寿樹の子 まゆり
2020/07/03
サーっと 雨が 降っている。
「止みそうにないな…。」
弦賀さんが僕の更に高いところの雨を見て 珍しく本音っぽく言った。
健太は、悩み事を言ったら答えてくれるかと思って口を開いた。
「舞夕璃が、寿樹に似ているんです。」
弦賀は急に みぞおちでも痛み出すかのような険しい表情になった。
「ほう…。・・・、・・・・。」
しばらく沈黙が続いた。
「舞夕璃ちゃんに、何か異変があった訳ではないですよね?」
何故か舞夕璃を監視しているかのような言い方だった。
「はい、産まれて2歳半になります。特に異変なんてないですよ。」
弦賀がうなずいた。
「何か知っているんですか?」
「知りませんよ。」
即答。
「みんな、僕に隠してません?」
「何を?」
目が泳ぐ。
「とぼけなくてもいいです。舞夕璃は寿樹の子供なんでしょ!」
弦賀の固くなった表情がこれ以上に吊り上がった。
「寿樹と誰との間の子なんですか?」
ズバリ健太が聞く。
弦賀はうつむいて、やっと口を開けた。
「子供は親元へ行っていますよ。」
「僕が、父親ってことなんですか?」
黙る弦賀。
健太には、嬉しかった。寿樹がどこかの子供を産むより、自分の子供を産んでくれる事が何よりも幸せに感じたからだ。まるで、宝くじにでも当選した気分、いや、人生これで最大級と思えるまでの幸福感だった。
「それが事実なら、嬉しい。嬉しいけどどうして僕にそんな大事な事を隠したりするんですか?それも寿樹が御師だからですか?寿樹はいつ、その御師の縛りから放たれるんでしょうか?」
「健太さん、・・・その先の話は健太さんにとって良いお話ではありません。側近を離れた私の言う事でもありませんし。」
「寿樹に聞いても駄目なんだから、弦賀さんに聞いても駄目だよね。無理させてごめんなさい。」
散々、健太は 寿樹に相談してきた。でも 何度トライしても 断られてしまっていたからだ。きっと、何か重大な事実が隠されているに違いない、今はまだ 隠されて見えないだけだ。
「寿樹はDSD疾患だと 聞いたけど。研究所に入らないといけないの?」
「それはないです。寿樹様は女性の身体になられてますから。鬼空様とはまた違うんです。」
「正確に、DSD疾患って何なんですか?」
「そうですね、DSD疾患というのは性分化疾患といいまして、両方の性を兼ね備えているようで実はいないのです。つまり、女性としても不完全、男性としても不完全なのです。」
「それで?どーして寿樹だけは女性になって、鬼空はまだ不完全なの?」
「寿樹様に関しては、意外と簡単でした。
周囲に異性がいるかいないかで。寿樹様の身体は影響されていったのです。この場合健太さんが近くに居たことが大きなカギだったといえます。」
「僕が居たことで性別が変わったとなるとマスマス責任を感じるよ。」
「健太さんならそうおっしゃると思っていました。ですから、寿樹様はご内密にされたかと思われます。」
「僕は寿樹と一緒に居て、一生大切にしたい!」
「・・・・健太さんは寿樹様のお気持ちをお考えになった事はございますか?」
「対面で話をしたことはあるよ、何もかも話したつもりだけど」
「寿樹様と鬼空様の詳しい遺伝を申し上げますと、産まれた時は女の子でした。しかし、血液検査では、XとYの染色体を持つ立派な男の子でした。やがて身体内部に精巣を有し、子宮と卵巣は存在しなかったのです。しかし、健太様と一緒におられる寿樹様だけは精巣から作り出される男性ホルモンは異例の女性ホルモンへと変換されていったのです。」
「わかった、それで子宮がない寿樹の身体では子供が育たなかったんだ。それで・・・望の身体を母体にしたというわけか。」
「間はだいぶ端折られましたが、寿樹様の男性から女性になられる複雑なお気持ちがおわかりになられましたか?」
「うん、わかった。僕が思ってるよりずっと奥の深いところで寿樹は悩んでいたんだな。そして、妻の望も僕を愛してくれて寿樹と僕の子供を受け入れたってことだね。」
「二人から愛されていますね、健太さんは。」
弦賀はやれやれと帰って行った。
健太は降りしきる雨をじっと眺めて、昔の記憶をたどっていた。




