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健太の日記  作者: 蔓草登上
12/111

茂沼竜也 近親婚の秘密

挿絵(By みてみん)


 2020/4/28


 境内を竹ぼうきを持って掃き掃除をしていたら。

 緑のヒョウタン池の中へ金魚をポチャンと離している男性がいた。


 健太は興味深そうにそれを背後から見ていた。

 耳を澄ますと男は何か喋っている。

 聞こえるまで歩みよってみる。

 男は、

「はぁこっちに移したら反対に追われてらぁ、あはは。散々ボクの水槽でファイアーミーアフォックスをいじめてた罰だなへへっ。」

 なにやら独り言らしい。


 ヒマだし、面白そうと声を掛ける健太。

「入れた金魚が追われてますねぇ」


 なんだとばかりにこっちを見る男はたじろぎもせず健太に話し始めた。

「こいつはボクの水槽の魚を散々追いかけまわしてたんだ。ここの池の鯉にはかなわないや逆に追われてやがる。ざまーねーよ。」

「へえ、凄い環境の変化ですね。でも金魚と鯉ってサイズ的にかわいそうじゃないですか?」

「金魚ってのはな、強いんだよ。」

 と言って親指で自分の胸をトントンとする。

「性格がみんな強いんだ。だからこの池でも体がおっきくなったら、鯉にも負けずに順応するぞ。」

 いやいや、勝手にうちの池に金魚を放流していいのかな?


 男はこっちに身体を向け僕をまじまじと見て叫んだ。

「御師側近じゃないですか!!」

 僕って村の人にそんな風に呼ばれてるの?

 あ、この服のせいか!弦賀さんの服を受け継いだ事を思い出した。


「僕は坂受健太と言います。コロナが出てから助っ人に来ています。」

「側近のクセに自分の事、僕っていうんだな。」

 めっちゃ聞こえてる悪口!

 健太は苦笑いした。


挿絵(By みてみん)


「お偉い方はみんなわたしって言いますもんね。」

「今度の側近さまは親しみあるなぁ。ボクは茂沼竜也。趣味で池や沼の魚を研究してる。まぁ、淡水魚オタクってやつだな。」

 自分で自分の価値を下げる人だ。


 その後も、金魚の話をたっぷり聞かされるのだった。

 まぁお互いヒマだからいいのだけれどもね。

「あんたはいいですわ。御師さまみたいな美しい人とずっと側におれるのですから。」

「美しいって?」

「男から見たら御師さまは女性。女から見たら御師さまは男性に見えるから平等になるんですわ。」

 なるほど、村の信者さんが江戸時代から続く信仰心とはこういったところから来ているのか。


「でもね、御師さまだって人間なんですから一般と同じに結婚なさって、幸せになって欲しいと思うのです。」

「うんうん。それは僕も同感だね。」

「御師さまは、もうご結婚されてもいい歳でしょ?本当は側近のあんたが彼氏さんだったりして?」

 いいこと言うね。


 そんな事ないよと言いながら、超が付くほど嬉しい健太。

 竜也を連れて、一緒に御師をのぞき見した。


「僕だって御師さまと一緒になれたらいいなと思っているよ。」

 中庭に入って御師の居る部屋に近づく。


「坂受さんは御師さまの親戚かいとこかい?」

 御師の姿は御簾であまり良く見えない。

「全然違うよ。」

「じゃあ、養子にお入りになさるんか?」

「養子にはならないよ。」

「御師さまのお家の事はご存じか?」

「知ってるつもりだけど?」


「御師さまは血族の人しか結婚なさらねぇ。」

 ええ!今初めて知った。


「ホントかい?」

「あぁ、あの中性的なお顔立ちを保つために本当の血族、もしくは親戚・いとことのご結婚を江戸時代からされてなさる。」

「だから、いとこの顔がみんなそっくりなのか。ていうか近親相関だよねぇ。」

「近親婚と呼んでる。」

「法律に引っかからない?」

「それが引っかからないんだ。」

「うそ!!」

「そこで何をしているんだ!」

 噂の寿樹が御簾を上げてこっちを睨んでいる。

 まずいバレた!

「スミマセン。」

 二人で謝る。


「茂か?」

「はい、ご無沙汰をしております。火の見やぐらの息子です。」

 他に茂沼家があるのか屋号でわかるものらしい。


「この度楽しみにしておった神楽が中止になって茂沼家もさぞかし落胆した事だろう。」

「父は神楽バカなので、これで少しは仕事に根を入れるいい機会になりました。」

 寿樹が笑った。

「神楽も伝統のもの、茂沼家がみんなを引き連れてくれているから助かっているのだよ。」

「そう言ったら父が喜びます。」

「まだ、夏の夜神楽もあるからな。その頃までにコロナが引けば再開できるからもうしばらく辛抱してくれと伝えておくれ。」

「そんなに甘やかさないで下さい。」


 夜神楽、寿樹もお面を付けて舞う踊りだ。

 みんな面を付けるから誰だかわからない。


 でも昔、一際きれいに踊る子が居て。目で追っていたら寿樹だったとわかって酷く胸がときめいた頃があった。

 その頃から寿樹が好きだったんだろうな。


「坂受さん、ボク帰るからな。」

「あ、うん。悪かったね、すまない。」


 茂沼達也を見送ると、寿樹がカモンと手を招いたのが見えた。

 あひゃ!説教だ。




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