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健太の日記  作者: 蔓草登上
59/111

恐ろしい連れ戻し

挿絵(By みてみん)

2020/9/10





「あれ?どーしたの?寿樹らしくない」

しょげて帰ってくる寿樹に声をかける健太。


「ОLに必要なものってなんだ?」

寿樹が真剣に悩んでいる。


「もの?…簿記とか?パソコンスキルかな」

「エクセルとやらは?」

「あ、Excelは必要だね。」

「エクセルが、解っているのに解らなくなる。」

健太が笑ったので寿樹が傷ついた。


「あはっ」

「あはじゃない」

「ExcelがつかえなきゃОLは…出来ないかも」

寿樹が更に傷ついた。


「もしかして、Wordも難しい?」

「ピエン……。」

「!?」

寿樹の意外な発言に爆笑した健太。


「それどこで習ってきたの?」


「仕事場だ」

恥ずかしそうに言う寿樹が珍しく新鮮だった。

「まぁそんなカンジで、寿樹ならすぐに覚えると思うよ」

少し安心する寿樹。


「で、それを習いたいのだが。」

「うん、僕が教えるよ。」

「本当か?」

寿樹が身を乗り出した。


 学生時代は健太より勉強も運動もできた寿樹。

授業にパソコンがあったから、基本は出来るけれどもといった状態らしい。

健太は会社でパソコンを使用していたのと簿記を持っているので得意分野を寿樹に教えるのは喜ばしいことであった。

「会社ではどんな仕事をしているの?」

「請求書や入力チェック…」


「じゃあ、それを教えてくれた人は?」

「同じ女性で、パソコン打つのが速いがそれと同じによく喋る人だ」


「状況は良くわかりました。」

また笑う健太。


「じゃあ、その人の教えたとおりやればいいんだけど、間違って入力してしまったり、一つ前の状態

に戻りたい時の方法を教えるね。」

「ほう、」


「取り消し作業とかの方が良く使うからね。覚えておくと便利だよ。」

真正家の仕事そっちのけで、健太が手厚く寿樹に教える。


「仕事の邪魔をしていないか?」

寿樹が気を使って伺う。

「ううん。急ぎはないから大丈夫だよ。寿樹に教えることがあるんだなって思えてなんだか嬉しい。」


「こうなった時はどーするんだ?」

寿樹が画面を指さして聞き入る。

「もっと、前に戻らないと解決しそうにない時は、ファイルタブの上にある↩の隣の小さな▽押してみて」

ずらっと今までの工程が並んでることに感心する寿樹。

「これなら、どんなに失敗しても戻れるな。」

「そんなに失敗するの?」


その時、中庭からいるはずのない人の気配と笑い声がした。

「ふふふ、引継ぎと思えば寿樹、逆に教わってるのか?」

恭司郎きょうしろう!!」


なんでこんなところに赤城恭司郎が居るんだ?

「勝手に庭先に入ってくるな!」

「おっと、お前さんたちの方が俺の屋敷へ上がって来たんだぜ。」


「ここは私の屋敷だ。お前の好き勝手にさせぬ」

「それはどうかな。寿樹はもう、赤城家の者だ。」

「なに?」

「御師を降りた娘は赤城家の嫁になると真上より通達があった。」

「うそだ。」

「おまえが仕事なんぞ始めておるから、赤城家と縁を結んで安定を図ろうとしているのだろ」

「寿樹はここに居て、仕事も行って幸せなんだ。だから他に行く必要なんてない。」

「それは、父親に話してくれ。俺は真上からの通達がきたから寿樹をもらいに来ただけだ。」

そう言うと中庭からズカズカと上がって来る。

寿樹をかくまう健太。

ノンストップで来る恭司郎は健太を跳ね飛ばす。

ドカッと床に転がる健太。

力の差が有り過ぎる。

健太は悔しそうな顔をする。


恭司郎はしゃがんで寿樹と目線を合わせると。

「おまえは俺ではなく、俺の弟、清一郎と婚約してもらう。」

「うそだ。」

寿樹は叫んだ。

「ま、今日の所はへばりついて意地でも赤城家には来ないと思うから俺は通達だけで帰る。」


健太は寿樹の元へ駆け寄った。

「大丈夫?」

「おまえこそ大丈夫か?」

「うん、どこもケガしてないよ。」

「それならいい、それならいいが……。」

「寿樹、……。」

健太は唾をゴクリと飲み込んで 事の重大さに緊張を隠せなかった。








 ウソと思った恭司郎の話が数日後、本当の話となるとは、健太も寿樹も真正家全体が恐怖に陥った。

 後日、あの真上様(寿樹の父親)が現れ、誓約書を持って寿樹を無理矢理連行していった。父親と言っても、前の母親の子供に当たるから感情は薄れている。必要な環境さえ整えればいいと思っているだけだ。

寿樹の声は虚しく、一般社会で働く事を嫌う父親は、赤城家で専業主婦になってもらうと言った。

自分の意見を聞き入れてもらえない時は絶対に父親の戦略が有るときだった。

寿樹は気づいて反発を止めた。


健太はまた、酷く悲しんだ。





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