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健太の日記  作者: 蔓草登上
96/111

健太の幸せ鬼空の失恋

挿絵(By みてみん)



BGM:♪[踊]Ado


 次の日の朝

食卓に集まるみんなの声から


「健太さん落ち着きましたね。」


「なんか、表情が緩んでる。」


「いいことがあったんですよ。」

何も知らない弥生やよいが核たることを言ったので皆が考える。


「あれ?弥生ってなんでこの時間いるんだ?」


「昨日、泊めさせて頂きました。健太さんの帰りが遅かったので、夕飯の準備手伝ってたでしょ?」

そういえばそうだった。


「昨日、飲みすぎですよ。」


鬼空は昨晩、健太から聞いていた。


 健太と寿樹が検診後にデートしてきた事を、そこで寿樹から本当の気持ちを話してもらえて、健太はこの上なくハッピーなんだと、それはそれで良かった。

良かったハズなんだが、鬼空にモヤッと渦をまくものがある事に胸が重くなった。


おかしいな、健太が幸せでいいはずなのに、それで終わりのハズなのに……。


 今まで面倒見て来たのに、全部を寿樹じゅきに持って行かれた気がした自分が嫌なのか、単純に面倒みてきた健太にあっけなく忘れ去られてるのがモヤるのか?

よくわからない感情を酒を飲みながら弥生にあたりながら、昨晩は眠ってしまった。



だから、弥生が泊まっていた事に気が付かなかったのだ。



「なんだか知らんけど やけ酒だーって言って飲んでましたよ。」


「おまえな、ずーずーしくも、なんで泊まってるんだ。」


「夕飯手伝いから、弦賀つるがさんに泊まっていくように指示というか許可もらいました。」


「弥生君は、家で自炊の一人暮らししているそうですよ。晩御飯も美味しかったでしょ?」


弦賀が助かったというように鬼空に言う。


「あぁ、どーせわたしの飯はまずくて食えないですよ。」


「鬼空さまちょっと料理が雑なんですよね。」


「それは料理に向いてないですね。」


鬼空が聞いていてムカムカしてくる。






 「松ぼっくりの木の下のキツネがね、なんと!子供がいてね!」


「家族ができたか」


「そう!寿樹みたいに子供が出来てた。」


健太が、寿樹が居なかった間のキツネの話をしている。


仲良く参道のゴミ拾いをした帰りに寿樹が顔を濁した。


「おかしいな」


寿樹が言う。


「この時間なのに、鬼空の姿をまだ見ない。」


見ると 本殿ほんでんも 幣殿へいでん も 拝殿はいでん もシーンとして人の気配が無かった。




「昨日、飲み過ぎたって言ってたから、二日酔いで倒れてたりして」


健太が言うが、寿樹はそれに応じなかった。




 準備室から声が聞こえて来た。


二人は覗いてみると、鬼空と弥生くんの争うような感じで、部屋には黒い紐が散乱していた。


寿樹が慌てて、部屋へ上った。僕も続いて上がった。


よく見ると、散乱した黒い紐ではなく、黒い髪の毛だった。


鬼空を見て寿樹が声を上げた。


「何てことしているんだ!」


健太が見ると、その先に髪をバッサリ切り落とした鬼空が立っていた。


まさか!


なんで!?


大事な、髪を!?


「これって……。」


健太が口に出す前に寿樹が言った。


「おまえ、御師おんしを降りる気か!?」


やっぱりといった感じで弥生くんが寿樹を見上げる。その瞳は真っ赤に充血しており、無表情だった弥生くんらしくなく涙で潤んでいた。


「ごめんなさい。」


弥生が謝っている。


「どういう事?」


健太がどーなってるのか聞く。


「こいつが髪が好きだというから くれてやった。」


鬼空が怒りながら、弥生を見下ろす。


寿樹が事態を把握しようと黙って見ている。


「ごめんなさい。」


弥生くんは謝ってばかりだ。


「おまえの好きなモノはくれてやった、今後一切俺に触れるなよ!」


出て行く鬼空を寿樹が追いかけて事情を聴こうとする。




健太は、弥生くんを慰めた。


「謝ってばかりじゃわからないよ。何があったの?」


弥生は顔を背けた。








 弦賀が鬼空の髪を見て驚いた!


「どうなさるおつもりですか!?」


髪を切っては御師おんしが出来なくなるので、みんなあたふたする。


「髪くらいなんだ!!長いも短いも坊主もみんな御師おんしには変わりあるまい!!髪方が変わったくらいで何をそんなに慌てるのだ!!」


弦賀が、ゆっくり口を開けた。


「まぁ、中性的を出すために長髪にしていたというのもあります。髪は霊力が宿ると昔から信じられていましたが、今やその考えも薄れてきました。鬼空さまがそれで御師を続けるというのであれば、我々は従うしか有りません。」


寿樹もうなずいた。


「それ以前に、何があった?」


鬼空に聞く。


「もとはと言えば、弦賀が弥生を泊めるからだぞ。」


「?」


「もともとは、寿樹!お主が健太と遅くまで楽しんでおるからじゃ!」


「どういう事だ?」


「……。おまえらのせいだ!!」


鬼空はその場を逃げて行った。




「ホルモンバランスが崩れましたかね?」


「かなり、情緒不安定だな。…………痛っ」


寿樹がお腹を痛がった。


「まだ安定期に入ってないのは寿樹さまの方ですよ。」


弦賀が、腰を摩る。


「痛みが出るのは、完全に抹消されていない睾丸のせいでしょうね。出産は帝王切開になるかも知れませんよ。」


「わかっておる。母はこれの双子を産んだのだ、どおって事ない。」


「お強いですね。」


弦賀はしきりに腰をさすった。






 夕方、寿樹が寝床へ入るのを確かめてから寝る健太。寿樹は健太の手を取って言った。


「自分の子の様に 大事に扱うな。」


「うん、寿樹のお腹にいる子だもん。」


「どうした?健太、浮かない顔して。」


「……、鬼空が髪切ったでしょ?そのあと弥生くんに話を聞こうとしたら、貝みたいに口を閉ざしちゃってさ、なんだか気になって。」


「あぁ、それを言えば、鬼空もわたしに何も相談してくれなかったな。」


「やっぱり?寿樹と僕が幸せになると、鬼空と弥生くんは不幸になってる気がする。」


「…………それは、あれだな。」


「?」


「嫉妬という奴だ。」


「嫉妬?」


その時の健太にはまだ良くわからなかった。


仲良くしているのが ただ、羨ましいだけかと思っていた。






次の日、


「ほえー!!あのイケメン誰ですか?」


健太が朝から叫ぶ。


食卓を目の前にして、長身で奇麗な顔をした男性がそこには居た。


「オレがカットしました。」


弥生やよいが自信ありげに朝食の席で言う。




 昨日の晩、髪をカットし直してくれていたらしい。


何度も紹介するが、弥生くんは美容師のタマゴで、真正家しんせけで実務日数を稼いでいる。


鬼空は時間がかかるから いらないと断ったのだが、研修生の為において欲しいと美容師、野菊のぎくに無理やり頼まれたのだ。


「俺は俺のやり方で、御師をやる!」


朝のパンを食みながら、みんなに宣言する鬼空。言葉も男口調になっていた。


御師おんしを男としてか?」


寿樹が聞く。


「俺の体は女になろうとしている。」


もぐもぐ朝食のパンを食べながら答える。


「髪切ったから 男らしくなってるよ。」


健太が口を挟む。


鬼空は立ち上がった。


「俺が男だっていうもんなら、身体見せて証明してやらぁ」


「見せなくていいよ。」


健太が困った様に言う。


「見せてはいけない。」


とすかさず寿樹が言う。


「空ちゃんオレとおんなじ髪型っしょ?」


空気感の違う弥生が言った。


「くぅちゃん?」


「人を気安く呼ぶな。」


怒る鬼空。


「くうちゃんそれ、似合ってるよ。ていうか何故か鬼空のイメージにピッタリだったりする、その髪型。」


健太が乗っかって”くうちゃん”呼びをする。


「だろう? 俺はずっと前から短くしたかった。」




これが、まさかコロナ期でもあるのに 爆発的に人気が出るなんて 今の朝食メンバーには想像も出来なかった。












 「ホラ、やっぱり御師おしさまは男だった。」


「ショートヘアの女性としても カッコいいわ。」


訪れた女性から口コミで広まった、女性陣が日に日に数を増やしてはやって来る。




「これって参拝なんですかね?」


御師おんしを一目見ようと 訪れるのは ある意味参拝。」


弥生と健太は 参拝客に 距離を空けて ご参拝下さい。と声を掛け続ける。




この騒ぎにやって来た 茂沼竜也しげぬまたつや


「なんだんべ、この人数は……。」


御師おんしが髪を切ってから こうなりました。」


「へぇー。元々女性信者が多かったが、これほどまで膨らむとはな。」


「そうですね。」


「コロナ期で、みなどこ行く当てもなく 無名な神社ならと参拝に来たんだろか?これ。」


「そうだと思います。」


「側近さま 忙しかったら、オレがここを見といたろか?」


「本当に?それは助かる!」


健太はここの列を弥生やよい竜也たつやに任せて、自分は弦賀さんと コロナ感染者宿坊の昼食配布へと周った。






「いつになく、感染者の数は無くなりませんね。」


弦賀と弁当の数を数えながらこの行く先を案じる。






茂沼竜也の誘導のおかげで、若い女性たちは 竜也に追われて キャーキャー言いながら 逃げていった。




「なんで逃げんだ バカどもが」


「竜也ありがとう、蜜を回避してくれてありがとう。」


御師おんしさまは 男じゃねっつうの!な、側近そっきんさま。」


男の目には女性として映り、女の目には男性として映る、代々御師のカリスマ的姿を思い知った。


竜也はポンと健太の肩を叩いた。


「回復して良かった、側近さま。」


健太と竜也は 何故だか仲が良かった。




臨時で働きに来てくれている望も、健太が自分を思い出してくれたことに喜んでいる。




やっぱり、みんな好きだ。


皆いて 幸せなんだと 嚙み締めた健太。




その時、電話がかかって来たと 巫女の望から声がかかり、電話を代わる健太。


電話を置くと、鬼空の方へ駆け寄った。


「鬼空にテレビ局から取材の申し入れが来てるよ。」


「断れ。」


「いつもの人からも来てますよ。」


「そこだけでいい。」


鬼空は、信用ある人からの取材しか受けていなかった。


健太はそれでいいと思った。


端麗たんれいな容姿に最初は火がついても、その後のねたみ・中傷ちゅうしょうを恐れたからだ。


人間って、切っても切れないモノがあるよね、愛の裏側には憎悪があったり、人気の裏側にはねたみ・嫉妬しっと…………、嫉妬。


ポン…と胸を衝くものがあった。


弥生くんの態度。鬼空の髪切り。


その前に 僕の復活と寿樹からの告白という幸福があった事に気が付いた。




嫉妬、妬み……。


もしかして、鬼空は 僕をねたんでいるのか?弥生くんも?




足元が崩れていく音がした。


幸せだと思っていた 土台が 崩れ落ちて行く音がしたのだ。



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