健太の逃避
寿樹と一緒に居るから 楽しい
寿樹と一緒に暮らしてるから 幸せだった
どんな 些細な事も 幸福に感じる
こんな 幸せ他になかった
なかった
なかった
なかった………………………………
「健太!」
健太は 御師に呼ばれる。
「今日は、奥の院の祈祷に行くから 出掛ける準備してくれ。」
「はい。」
寿樹の為なら 何でも 喜んでするのが 僕のとりえだった。
白い身体に 白衣を羽織り 帯で締める。
その上に 袴を着けて 僕が後ろで持って 紐を結びやすいようにしてあげる。
白衣から 髪を出して 元結を出す。
練り香りが 鼻をかすめて いい気分になる。
手を取って 草履を出して。
君の 凛とした姿を 尊敬して見守る。
荷物持ちは 僕の仕事。
御師は 着物姿で山を登るから大変だ。
それでも、慣れているせいか 早い。
「健太、古森さんに こっちの参道も草刈り頼んでおいて欲しい。」
「わかりました。」
一つ間違えば どこまで落ちるのかわからない 崖が沢山ある。
人一人通るのが やっとの狭い道もあるので 草や木が伸びてしまうと 通るのに命がけとなるのだ。
御師は 恐がりもせず 危ない箇所も渡って行く。
白衣と袴が この山にない色だから とても 奇麗に見える。
そして 君の白い肌も 緑に とても光って見える。
健太は 森の中で 楽しかった事を思い出しては心弾ましている。
「健太。」
「はい。」
「何を そんなにニコニコしているんだ?」
「だって、寿樹と一緒に居ると 楽しいんだもん。」
御師は 顔をゆがめた。
健太は あれから やはり おかしかった。
MRIの検査結果は 何も出なかった。
なのに、ここの所 鬼空の事を 寿樹と勘違いしている。
どこから 入れ替わってしまったのか?やっぱり、まだ家で療養させておくべきだったのだろうか?鬼空の不安がつのる。
山頂の本宮まで、結構クタクタになる。
鬼空は 汗をかいて 白衣が肌にくっつく。
「着替えますか?」
「着替えを持て来ておらん。」
「一枚脱げば……。」
「脱がれん コレ1枚しか着ておらんのだ。」
健太は 1枚脱いで 熱さをしのぐ。
「いつもは、長襦袢着ているのに、どうして今日は着てこなかったんだろう。」
「おまえが 着替えさせただろう。」
「そういえば そうでしたね。いつも寿樹は 下着を身に着けない代わりにに肌襦袢+長襦袢着ていたから。」
と笑った。
(そうなのか?下着を付けていなかったのか?どうりで下着が透けない訳だよ)と納得する鬼空。
「やや、村の方は靄がかかってきましたね。」
「山頂にいるからな どうしても下の方は曇って見える。」
「黄砂かチリだね。ここは 空気がきれいで 下へもう帰りたくないですね。」
「あぁ。」
と言って、本宮の祈祷を済ませる。
山桜の下で 休憩をとる。
大きな 丸太が横に倒れているので そこに腰を掛ける。
「あぁ、御師さま。」
健太が嘆く。
「座る前にハンカチご用意しましたのに……。」
「どうせ汚れるから これでいい。」
「洗濯するのは 僕なんです。」
つの口をして怒る。
水筒の水を飲んだ。
自分と寿樹は性格が違うから 健太はわかると言っていたのに、どうして今はすっかり寿樹と間違えられるんだろう?鬼空は不思議に思った。
もし、健太がわかっていてしらを切っているなら 何で証明できるだろうか?
鬼空のない頭では考えられなかった。
寿樹なら わかるだろうな……。
寿樹ならこうするだろう と思いながら行動するようになった。




