健太と電話
健太が 寿樹に電話をした。
昼間なら 清一郎も恭司郎も居ない事が多いだろうと思って。
「健太か」
「今、だいじょーぶ?」
「大丈夫だ。」
「恭司郎も居ない?」
「今日はみんな 出ている。」
寿樹は、清一郎の部屋で 健太の電話を受けていた。
家政婦は、洗濯中で近くには居ない。
「そっか、良かった。」
「何かあったか?」
「ううん。」
「そっちも 忙しい時間だろう?」
「こうでもしないと、電話出来ないと思って……。」
健太は 真正家で洗濯ものを干しながら電話をしていた。
健太は気になっていた状態を聞きいる。
寿樹は、健太が安心できるように 伝える。
真正家の様子を聞いて 健太の仕事が忙しくなったことを知る。
今までの 料理・洗濯・そうじ・コロナ宿舎対応 以外に 受付・家計・もろもろの手続きをしてくれている。
更に、鬼空のやり方に手を焼いているらしいから 心配しない方が無理というものだった。
「鬼空が人を雇うように、健太も雇えば良いものを」
「それが 美容に人を雇ってね。」
「鬼空は どんなカリスマをやっているんだ。」
「肌の美容から 髪結い・着付けまでやらせているよ」
寿樹が 頭を抱えた。
「一言じゃ 説明できない過程があるんだ。 ……また、寿樹に会いたいよ」
健太が 胸を押さえる。
また、寿樹の香りが欲しい、やましい気持ちは無くて、ただただ恋しい。
そんなに 度々帰って来れない事は 解ってるけど、やっぱり寿樹に会いたくてしかたない自分がいる。
「なかなか 帰れない。だが、恋しく思うぞ。」
「え?それ、僕の事?」
健太の息が荒くなる。
「健太の天然パーマが懐かしく感じる。」
「寿樹は向こうに行ってから 僕の髪の事ばかり 気になるね。」
清一郎が ストレートな髪で、強く同じ遺伝子を感じる、そこが寿樹の気になる点であった。
「そうか。」
「それから?他に懐かしい事ない?」
「こちらには お前のような明るい声はないな。」
「それは、僕の声の事?それとも 会話の事?」
「両方だな。健太の声を聞くと少し 安心する。」
そう、この赤城家で 明るい会話をまだ聞いた事がない。笑い声なんて もっとない。腹の底から笑いたい、以前のように……。
健太の気遣いがいい、手を握るタイミングがいい、そしてギュッと抱きしめてくれる 温もりがいい。
まだここへ来て ギュッと抱きしめられたことが無かった。
そんな事、健太にぼやいたら 健太は無理してでも 迎えに来てしまうかもしれない。
「嬉しいよ、寿樹からそんな事言われるの。」
「健太だったら こーするだろうとか つい考えてしまうな。」
「それで、以前来た時に僕の観察してた訳だ。」
健太の瞳がうるんでいたが 電話では わからない。
でも、寿樹は気が付いた。
「健太、泣いているのか?」
「やっぱり、寿樹は 僕の事 一番よく察してくれるよ。」
健太は鼻をすすった。
「離れて 気が付いた事ある?」
「そうだな、今まで当たり前のようにしていた事が、心地よかったんだと思えるようになった。」
電話ごしに 鼻をすする音しか聞こえない。
「感謝している。」
健太がその言葉に笑った。
「感謝じゃないでしょ。」
「?」
「僕の事が 好きなんでしょ?」
「……。」
寿樹は言葉に 詰まった。
「違うの?」
「違わない。」
「言えないの?」
「……。」
言えなかった。
どちらに答えを出したところで、健太の幸せは確定しなかったからだ。
弦賀が 庭先に目をやると、アッと叫んだ。
健太は電話中で気が付かない。
「健太さん!洗濯物 落としてますよ。」
「あ、スミマセン。」
見れば、また弦賀の洗濯ものだった。
「また、私のじゃないですか。」
「ごめんなさい。」
健太の謝る声が 電話越しで聞こえる。
寿樹が 笑う。
「あ、寿樹ごめん。」
「いや、 またそのように笑わせてくれ。」
「寿樹、また、また、絶対電話するからね。」
電話を置いた 寿樹は 大きく深呼吸をして 微笑んだ。




