寿樹を動かす命令書 後編
2020/08/19
―寿樹への命令書―
鬼空が御師に立つことで寿樹は今までの知識を惜しみなく提供する事。
常に御師の影となり、支える準備を怠らない。
勝手な行動・外出は御師に影響のない範囲で行い、必ず側近了解の元で行う事。
真正家以外の仕事をする事は1年間原則禁止とする。
側近が仕事に必要な知識は、速やかに常に力を貸す事。
上記に関する事、一切の情報を敷内から漏らさない事。
この内容で、寿樹は案外とすんなり「命令書」にサインをした。
「あ、これで いいの?」
寿樹は何だという目で睨む。
そっか、真正家ではこういった仕来りに忠実だったんだ。
まぁ中学の時から堅苦しいお家柄の人とはわかっていたけどね。
真正家の家柄がアットホームな感じだと思っていたのは如月じいが僕に優しくしてくれていたからだった。
それから、健太が真正家の運営を任された。
真正家の家計は実にシンプルで僕の頭でも理解できたが、それを立ち上げるのはとても難しいものだった。
「シンプルすぎて、運営が成り立たないよ!」
健太が弱音をもらした。
寿樹が柔軟体操をしながら健太の方を見る。
健太が家から持ち出したノートパソコンでなにやら生計を立て直してくれているらしいが、パソコンの出来ない寿樹にはチンプンカンプンで鬼空もそれを見て見ないふりをしている。
健太が寿樹に言った。
「本当に御師と言うカリスマ性が信仰を呼んで、お守りやご祈祷をしてくれる人々の収入で生計を繋げて来たんだね。毎年、この収入が一定なのは何でだろう。」
「それは神業が毎月の収入の上限を設けられている非営利団体だからだよ。」
「それ、痛い。儲けられる時に稼いでおかないと換算時はあるからね。」
「そこをどーにかするのが側近の仕事だろ?」
「僕に汚職をしろっていうのかい?」
「それは言ってない。うまくやってくれと言っているのだ。」
「つまり、同じことでしょ!!」
健太が苦い顔をして、パソコンをにらんだ。
「寿樹のお父さんは、こういうの隠せる力を持ってる人じゃない?たしか・・包括宗教法人のトップだったよね。」
「トップでも非営利団体だ。」
「娘に力を貸さない親はいないよ。」
「うちの親は私たち双子を見捨てたと同然だ。」
「どーしてそんな事を言うんだよ」
「お前にはわからない」
寿樹の悲しい顔が見えたので話を止めた。
それにしても、宿坊がコロナで受け入れ指定にされてから、国から多少の金額は入ったが、それでは不十分な事がわかった。
国に、エタノールやエプロンの要請を書いてみたり、出来る限り細かく最善を尽くしてみようと思った。
そんな様子を寿樹は見て
「事務が出来るのだな」と言った。
「会社でやっていたからね。」
「お前のお蔭で助かるとはな。」
「今まで寿樹が一人でやってきていたじゃないか!」
「そろそろ寝ないのか?」
「あ、寿樹は先に寝ていていいよ。」
「命令書にマッサージを追加したかったのだろう?」
健太が赤くなった。
「なんでそれ知ってるの?」
「鬼空が言っておった。」
「ジョーダンだよ。」
寿樹が健太の肩に触れもみほぐし始めた。
寿樹の髪の香りがフワッとした。
「ありがとう。」
次の朝
目が覚めても横に寿樹が寝ていた事が嬉しかった。
目を擦って何度も寿樹を見た。
寿樹はそこに居た。
御師を降りた寿樹はただの美しい女性だった。
あの勇ましさと凛とした仕来りの鎧は 男の僕から見てもカッコ良く見えた。
僕の懐で寝ている寿樹をみたら、それは、それでまた良く見えた。
「寿樹が 好きだ」
小声でそうつぶやいた。
今まで男性ホルモンの多かった鬼空は25歳を過ぎると徐々に女性ホルモンへと変化していき、より中性的になって鬼空の御師は、上手くカリスマ性を引き出し仕事は順調へと運んでいった。
逆に、寿樹はすっかり女性ホルモンが定着し、どこから見ても女性らしさを感じさせる丸みと柔らかさが備わり、変わらぬ頭脳のキレは鬼空を影で支える存在となった。




