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健太の日記  作者: 蔓草登上
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GoTo紅葉・温泉・イルミネーション 後編

挿絵(By みてみん)

 寿樹じゅきはトイレの個室でこもっていた。


自分がこんなにも健太を欲しているなんて気づかなかったからだ。


抱きしめられて、身体からだが冷えから妨げられる以上に、心がゆるんだ。


温かなほほを寄せられて、健太のニオイと覚えのある声、よい記憶と一緒に走馬灯そうまとうのように駆け巡った。




トイレの個室で、口を閉ざして、声をかき消すかのように泣いた。




 健太が「好き」なんだ。


ずっと認めず、健太にひどい事をしてきた。


その報いだ。天罰てんばつだ。


あぁ、なんて胸が張り裂けそうなくらい痛むんだ。




頬を伝っていた涙が 氷の柱の様に顔にくっついている。


その上を熱い涙がとかすようにまた流れる。


とめどなく流れて来る熱い涙。



健太の想いを受け入れなかった罰だ……。








105号室


帰るべき部屋はわかっていた。ミキが酒を飲んで騒いでいる声が外にれていた。


入りずらいので、ロビーのソファーに座って時を重ねた。


トイレの寒さに比べたらここの方が断然楽だった。




「あっ!こんなところにおられた。」


ミキの酒の買い出しに来た弦賀つるがが 寿樹を見つける。




「健太さんとはお会いにならなかったのですか?」


「なに!?私はずっと トイレに居た。」


「それじゃあ、見つかりませんね。」


「健太は、わたしを探しに行って戻ってないのか?」


「健太さんには 一人で戻って来れますよとお伝えしたのですがね。どうしても自分が手を放してしまった事に責任を感じたようで。」


寿樹が立ち上がったので、


「あ、ダメですよ!今出いったら行き違いになってしまいます。わたしがスマホで健太さんと連絡とりますんで。」


「そっか、わたしはスマホを携帯する癖が無かった。」


「すぐわかりましたよ。部屋で音が鳴りましたから。」


「何からなにまで すまぬ。」


「いいえ、お身体が冷えた事でしょう。もう一度、湯に入られるといいですよ。」




弦賀の気遣いがありがたかった。このまま部屋には 戻りずらかった。





 湯舟から夜空を眺める。凍り付いた身も心も解けていくようだ。


冷えた頬に手ですくった湯で温める。


健太の頬が浮かんで来て慌ててかき消す。


ハァ


ため息をつく寿樹。


寒かったせいで、心も縮んでしまったのかもしれない。わたしとしたことが、取り乱してしまった。





 105号室はシーンとしていた。


酒に酔いつぶれたミキが倒れ込むように寝ていて、そのすぐ横に弥生やよいも倒れていた。


弦賀が部屋の片付けをしているのを見て


「この二人は仲が良いのか?」


と寿樹が聞く。


「共倒れですね。ここまで付いてきたのですから、弥生くんもまんざらではないでしょう。」


弦賀も弥生の気持ちはわかっているようだ。


「ふむ。」


「ここは、お二人が寝ていますので、お隣の部屋へ行きましょうか?」


酒やツマミでごっちゃ替えしている部屋を後にして、隣へ向かった。




103号室


「健太とは連絡ついたか?」


「はい、スマホに直ぐ出られまして、御師おんしさまの後を追うように同じく温泉で体を温めておられます。もう時期来られる頃です。」




寿樹は、弦賀に健太の今までの症状を聞いた。


「……それでは、切り取られた記憶の部分は 一生戻らないという事か……。」


鍵のかかっていないドアが 開いた。


障子を開けたのは 風呂から出て来た健太だった。


「向こうは電気が消えて 二人とも寝てたから こっちにいるかと思った。」


寿樹は健太の話を止めた。




常識範囲は正常。


あとはどの範囲までの記憶の部分が欠損しているかだった。




深刻な顔をして、見上げる寿樹。


緊迫した空気が健太に当てられているものとは知らない。




「御師さま!無事だったんですね。」


「スマナイ、探しに行ってくれたんだってな。」


「はい、僕が手を離しちゃったんで、」


それは違う。わたしの方が先に離したのだ。


健太の性格は、変わりはしなかった。


「御師さまは心配する事は有りません、昔からシッカリ者でしたから。」


弦賀がいう。


「そ、そうなんですね。僕、知らなかったからスミマセン。」


「知らない?健太はわたしの事をスッカリ忘れてしまったのか?」


弦賀が話が始まる前に 立ち上がろうとした。


「わたしは、先に寝るとしますね。布団の数が向こうなので、あとはごゆっくりしてください。」


「わたしらは、ここで寝ろというのか?」


弦賀はニコッと笑って


「それは、お任せします。」


と言って出て行ってしまった。




弦賀は、変な気を遣わんでいいのに、と思いながらモジモジする健太を見る。


「あ、あの。僕と御師さまで寝るのですか?」


「布団を持って向こうで寝てくればいい。」


「いや、そうすると御師さま一人にさせてしまいます。」


「かまわん。」


「かまいます!」


シーンとする。


「あの、さっきの話しの続きですが。僕が御師さまの事をスッカリ忘れているというのは?どのような事ですか?」




「わたしは、そなたに抱かれていたいと思った。先ほどわたしを探して見つけてくれた時のように。」


「……御師さまそれは、どういう事ですか?あ、あの僕は誰も見てないと思ってつい、御師さまを抱きしめてしまった あの時の事ですか?」


「そうだ、忘れたとは 言わせんぞ。」


「はい。覚えています。……以前、お風呂場で御師さまの裸姿を見てしまった時から、それからずっと……、」


御師を見たり、うつむいては恥ずかしがったり忙しく目を配らせた。


「あの…悪いと思いながらも御師さまを見る度に裸の姿が離れなくて……つい、触りたくなてしまいました。」




寿樹は、健太を真っ直ぐ見た。


ますます恥ずかしがる健太。


「スミマセン。神に仕える身とわかっていながら、出すぎた事をしてしまいました。」


寿樹は残念そうに瞼を落とした。


健太は何度も謝った。


「謝る必要はない!」


御師が激しく言った。




「わたしは既に結婚しているのだ。」


「え!?」


「わたしは御師を一度降板しておる。今は御師の助っ人に来ているだけだ。」


健太の頭が回らないといった感じになった。


「つまり、本当の御師は いつもお主の側におるミキだ。」


「えぇ!!」


健太はオロオロしていた。


「難しくさせてしまったな。」


「いえ。」


「ミキがお主の看病をすると言うのでな、わたしが嫁ぎ先から許しを得て、ここへ来たという訳だ。」


「ミキが本当の御師さま……。そこまで 僕を看病してくれるなんて……。」


恐る恐る顔を上げて 御師を見る健太。


「そうだ。ミキはそなたに惚れている。」


衝撃が走った。


まさか、自分の神仕事を降りてまで、僕の看病についてくれるなんて。


「あの、僕ってどんな、どんな人だったんですか?」


寿樹は一瞬止まった。


「今と変わらんよ。今と変わらず誰にでも優しく、相手をかばって自分をめる男だよ。」


御師おんしさまは、僕の事をどう思ってらっしゃるんですか?」


「え?」


「目の前にいる御師さまです。」


「わたしの名前は 寿樹じゅきだ。」




「じゅ…じゅき!?」




健太が頭を抑えた。




目を見開きある一点を見つめる。




発作ほっさを起こしたかと 寿樹が駆け寄る。


頭を抑えて うなる健太が目の前の寿樹の腕をグッとつかみにかかる。




「ひどいよ、寿樹……僕を閉じ込めて。」


「!!」


腕を握る手に力が込められ痛みが走る。


「痛っ」


みるみる健太が全身を硬直させて、寿樹を掴みながらまるで感電したがごとく全身を振るえさせて泡を吹いた。


「健太!!」






寿樹は隣の部屋の弦賀つるがを呼んだ。


幸い、のどに詰めるモノも無く、呼吸が安定し、意識を失い眠ってしまった。






「わたしの名前に 反応して……。」


「発作を起こしたというのですか?」


寿樹はうなずいた。




騒ぎに起きたミキたちが健太の安否あんぴを見守る。


「やっぱり、寿樹は赤城家あかぎけに帰って!」


ミキが鋭く叫ぶ。


寿樹は心が痛んだ。








僕は寿樹を守るんだ。


僕は強くなりたい、君を守るために。


なんだって、へっちゃらになりたい。






酷くどん底に落ちた気分って なんていえばいいの?


正義感っぽく君を守りたいんだって言うけれど


本当は 君が居ないと ダメなのかも知れない。




どうしよう、口では言えたけど 実際、君はお嫁に行ってしまったね。


それは、何がいけなかったのかな?


僕は ルックスも駄目で、身長も低く、君とは釣り合わないって わかってる。


君は頭が良くて 僕はいつも君から教わって、尊敬しているのは僕だけだったね。




君と僕が釣り合わないのなんて わかってる。


それを理由に諦めるから。


それを理由に諦めたいけど、あきらめきれない自分が居る事も知ってた。




せめて、君の迷惑にならない様に 身を引くことも沢山考えたよ。


沢山身を引いて、沢山君にまた会いたいと思ったんだ。




あぁ、どうして君の事ばかり考えるのだろう


君はもう お嫁に行って居ないのに


居ない 事に理解が出来ない お子様が居るよ。




だから、早く帰って 僕に言い聞かして欲しい


怒り口調だっていいさ


僕をかまって


僕を見つめて欲しい




そのために 僕は変になって


君をさらってしまうかもしれない


近くへ来たら 僕のモノにしてしまいたくなるかもしれない


そんな 自分を抑えきれなくなる自分が怖い




君に捨てられた 僕は 死んじゃえばいいんだね


死ねたらいいな


痛くなくね


もう、十分苦しんだから あとは 死ぬだけだ




君の瞳に映らなくなった 僕は 自動的に 消えてなくなればいいのにね


君の迷惑にならない様に






「寿樹!!」




ガバッと起きた健太。


辺りを見渡すと 辺りは薄暗く見慣れない障子とテレビの置いてある部屋。


「健太。」


優しく声を掛けられた。


「寿樹?」


「どうした?水でも飲むか?」


「あっあっ」


言葉でうまく言えないらしい。


鬼空きくうが冷蔵庫から水を取り出し、コップに移す。


「また、発作を起こして倒れたからな。」


「僕、また倒れたの?」


「あぁ。何も考えるな、考えると良くない。」


水を飲む健太。


コップを置いて 鬼空に抱きついた。


「寿樹!」


寿樹の胸に胸板を感じた。


鬼空きくう?」


暗闇でわからなかった。


「今は真夜中だ、ゆっくり休め。」


「鬼空。」


「思い出したのか?」


鬼空の手を握った。


「うん、多分。とても大事な事 なんで忘れたりしたんだろう?」


鬼空が健太の手の上に重ねた。


健太は鬼空の手をギュッと握って


「寿樹に 会いたい。」


「明日な、もう遅いから寝なさい。」


健太の背中を倒して 布団へいれる。


「なにか、寿樹が僕を呼び戻してくれた気がしたんだ。何て言うんだろう、僕を引っ張ってくれたって感覚。」


「夢だろ?」


「夢?」


「寿樹は赤城家の正式な嫁だ。健太が眠っている間に挙式は済んだ。」


「う そ 」


健太の目から涙が出て来た。


「おまえの眠りは長かったんだよ。脳の手術で 記憶が消えた。」


健太は 悔しがって 歯を食いしばった。


「僕、死ねば良かった。何にも出来ないで後悔ばかり。」


鬼空が起き上がって 健太の方へ寄った。


「寿樹は 自らの意思で行ったんだ、認めてやれよ!」


「祝福するの?」


「無理にしなくていい。わたしの後ろにいればいい。」


「鬼空の後ろなら隠れられるかもね。」


「こいつ、やっと記憶取り戻しやがったな。」


「そういえば、ミキさんって誰だっけ。」


「とぼけやがって。」


「ありがとう。鬼空。」


健太は、鬼空の隣で眠った。


「スケベ健太の願望どおりになっちまったな。」


寿樹とおんなじ匂いのする鬼空は、健太を心地よい眠りに誘った。

BGM♪「Enigmatic Feeling」凛として時雨

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