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健太の日記  作者: 蔓草登上
32/111

山伏


挿絵(By みてみん)




2020/06/20






  あの 大雨の後。

寿樹じゅきは留守番を鬼空きくうに託し、他の神社へ出向いた。




 健太も運転手を買って出た。

もちろん、運転手という仕事に 他の下心が無かった と言ったらウソになる。

今回は 寿樹から 声がかかっていないので 期待は 薄い。


 車にいつもの 羽織はおり袴姿はかますがたの寿樹を乗せる。

「今日は 何しに?」

健太が 聞くと 山伏やまぶし滝行たきぎょうがあるので、滝の水量を確認に行くらしい。


 確かに、昨日の晩の雨量は半端なく、電車も運休したほどだ。

がけ崩れの心配もあるから 祈祷きとうついでなんだとか。


 なんだ、寿樹のみそぎじゃないのか・・・寿樹の禊後の白衣姿が見られないのか………。半ば残念な顔をしていると 寿樹に察しられたようで、シッカリ前を見て 運転しろ! と叱られてしまった。




 車から降りると、昨日の雨で 色の濃い岩と 濃い苔と 濃い葉っぱが 目に入ってきて 朱色の鳥居が主役と言わんばかりに そびえたって見えた。


 寿樹の後を テクテクついて歩くと

岩壁に像が彫り込まれていたり 菩薩さまが 鎮座していたりしていて、 そのどれにも カタカナで書かれた真言が 丁寧に置かれていた。

 これ 全部に拝んでいったら 絶対お社に着くころには 1日終わっているよ。 

ディズニーランドをめぐる位1日以上かかりそう。



 細い道で 寿樹と肩がぶつかった。

「滑るから 気をつけろ。」

寿樹が 言うのも分かるくらい 足元は 水気を含んだ青々としたこけが滑る。


 ところどころ地面に チロチロと水が流れている。

上から落ちて来たような まだ 新しい瓦礫がれきがやけに 目につく。


避けて 歩いていたが、 少し踏み外した寿樹にワザと飛びついて

「大丈夫!?」と寿樹を助けたふりをして支える。


「おまえが 来た方が 余計に危ない。もっと 離れて歩け。」

と、また怒られてしまう。



 今日は 期待できる事は なさそうだ。

お地蔵さんが苔をはやして ケタケタ笑って見えた。


挿絵(By みてみん)








 小川の水かさは 断然増えていた。

周りは 瓦礫だらけで、でも不思議な事に 通り道だけは 瓦礫が無い。

「山伏が先に 来ているようだな。」

寿樹が 推測すると 案の定 山伏のおじさんたちが 先に見えた。



 塩と酒を手にした 山伏が 汗だくになりながら 道を整備していた。

「ご苦労様です。」

寿樹が 声を掛ける。


御師おんし様、わざわざお越しになられましたか。」

「気になってな、瓦礫が多いか?」


「そうですね。所々土砂崩れが小規模で見られます。後で 廻って見ておきますので、ご心配なく。」

山伏は 道なき斜面も歩くので 参道に支障がないか 点検してくれるらしい。


「ここまでしてもらって 言うのもなんだが 」

「はい」

「滝の量もかさを増しているだろう。危険を伴うのであれば 今日の滝行もやむをえんと思っているのだ。」

御師おんし様 大丈夫であります。見てのとおり、ここの山伏は よう肥えとりますので、ちょっとやそっとでは流されますまい。」

周りの 皆が ドッと笑った。



 確かに、山伏のわりに 良く肥えた人たちだった。

最近の 山伏は 山に入っていないのかな?それとも 痩せるために 山伏やってるのかな?

健太は 安易な考えで見つめていた。


「そうか、くれぐれも 気を付けるように。」

「はい、 拝んどいて 下さい。」

 


 寿樹は お社で 祈祷し始めた。

山伏は 滝行に入った。

法螺貝を吹き 白衣1枚になる。

ゴーッと流れる滝のとなりに 白い竜が鎮座している。

山伏は 竜の像に一礼をすると 九字を切って 滝へ向かう。



 

いつもは 届く鎖も手に取るのは難しく

ハラハラさせながら 山伏の大きな体が しぶきで何も見えなくなる。



寿樹は ただ、祈るだけだった。

僕は  指をくわえて見守るだけだった。




挿絵(By みてみん)










挿絵(By みてみん)




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