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健太の日記  作者: 蔓草登上
93/111

GoTo紅葉・温泉・イルミネーション 前編

挿絵(By みてみん)

何も記憶を思い出せず、やる事のない健太が考えた事がある。

「ミキ……」

「何だ?」

「休みはいつ?」

「なーい。」

「ウソ?」

「本当だ。」

「じゃあ、出掛けたい時は?」

「出掛けん。」

「GoTo一緒に何処か行こうと思ってたのに……。」

「何だって?」

「お泊まりで。」

「なんか、惹かれるな。」

「紅葉、見に行こう!その後、温泉入ってさ。」

「益々いいなぁ」

「浴衣着て、いつもと違うシチュエーションで気分転換しよう!」

「卓球して。」

「それ、古いよ。今はイルミネーションを見るんだよ!」


弦賀つるがが話を聞き付けた。

「うちの研究所がここと協賛してますよ。」

広げた用紙になばなの里が大きく取り上げられていた。


「キレイ!」

健太が叫ぶ。

「何で行くんだ?こんな遠い所」

「うーん、車が速いですね。」

「僕が運転……」

「ダメだ‼️」

弦賀さんとミキの二人に言われてシュンとする。

「これじゃあ、必然的に弦賀の運転になるな。」


「わたしが運転するんですか⁉️」

「3人で行くの?」

健太が驚く。

「健太は運転しちゃダメだからな。」

「アハハ、運転手役も良いですが、何だか気まずいなぁ。」

「御師さまも誘えば?」

健太の言葉にミキがギロっと睨む。

「あ、えっと……。」

「良いですね。真正家しんせけ始まって以来の旅行かも知れませんよ。」

「まぁ、このコロナ期全く人が来ないからな。」

「そうですね、仕事が入っていない今のうちにでも行きますか?」




紅葉・温泉・イルミネーション


当日



 弦賀の運転でいつもの真正家しんせけの人々が、神社以外の事で全員外泊するのだ。


昔は、如月きさらぎじいが居てくれたから安心して、留守番を任せられたが今は他界してしまって居ない。


その代わり、興津おきつさんが久々に留守番をしてくれたので助かった。


これで、急な来訪者も興津さんなら任せる事が出来る。


今まで興津さんも如月じいと同じ年になってきたから あまり無理はさせられなかった。


元々神様に仕える事が好きな興津さん。


ゆっくりしていてねと言って、何かあった時の為に望が時間で見に来てくれる約束だ。安心だ。


一つ、忘れていた事だが、十字架くろす 弥生やよいがうちらの車のメンバーに居た事だ。


あれ?なんで??


当日はお休みでと思っていたのに、興津おきつのおばさんに若い者同士で行ってきなさいよと背中を押されたらしい。


こう考えると、真正家しんせけのメンバーって結構居たんだなと思う。


なんだ、家に居ればいいのに……。


 弦賀つるがさんが運転手。


その後ろがミキと僕が座って、その後ろに御師おんしさまと弥生くんが乗った。


僕たちはお喋りしていたが、後ろの二人は全く喋らなかった。


僕は、御師おんしさまが白衣びゃくえじゃない、普段着をきている事に胸躍った。


御師さまも普通の人間だ。普通のおとなの女性だ。


今までの神々しいお姿とは違ったギャップが凄く新鮮に感じた。




 弥生くんは一人大人しく座っている。特に携帯をいじる訳でもなく、一体なにが楽しくて参加しているのだろう?


御師さまは窓の外をしきりに眺めていた。


みんな、コロナで出不精になっていたから、何でも珍しいね。


健太は気を遣うことなく、しばらく道中の流れる景色を眺めていた。


途中、山越えする場所で車を停めて、紅葉を眺めに降りる。


降りたら、弥生くんはミキと喋り出した。


僕は御師さまと山を歩いた。


「御師さまにとって、山は見慣れたものでしょう?」


「いや、山が違えば生えている植物も違う、植物が違えば匂いも違うものだよ。」


「へぇ、御師さまは山によって区別が出来るんですね。」


何か、頭によぎった。


こんな会話、こんな気持ち、どこかで 何かとても自分の中で大事な事と思った。お母さんの言葉だったのかな?


どこか、誰かにもこんな事を教わった気がした。




 ミキが 山道を引き返して 僕の手を取った。


「健太、向こうに紅葉の絶景がある!」


健太はミキに手を繋がれて 山を駆け上って行った。


御師は繋がれた手を見つめた。


皆と同じ紅葉の絶景を見たが、健太とミキの繋がれた手が脳裏から離れなかった。






ホテルのロビーで返ってくるなり


「2と3で部屋割しました。」


弦賀が言う。


「僕とミキとあとオマケですか?」


「女子と男子です。オマケでいいですけど、運転してきたオマケと優待券持ってきたオマケが……。」


弦賀が泣くので


「ジョーダンですよ!弦賀さんわかってますって。」


「いや、いいんですよ。本当は健太さんとミキさんの温泉ゆけむりツアーだったハズですから。」


弥生がピクピク話を聞いている。




「わたしは、御師と一緒に温泉はいるのか?」


珍しくミキが動揺しているので、


「そうだよ?ミキは髪も長いしアソコも無いし、(胸も)モゴッ無いけど、女性だよ。」


「今、モゴツってなんつった?」


皆、笑った。


健太たちに女性として太鼓判を押されたが、むろん女湯に入るのは初めてな鬼空。





「大丈夫だよ。鬼空もだいぶ女らしい身体になっているよ。」


お互い脱衣所で裸を見せ合う。


鬼空は寿樹と比べると、納得がいかないらしい。


「ダメだよ、まだだよ。見てよまだ咽喉ぼとけが付いてんだぞ。寿樹と比べると身体ごっついし、オカマじゃん!」


「鬼空は、他人の芝が青く見えるのだね。心と体は一緒、鬼空にとって一番ベストの状態を保っているのだよ。」


鬼空は寿樹の後を付いて行く形でオズオズト浴場へ踏み入れる。




 温泉のお湯にぷっかりお椀が浮いたように見える寿樹の胸。鬼空の胸は浮きようがなく自身にピッタリと張り付いている。


「寿樹みたいな胸があれば、健太だってイチコロなのにな」


「わたしは、今の二人が羨ましく映る。」


鬼空は、寿樹を睨んだ。


「健太と一緒にいたいか?健太と手を繋ぎたいか?健太と一緒の布団で寝たいか?」


「いや……。」


寿樹はうつむいた。


「今までの健太はもう居ない、寿樹が殺したんだ。」


その言葉に痛恨する寿樹。


「私は、一生御師に身を注ぐ想いだ。」


「そのつもりでいて欲しい。赤城家へ帰ってもな。」




 双子が女湯のれんから出てくると。


「二人とも 仲良く温泉入れた?」


温泉に来て温泉に入る、あたりまえだが、健太は空気を浄化するムードメーカーだった。


「二人で温泉へ入るのは 産まれて初めてだよ。」


「そうですね。」


弦賀さんが納得した。


「良かった。やっぱり、みんなで来て良かったですね弦賀さん。」


「そうですね、健太さんの助兵衛なおかげですね。」


一同が笑った。





 5人は久々の外食で舌鼓、日本酒でほろ酔い加減でイルミネーションを見に出かけた。


「流石に寒いぞ」とミキが言う。


「寒いけど奇麗。」と言ったのは健太。


「キレイが勝つか、寒いが勝つかですね。」と言うのは弦賀。


あとの二人は だんまりしている。




 寿樹は、美しく輝く光のトンネルに、吸い込まれるようにして入って行った。


遠くの方まで綺麗だ。まるで、極楽浄土ごくらくじょうどのような無数の光の点で色鮮やかに輝いている。


身体を切り裂くような寒さが 一瞬で消えてなくなった。


この身をなげうってしまいたい。


そう、いっそこの身体なんていらない、邪魔なだけだった。


身体はどうなっても いい。


心が この広大な大地に飛んで行けるなら、飛んでいきたい。


身を投げるって、きっとみんなこんな気持ちで飛び込んでいくのだろう。


……何もかも、もう終わりになるって……楽になるんだって。


その時だった、誰かが後ろから がっしりと冷たくなった体を抱きしめたのだ。


「体が冷えちゃうよ。」


この声は健太だった。


なぜ?何故いつもこのタイミングでわたしの心を揺さぶるのか?




健太の頬が自分の頬にくっつく。


「ほら、やっぱりこんなに冷えちゃって。」


健太の匂いがした。


懐かしくて、そのまま健太に包まれていたかった。


暗闇の中、このまま包まれて連れて行かれたかった。暗闇なら、わからない……?はっと気が付いた。


なんだ、健太はミキとわたしを間違えたのだ!


健太は、寿樹の手を引いてカップルの間を歩いていく。


ハタからも自分たちはカップル以外何物にも見えなかった。


どうして、健太を認めてやれなかったのだろう、なんで、こんな日常を大事にしてやれなかったのだろう?


健太はミキと間違ってわたしの手を引いてくれている。今、愛おしくてたまらなく感じる。


健太の温もり。あと少し、あと少し手を繋いでいたい。あと少し、あと少しだけ……。


「弦賀さーーーーん!」


健太が急に叫んで手を振った。


暗闇で誰かが手を振り返している。


寿樹はパッと繋いでいた手を離した。


「お!御師おんしさまゲットしましたか?」


「もー!迷子になるなよ。御師」


ミキの声。


「そっちのルートどうでした?」


ミキたちと普通に会話をする健太。


「!?」


みな、わたしを探していた?


自然と健太も御師を探していたことになる。




やっぱり、やっぱり知っていたんだ!!健太はミキと間違えて抱きついたんじゃない!!なんで!?どーして!?どーして御師のわたしに……胸が、胸が痛い。


胸の奥から ガラガラと壁が砕ける音がした。


寿樹は 慌ててその場を走り去って、身を隠した。


「あれ?御師さま?」


「え?もう御師、迷子?」


「捕まえとけって言っただろう。」


「もう、良いかと思って手を放しちゃった。」


弥生はしっかりミキの手を握った。




寿樹はトイレの個室でこもっていた。


自分がこんなにも健太を欲しているなんて気づかなかったからだ。


抱きしめられて、身体が冷えから妨げられる以上に、心が緩んだ。


温かな頬を寄せられて、健太のニオイと覚えのある声、よい記憶と一緒に走馬灯のように駆け巡った。


トイレの個室で、口を閉ざして、声をかき消すかのように泣いた。




健太が「好き」なんだ。


ずっと認めず、健太に酷い事をしてきた。


その報いだ。天罰だ。


あぁ、なんて胸が張り裂けそうなくらい痛むんだ。


頬を伝っていた涙が 氷の柱の様に顔にくっついている。


その上を熱い涙がとかすようにまた流れる。


とめどなく流れて来る熱い涙。


健太の想いを受け入れなかった罰だ……。




150号室


帰るべき部屋はわかっていた。ミキが酒を飲んで騒いでいる声が外に漏れていた。


入りずらいので、ロビーのソファーに座って時を重ねていた。


トイレの寒さに比べたらここの方が楽だった。


「あっこんなところにおられた。」


ミキの酒の買い出しに来た弦賀が 寿樹を見つける。


「健太さんとはお会いにならなかったのですか?」


「なに!?私はずっと トイレに居た。」


「それじゃあ、見つかりませんね。」


「健太は、わたしを探しに行って戻ってないのか?」


「健太さんには 戻って来れますよとお伝えしたのですがね。どうしても自分が手を放してしまった事に責任を感じたようで。」


寿樹が立ち上がったので、


「あ、ダメですよ!今出いったら行き違いになってしまいます。わたしがスマホで健太さんと連絡とりますんで。」


「そっか、わたしはスマホを携帯する癖が無かった。」


「すぐわかりましたよ。部屋で音が鳴りましたから。」


「何からなにまで すまぬ。」


「いいえ、お身体が冷えた事でしょう。もう一度湯に入られるといいですよ。」


弦賀の気遣いがありがたかった。このまま部屋には 戻りずらかった。










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