寿樹の母親現る
久々の 母親との再会だった。
父と離婚してから そう何度も顔を会わせる事は無かったからだ。
「お前が嫌だったら 父さんとの約束は果たさなくていいんだからね。」
という母の言葉に、安心というより 動揺を覚えた。
それというのも 母が別れたくて のんだ口約束だった。それが 私の幸せを左右する事だったら
何故、約束をしてしまったのかと 問いたい。
「約束は 守るためにある。 今さら 嫌だなんて言ったら 父さんが次にどんな 難題を持ってくるかわからない、また母さんを苦しめる事になる。」
「母さんは 自分の幸せの為に 間違った事をした。だから お前にも 幸せになって欲しい。わたしは父さんと話し合って来るよ。娘の幸せの為に。」
「母さんが それで 気が済むなら……。清一郎が 私を選んでくれている事に 私は答えたい。だから……。」
「わかっているよ。ちゃんと その人を確認して 母のような間違いを 起こさないように それだけを伝えたくてね 来たんだから。」
母は、寿樹の両手を合わせて ギュと握ると
「父さんと話してくる。寿樹が好きで ここに居るのは 構わないけれど もう、今までのような縛りはないから お前は 自由になるからね。母さんと父さんの口約束は もう、忘れなさい。いいね。」
握った両手を力強く大きく2度振り 大きな指切りげんまんをする。
いつになく 母親とは頼もしいものだ。
そんな 母親の背中を見て来たのだなと 今の自分を見てつくづく想う。
「ちゃんと 心から好きな人を 見つけてね。」
残された 雨戸の下の 風鈴が 一度チリーンと鳴った気がした。
なんだろう、 今 健太の顔が 浮かんだ。




