寿樹を動かす命令書 前編
2020/08/17
―寿樹を動かす命令書―
「寿樹!
清一郎はなんであんなに寿樹の側にいる事を喜んでいるの?ちょっと好きなようにさせたら遠慮もなく寿樹とお茶しに行くし!」
「お茶くらいよかろう。」
「よくない!!」
「何を大きな声を出されているんですか?」
弦賀が口を挟んできた。
最近、如月じいのような役目を担ってきた気がする。
「何もせんのだからよかろう!」
「何かなりそうだから、やめて!」
健太が弦賀のいう事を聞かないで喚く。
「いくら側近とはいえ、口出しすぎだぞ!」
寿樹が 少し怒って言う。
「これが黙ってられないよ!
昔から怪しかったから言ってるんだい!寿樹も清一郎に気があるでしょ?」
「それは、ない。」
寿樹が ウソついた目の反らし様に健太が切り込む。
「ある!恭司郎もだけど、恭司郎以上に清一郎の方が寿樹に気があるような気がする。そして何より危険なのが寿樹も清一郎に気を許しているって事だ。」
「なにを勝手な事ぬかすな!」
逆上する寿樹。
健太はの着物の裾をぎゅっと掴むと寿樹に顔を近づけた。
「寿樹はかわいいんだよ!自覚して!DSDだからっていつまでも中性きどりでいたら、周りの男がどんどん寄ってたかって、大変な事になるんだから。」
「健太さん、その件は今はまだ早いです。」
弦賀が止めに入る。
「なんだ?弦賀いいたいことがあるなら隠さずに言え。」
弦賀は 言いにくそうに話し始めた。
「寿樹様の細胞分裂が衰えると同時に、染色体の数も減ってきまして。」
「だからなんだ?」
「つまり、お二方とも細胞分裂が衰えてきたせいで男性の染色体率が減ってきて最後には完全たる女性になっていくようです。」
「!」
寿樹が言葉を無くした。
「鬼空様が割合と言えばまだ、男性染色体が多いです。カリスマ性を重視するのであれば、鬼空様を御師に立てられることを提案いたします。」
「弦賀、私の女性化がいつから判明した。」
「はい、この前の血液検査結果なのでつい最近です。」
寿樹は少し考えると、
「私は降板なのか?」
と弦賀に聞く。
「私が決められる立場ではありません。」
弦賀が逃げた。
寿樹が鏡で自分を見つめる姿を、愛おしく眺める健太に目をやる。
「側近、どうなんだ?」
「……ん!?」
いまいち 自分が側近と呼ばれることに まだ慣れていない健太。
「かわいい御師は降板。今すぐ鬼空に代えるべきだね。」
沈黙が 続いた。
「私は、長年、御師だけに教育されて神主の学校へ行き身体を張って経済を支えてきたというのに……。今、掃除婦にもならぬ地位か?」
「そんなことないよ、寿樹は僕のお嫁さんになれば、決して僕以下にはならないよ。」
「バカかっ!!なるか!!」
寿樹はプンプン怒って部屋にこもってしまった。
「あらら、健太さん報告はまだ早いとおっしゃi
ましたでしょ」
「ごめん、弦賀さん。約束やぶっちゃった。」
弦賀は引き出しから何やら白い用紙を探し出して、健太に見せた。
「鬼空様をうまく御師の座に上がらせたら……。」
「なに?」
「上がれましたら。健太さんは鬼空様の側近という形になります。」
何か空気が一変した。
「そうなると、御師降板の寿樹様に側近から指示が出せます。いや、出して頂かないとならないのですがそれがこの命令書となります。」
白い用紙には大きく命令書と書かれていた。
「なんか、随分と立場が変わるんだね。」
「御師降板は側近以下ですからね。健太さんが側近として命令が出来る誓いの証です。ここに、寿樹様がサインをすれば確定となります。」
「寿樹が僕のいう事何でも聞くの?」
目がキラキラ輝いたというのはこの事だったと後からも思う。
「例えば、鬼空様が御師をされるにあたってまだまだ力添えが欲しい時、常に今までの知識を惜しまず伝える事。その為に真正家以外の勤労を禁じたりも出来ます。」
「え、そんなに束縛するの?」
「当たり前です。鬼空様も家にずっとおられましたでしょ?」
「そうだね、鬼空の出不精なのかと思ってた。」
鬼空が地獄耳でやって来た。
「わるかったな、出不精でよ。」
「えっとえっとー寿樹に僕のお手伝いさんになってもらったりとか注文できるのかな?」
「側近が必要だと思ったら可能です。」
健太の鼻が開いた。
「何を興奮してんだ健太。」
「興奮するね!鬼空はこれから御師になってもらうんだから!」
「ええ!!!!」
そこは聞いてなかったみたいで弦賀さんが事情を話す。
「でもさ、普通、寿樹が側近になるって言わない?」
「そうですね、でも健太さんが降りると言わない限り側近にはなれません。」
「健太、どーなんだ」
「え、僕は部外者なので親族間のお話は……ちょっと」
「逃げようとするな!!側近のクセに!
……ま、俺が御師になって健太が側近、それで健太は寿樹を使えるようになるんだろ?健太は寿樹に風呂上がりマッサージなんてしてもらえば?」
「わ!そんな事いいの?」
健太がウキウキした。
「寿樹が却下しなければな。」
「う。」
なんて鬼空に見透かされてるイヤナ感じ。絶対に鬼空の悪だくみが潜んでいるに違いない。
「おし!了解した。俺が御師になってやる!」
いきなり大きな声を出した鬼空。
パチパチと拍手を送ったのは弦賀で、健太は寿樹をどう使おうか考えるだけでウキウキするのであった。




