離れて初めて 優しさが染みる時 前編
清一郎は恭司郎が寿樹を閉じ込めた件もあり、寿樹を自分の部屋に通した。
「えっと……本当に今日から……ですか?」
戸惑いながら聞く清一郎。
「……。」
寿樹が黙っている。
それは本人が来たくてここに居る訳ではないからだ。
寿樹が一番困っていると思った清一郎。
「あ、えっと。ここに居るのだから、そ、そうですよね。スミマセン。」
清一郎は寿樹に優しく対応した。
「赤城家には迷惑をかけるが、父親は私が仕事を民間でするのを嫌がるのだ。赤城家に入って私に仕事をさせぬようといった魂胆だ。急だが許して欲しい。」
「寿樹様が謝る事はありません。寿樹様のご意思でそうされたわけでもありませんし。」
「そう察してくれるとは、ありがたい。」
「そうですね、真上様は民間人と付き合うのを嫌がりますね。私の部屋は兄の部屋よりずっと狭くて、来るならもっとキレイにカタズけておいたのですが。お見苦しくて申し訳ございません。」
「これでいい、ここの方が落ち着くし安全だ。」
「あ、後でちゃんと寿樹様のお部屋をご用意致しますから。どこでもいいので座って休んでいてください。テレビのリモコンはこちらにああります。」
ソファーに乗った荷物をかたずけて寿樹を座らせる。
「私、仕事終わりで汗臭いでしょ?直ぐにシャワー浴びてきますから、ちょっとだけ待っていてください。その後に家中の説明をいたしますから。」
清一郎の説明はバカが付くほど丁寧だった。
次の日
寿樹は部屋の中を見回した。
恭司郎とは違って床がじゅうたんのローソファーにローテーブル。
規格の棚にハマった100インチのテレビだけが金持ちそうだった。
恭司郎の部屋は大理石で冷たい。
大方クイーンサイズのベッドで過ごしていそうな雰囲気だが、よく仕事で居ないのが現実だ。
嫁さんの家に入り浸ってるとでもいうのだろうか。
部屋だけでも二人の性格は全く違って見える。
しかし、外へ出ると清一郎もズバッと意見を言う方で、緻密に調べ上げる性格なので、清一郎の意見に反発出来るものが居ない。
人一倍コツコツとデーターを集めたり、細部まで調査する人だった。
恭司郎は気分で物事を決める人で、権力は真上に次いであり、虎のように振舞っては周りをビビらせて仕事をしている。清一郎はその尻ぬぐいを行っていた。それでいて清一郎が文句一つとして言わないものだから、全く良く出来た兄弟だな。
数日後
赤城家の人間観察をしたり、そうこうして過ごしているうちに清一郎が髪もろくに乾かさないで風呂から帰って来た。
「スミマセンお待たせしました。」
「待ってないから、早く髪を乾かしなさい。」
清一郎が髪を拭きながらまた恒例の説明を始めた。
この男、私に気を使ってなのか?まぁよく喋る。
私の返事などいらぬという素振りで自分の話したいことを言い続ける。
これじゃ、会社でも煙たがられるな。
一生懸命に同じことを何度も何度も話し続ける。
横顔は髪を整えた時と違って、ストレートの前髪だ。
あいつとは違う。
寿樹はそう思った。
優しく気を使ってくれるところは似ている。
そのストレートの髪は全然違う。
これだけ喋ったら次は手を握ってきたり、肩を寄せてきたり何かとスキンシップを図ってくるころなのに、清一郎にはそれがない。
なんだろう、物足りないというのか?冷たい……というのか?
顔の肌が違った、輪郭も違った。
何度も照れ恥ずかしそうに話してくれる姿勢は共感が持てる。
しかし、ジッと目を合わせはしない。
健太は恥ずかしげもなくジッと目を合わせることが出来た。
奴って、凄かったのか?
寿樹は健太の日常がこんなにも大切だったのかとしみじみ感じた。
「……さま?寿樹さま?」
ハッと我に返る。
「大丈夫ですか?」
「ああ、すまん。」
「今日はお疲れですね。一気に言ってもわからないですよね。申し訳ありませんでした。お風呂はいつでも入れます。家政婦が衣類とタオルを用意してくれていますのでお気遣いなさらずにお過ごし下さい。」
寿樹が風呂に入っている間。
清一郎は狭い部屋を寿樹の為に半分も使えるように、かたずけていたことは寿樹にもわかった。
今夜も一人、用意された布団で寝る寿樹。
いや、今まで健太と一緒にいて気が付かなかったことだらけだったことのショックで眠れなかった。
部屋の中で、清一郎の布団と寿樹の布団がそろうが、その布団の狭間に境界線と言わんばかりの布が天井から中途半端に垂れている。
仕事もしてきて疲れていように、寿樹と自分の間に境のカーテンを簡易的につけて気を使っているようだ。
そのカーテンをおもむろに見ていると
「もう少しで寿樹様のお部屋をご用意しますので、もう少し辛抱してくださいね。」
優しく声をかけてくれた。
ここのところ、嫌でも清一郎の身の上話をされ続けてきたから話かける気すらも起らない。
喋りかけなければ長い話もないので、だんまりしていた。
すると翌日から一旦屋敷に戻るよう話が出て来た。
寿樹が日に日に元気がなくなるのを見ていられなくなったのだろう。
清一郎が
「兄にはうまく口実を考えますので、出かける時はお声かけ下さい。家政婦に鍵を開けるように言っておきますから。」
「何故だ。なぜそこまでする?」
「それは、私ではまだ、寿樹様のお役に立てないからです。一度戻られてゆっくり体を休ませてください。」
そう言って清一郎は仕事へ出かけた。
気を使いすぎる清一郎になんとか良い答えを持って帰りたいものだ。




