寿樹が健太の子を選んだ訳
―真上様の怒り―
「真上様、寿樹様の染色体が女性へと変わり御師の降板を確かめて参りました。」
赤城清一郎が かしこまって真上様に告げる。
「そうか、寿樹もとうとう女になったか。」
寿樹の父親、真上は木彫りの竜を愛でるように撫でる。
「そこで……。許嫁の件私にお譲り頂けないでしょうか?」
真上は竜の頭を撫で回し、あまり浮かない顔をした。
「お前の兄、恭司郎はどうした。」
「はい、兄はただいま婚約を前提にお付き合いをされている方がおりまして。」
「付き合ってる女がいると?」
大きな声にビビる清一郎。
「はい。寿樹様の染色体が完全に女性になられましたらとお約束されましたが、完全に女性になるまで長い月日が経ちまして・・」
「ならん!わしは恭司郎と話をつけたのじゃ!恭司郎を呼べ!!」
「はいっ!」
清一郎は慌てて退出をした。
清一郎の気持ちは 激しく砕け散った。
―寿樹が健太の子を選んだ訳―
赤城家も神社の息子。
真上はその神社を包括する宗教法人。法律上は対等かつ平等な立場なのだが、実際は真上が神社や仏閣・宗教を支配し服従させているのである。
健太がおもむろに口を開いた。
「寿樹のお父さんって現役、宗教団体のトップをしているでしょ?でもこのお屋敷では全く姿を見ないけどどーして?」
「父は再婚相手の家に入り浸り。元妻の子供の屋敷に戻って来るのは金がらみの時だけだ。」
寿樹がため息混じりに喋った。
「お金の時だけ?」
「古くからの仕来りなのだけれども、宗教一家は従弟同士と婚約することが出来て、そこで出来た男でも女でもない子供を神童と崇めもっぱら荒稼ぎをしていたそうだ。」
「それ、今と変わらないじゃん」
「まぁ聞け。今は従弟とは結婚できないのだ。」
「うん」
「だが、あの父親は権力のために許嫁を約束し、力を握ってきた。」
「お父さん汚いね。」
寿樹が笑った。
「まぁお前との子が出来て良かったと思うよ。」
「それ、そこ、すごく聞きたいところなんだけど。どうして子宮がないのに育てようと思ったの?」
「私は子宮が出来たら許嫁に嫁がされてしまう。まるで父親の道具だ。そうなるとまたDSDの障害を持った子供が出来てしまう。」
「わかる。寿樹の気持ちわかるよ。」
「……。そこまでだな、お前に話せるのは。」
寿樹はため息交じりに話し終えた。
健太は寿樹の方に身を寄せた。
「どうして?その先が知りたいよ。」
寿樹は健太を手で押しのけた。
「お前の聞きたい気持ちもわからんでもないが、あの父親の事だ、バレたらお前を殺しに行きかねん。」
健太が身震いして身を引いた。
「だからな、今のところおまえはこの件を何も知らんとしていてもらいたいのだ、わかるか?」
「そっか、わかった。寿樹、絶対に赤城家と結婚する必要なんてないよ。たまたま寿樹の近くに居たのが僕だったという訳で。寿樹がそこまで正しい赤ちゃんが欲しいなら絶対に赤城家と結婚するべきじゃないと思うよ。」
健太の真面目な意見が寿樹の胸に刺さったまま取れなかった。
逆に結婚しない手があったのだと知らされた。
「父親のいう事を聞かずに生きてみたい。」
「僕、寿樹を支えるよ。赤城家と結婚しないで生きていく道を寿樹が歩むなら、僕は影で支えていく。寿樹が一般の人と結婚できるまで。」
「健太、そんな虫のいい話があるか。」
寿樹が笑った。
「あるよ、僕は寿樹の味方だ。寿樹の幸せを応援する。あ、そんな申し訳なさそうな顔をしないで。僕は寿樹の事好きだから、一生幸せにしてあげたいって思う。…寿樹が幸せじゃなきゃ僕も幸せじゃないから。」
寿樹は目から涙を流した。




