隣にいる幸福
2020/9/6
寿樹が健太の仕事を見つめた。
「のう、私も仕事がしたい。」
「え?この仕事?」
「ちがう、稼ぎに出たい。」
「ダメだよ。命令書にも書いたでしょ。外部の勤労を禁ずるって。」
「引継ぎの仕事はもう果たした。鬼空も御師をやっているし、健太も側近の仕事が出来ておる。私以上に出来て言う事なしじゃ。」
「いやーそんなに褒められても、外には出しませんよ!」
健太が厳しく声を上げた。
「側近の言うとおりにしてきたではないか。毎晩カタモミに添い寝……」
「ちょっ、ちょっと、それは言わない約束でしょ?」
側近の力で寿樹を都合よく使ってきた事がバレそうなので、健太も寿樹のいう事をきいてやらないわけにいかなくなった。
「ОL?寿樹がオフィスレディしてみたいの?」
「私も世間一般の仕事がしてみたい。」
この先の行く末でも見るような、鋭い目つきで言ったので寿樹には必要な事なんだと思った。
「それはいいけど、寿樹に事務職が出来るの?」
「なんだ?どーいう意味だ。」
「い、いや。普通は仕事なんて好き好んでするものじゃないからね。寿樹は働かなくてもやっていけるのにと思って。」
「世間一般を勉強してみたい。」
「そっかー、一般の仕事をね。寿樹の産まれてきた環境が違うからしかたないね。」
健太があくびをした。
「健太、寝るのか?カタモミはせんのか?」
健太は涙目で 寿樹の顔を見つめる。
「寿樹のOLの話を聞いて遅くなったから、もういいよ。」
「悪いな、私のせいで。」
健太は寿樹の頭を撫でた。
健太はそのまま眠りについた。
寿樹は頭に手を乗せられたまま寝入った健太を見つめた。
手から頭を外して天井を仰いで眠りについた。
「おやすみ」
寿樹が健太に軽くキスをした。
ハッと思って目が覚めた。
「寿樹」
そこには、天井を向いて寝る寿樹の姿があった。
「ゆめ、か。」
夢は夢で、願望が先走ってしまった。
それでも、寿樹がまるで夫婦のように側にいてくれる事が健太にとって第一の幸せだった。
健太は思った。
寿樹は誰にも渡したくないと。例え、赤城家の許嫁であろうと、誰にも渡したくないと強く思った。
そして、赤城家へ渡らないようにどーしたらいいか懸命に考えた。
だが、いい解決策は出てこなかった。
いっそうのこと、寿樹と山中の奥深いところまで逃亡してしまいたい。電気も水もなくても二人と子供たちの絆さえあればやっていけると思った。
寿樹の子供がいるからと、父親に話してみようか?子供が出来た事を理由に親の責任を持ちかけようか?きっと父親は勝手な事をした僕らのせいだと怒鳴られそうだ。勘当されるんだ、勘当といっても放置するようなぬるい親じゃない。きっと難問を吹っかけて来るに違いない。
気が付くと、目先に目を開けた寿樹がこちらを見ていた。
「健太?」
「な、なに?」
また、独り言を口に出していたかな?とあせった。
「眠れぬのか?」」
「いや、大丈夫だよ。寝るよ。」
「そうか、おやすみ」
「寿樹……。」
「……。」
「僕って頼れる男かな?」
「……たよれない」
「そ、そうだよね。」
焦った健太。
これじゃ、山奥の生活に付いてきてくれないかもと思った。




