
鬼空は白衣の襟を降ろして上半身を露わにした。
細身ではあるが、女性とは思えない胸板。肩幅があってどちらかというと逆三角形に近かった。
弥生の驚く顔が見たかった。
しかし、弥生は驚く顔はせず静かに顔を伏せて
「わかりません。すみません。好きに変わりありません。」と言った。
鬼空はイラ付いた。
「あぁ、わからねぇだろうな。そんなんじゃ問屋は卸さねーよ!」
ぬぐったタオルを弥生に叩きつける。
弥生は小さなため息をついた。
鬼空が畳みに横になったまま 動かなくなった。
「しょうがない人だなぁ、こんな所で寝ちゃダメじゃないですか。」
弥生の酔いもMAXになっていた、鬼空の散らばった髪を取ると、自分の顔へ持って行き、匂いを嗅いだ。
「好きです……。」
健太は俺の身体を見て、「胸の大きさとか、そんなの気にしない。鬼空のその胸板も小さなお尻もスラッとした長いモモも好きだ」と言ってくれた。
異性として意識した事は無い。友達……。友達以上。なんでも話せて、気が楽だった。時にホルモンバランスが崩れて我を失った事があったとしても、殴りかかって行ってあいつは俺をしっかりと受け止めた。殴られても俺を嫌いにならなかった。きっと俺がどんなに健太を殴ろうと酷い目に合わせようと、あいつは俺の心の底の方ばかりを見て、耐えているんだろうな。
何が、そうさせるのかわからない。あいつはそういう奴だ。だから、俺は寿樹を叩いた。健太を廃人にした寿樹を叩いた。あれだけ寿樹に気持ちをぶつけていたにも関わらず、寿樹は好きでもない男の所へ嫁いだ。それを知った健太は心を痛めた。しまいに耐え切れず記憶を押し殺してしまった。脳の病気なんかじゃない!全て後付けだ。脳の病の前に健太は寿樹の事で十分に心を痛めていたんだ。
俺が後頭部ぶつけさせたとか、小さな発作の積み重ねがとかてんかんの原因を指摘するが、いまいち症状と一致しない。本当の原因は寿樹だと俺はそう思っている。
朝、起きると弥生が食卓に居て朝食の準備をしている。
それから、鬼空は髪結を弥生にやってもらうため場所を準備室へ変えた。
弥生に時間は短くしろと言っているのに いつになく、両手で髪をすくい櫛で丁寧にとかしてゆく。
「だから、それが遅いんだっていってるだろ?」
「昨日、何があったか覚えていますか?」
弥生は人の話を聞かないで言った。
「何がって?お前は覚えているのか?」
「覚えてますよ。くぅちゃんに告ったこと。」
「あ、それ却下したろう。」
「くぅちゃんは、ちゃんと受け入れてくれましたよ。」
「は?」
眉間にしわを寄せる鬼空。
「キスをしたら、ちゃんとキスし返してくれましたし、」
なにを言っているんだと考える鬼空。
「半分寝ぼけてたのかな?俺を抱きしめてくれました。」
「そんな記憶はない。」
「それから、好きって言ってくれました。」
「おまえこそ、何を根拠に!?」
「ウソじゃないですよ。」
鬼空は怒りに満ちた目で弥生を見た。
「だから、飲みすぎだって言ったのに……。」
その時、弥生の美容道具から大きなハサミを取り、鬼空は自ら髪を引っ張ってジョリっと音を立てた。
弥生が あっと見ているうちに髪は弥生の額に当てられ、次にまたジョリっと音を立てた。
「止めて下さい!ウソです!ウソつきました!」
「何故、そのようなウソをつく。」
「鬼空さまが健太さんには優しいので……。」
弥生は髪を握りしめて、泣いた。
「もう、わたしに髪は無い。お主の仕事も無い。」
「あぁ、スミマセン。」
弥生の中でも 大それた事になったと思った。
御師である長髪を、今しがた切ってしまったから。
これで、御師の仕事が出来なくなたらどう責任を取ろうかと、青ざめた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
涙をぬぐって、髪を拾い集める。
集めたところで 髪が戻る訳なかったが、なにかとても大切な気がした。
その時、ちょうど寿樹さんたちが入って来たのだ。
そんなこんなで、鬼空に調教された弥生は少し大人しくなり、鬼空の言うことを聞く様になった。




