弥生の心変わり
僕は君の人生で ただの通り道にあった 石ころ
君の瞳にとまる事なんて 無い事くらい 初めから わかってた
だけど バカだね 僕は なんで 頑張るんだろう?
君の前で 背伸びして 心から 正義を考えて
君を守るからって ウソついて
君の側に 居ようとした
僕って 石ころの存在で
君にウソついて
君を好きになって
何にも出来なくて
最悪だね
ただ 君の事が好きなだけなんだよ
僕を焼ききって 残るのは 君が好きだって 正直な気持ち1っ本
ははっ
笑っちゃうね
人は 好きになるだけじゃ 何も出来なくてさ
その好きって 気持ちに 勝るものがなくてさ
君に好かれようと 君の奴隷になって
振り向いてもらおうと 必死に学んだことも色々あった
君の右腕にはなれないが
孫の手くらいには なりたくて
追いつこうとしても 全然追いつけなくて
誰かに 君を取られちゃう
バカだね 僕って
初めから わかっていたのに
君には 僕は 似合わないって わかっていたのに
僕の心は 君に 持って行かれちゃったまま
空っぽ だよ
返して って言ったら
返してくれるのかな?
僕の 心
君を あきらめきれない 僕がいる
健太と鬼空が 姿を消している間。
弥生は、寿樹の髪をとかしていた。
「鬼空さま、髪を切ってしまったんで 寿樹さまの髪で、美容師の訓練してもいいですか?」
些細な事が きっかけだった。
鬼空が髪を切ってしまってから 弥生は寿樹の髪をいじり始めた。
弥生が 寿樹の髪を担当する事になったのは。
寿樹は時間もあるし、初めは 弥生を不憫に思って 髪を好きにさせていた。
弥生も 好きに髪がいじれて嬉しいし なにしろ怒られない事が 第一に喜びであった。
「寿樹様は、健太さんの事が好きなんですか?」
「それは…………。」
心に思っても 他人にいう事ではなかった。
まして、赤城清一郎の子供を腹にはらんでいるのに
「いいんですよ、もうわかっちゃってるんです。オレは他人に言ったりしませんし、言うような知り合いも居ませんけどね。」
弥生は 寿樹の長い髪を 嬉しそうに撫でる。
寿樹は 弥生が 髪を 特に黒くて長い髪に執着している事を知っている。
知っていながら 髪をいじらせている。
「わかているのなら 聞くな。」
弥生が髪を一本にまとめ上げた。
うなじが見渡せて着物がよく似あう。
「弥生は、彼女は居るのか?」
「居ましたよ。九州に。でも直ぐに別れたんですけど。」
弥生がうなじに触れた。
おくれ毛を上げているのかと思った。
「寿樹さま、いつもハト麦お使いですけれど、米ぬかに変えてみてはいかがですか?」
肌を触っていたらしい。
「白い肌の方は、お米のぬかが良いんですよ。」
「そうか。」
「前から思っていたんです。寿樹さまは透き通とるような肌をしていて 繊細だから米ぬか成分の入ったこっちの化粧水の方が合ってると。」
言って出してきた化粧水を、寿樹の手の平に数滴 垂らす。
「手で浸透の良さを実感してください。」
与えられたまま、手になじませる。
かさついていた部分が元の皮膚に戻った気がした。
「ほら、やっぱり潤った。」
弥生は 露骨に喜んだ。
「こちらにも塗っておきますね。」
白衣の袖をまくり上げると 、寿樹の肘をとって腕全体に塗り込む。
かさついていた肘が潤った。
どうして、体のかさついている部分がわかったのだろうと不審に思う寿樹。
「コレは、髪に付いても効果は同じなんですよ。」
うなじのおくれ毛を上げるように美容液を塗り込む弥生。
白衣の襟が肩まで グッと押し広げられたので、寿樹はとっさに前の襟元を抑えた。
胸元の膨らみが 緩やかなカーブを描いている。
「襟うしろも見えるところですからね。」
ワザとなんか天然なのかわからない きわどい所だった。
「そこまで 塗らんでよい。」
「うしろは 手が届かないでしょう?」
寿樹は 前で襟元を抑えてえいたが、自分が思っていたより豊胸しているせいで 谷間が見え隠れしていた。寿樹のうなじは練りお香の良い薫りが立っていた。
それから、寿樹が風呂から上がると 髪を乾かす担当になっていた。
寿樹が 風呂から出ると すかさずドライヤーを持って待っているので 白衣を着て乾かしてもらう。
すると ドライヤーの熱で熱くなり、じんわり汗をかき始めた。
うなじが汗で髪がくっついたのを見て、弥生が手で触った。
何となくだが、横目で見えたのは 弥生が その手の匂いを嗅いでいるようだった。
「何をしている?」
振り返る寿樹に
「何がです?」と言う弥生。
何も無かったように振舞い。
その後は いつもの様に 弥生おススメオイルを塗ってもらうのだが 寿樹には 弥生の視線が 嫌なので 後ろ以外は 自分で塗っている。
健太の仕事が終わって
寿樹の寝ている隣へ行って 抱きしめて うなじの匂いを嗅ぐ。
「あれ?いつもと違う香りがする。」
「あぁ、弥生に化粧オイルってものを塗って貰った。」
「ふーん」
なんか、妬けるな。
「健太、弥生は少し天然か?」
「ええ?そんなの考えた事ないや。」
奴に興味もないしと思ったが、口には出さなかった。
「私の白衣を下げられてな、そこまで塗っては欲しくないのだが」
「そんなの、僕が断っておくよ。」
「いや、もう断ったからいいのだが」
「どしたの。寿樹。」
「……私の考え過ぎだろうか。」
寿樹は健太に相談を持ちかけて、止めた。
しかし、やはり それだけでは収まらなかったのである。
次の日
化粧水にオイルも加わって、
「化粧水の前に オイル塗ってはじかないか?」
「コレは いいオイルなので 化粧水が入りやすくするためのオイルです。」
「そんなオイルあるのか?」
「有りますよ!お米のバージンオイルって言うんですか?最高級品で結構お高いんですよ。」
「何故そんな高いモノを持っている?」
「お店の試供品です。貰ったんですけど、寿樹さまがお綺麗になった方がいいから」
納得出来た。
弥生は こういう美容面では長けている。
寿樹も 弥生にだんだん身を任せていた。
弥生の持ってくる美容品は 寿樹にとって確かなものだったのが信用になったらしい。
しかし、時は 地震が起きた時に起こった。
突然 スマホがけたたましく警戒アラームを鳴らすと、その後に大きな揺れの地震が起こったのだ。
弥生は 女の子の様に悲鳴を上げて寿樹にしがみついた。
「オレ、地震ダメなんです。」
大きな揺れと 何処からともなくやって来る地響きに弥生が必要以上に恐怖におののく。
二人は机の下へとりあえず身を隠した。弥生は寿樹にしがみついているから仕方ない。一緒に身を置いた。
「おい、おさまったぞ。」
寿樹が顔をうずめてしがみつく弥生に言った。
「弥生。大丈夫だぞ。」
やっと顔を上げる弥生。
「オレ、強い女性が好きです。」
弥生は 寿樹を掴んだまま放そうとしなかった。
狭い机の下で身動きの取れない寿樹を弥生が封じるのは 簡単な事だった。
弥生は 驚いた事に ためらうことなく 寿樹の唇に自分の唇を押し付けた。
寿樹はお腹が仕えて逃げ場が無かった。
弥生の手は 開けた白衣の隙間から太ももを触った。
寿樹は 一早くその手を抑えると
「それ以上したら 声を上げるぞ。」と言った。
弥生は わかってますという風に 少しだけ笑った。
安否を確認しに来た弦賀の声がローカで響く。
「寿樹さま!大丈夫ですか?」
弦賀が髪結いの場を開けると 机の下で妙な格好の二人を見た。
「弦賀、助かったぞ。」
弦賀は何が 助かったのか わからない。
「何をしてらっしゃいますか?」
弥生が しょぼんとしている風に見えた。
弦賀には 何が何だか わからなかった。
寿樹はツンとして出て行ってしまった。
その様子から弦賀が弥生に聞いた。
「何か 怒らせる事しましたか?」
「……しました。」
はぁ
素直 素直 正直 素直 これで 生きて 何か いい事有るだろうか?
自分に 正直に 生きても 周りの皆は 認めてくれなかったり
変態とか キモって
言われちゃう
純粋な気持ちにも 僕は引いてしまったし。
やっぱり、正直や 素直 だけじゃ 人間って 生きて行けないんだよ。
じゃあ、 どうやって 人を愛して 愛されて 楽しく生きて行くの?
僕の楽しい って本当に 正しいの?
「解雇!?」
事を知らない健太が寿樹に聞き返した。
「どうして?弥生くんを解雇なんてするの?」
「私に無礼な事をしてきた。」
「まさか、前に言ってた例の事?…あいつ。」
健太が なにも無い庭先を睨んだ。
「聞いたぞ、寿樹に手を出して 解雇宣告喰らっておるとな」
鬼空が笑って言った。
「オレは 行くとこないです。」
泣きそうに鬼空にすがって来た。
「まぁ、首にはならんから」
「何故です?」
「あいつは ほら 赤城家の人間だから 解雇云々(うんぬん)は 出来ん」
「そうなんですか?でも側近の健太さんがいるじゃないですか」
「側近は 俺の意見と一致しなければ 一人で決定は出来ん。」
弥生は鬼空の顔を見て 改めて感謝した。
「ありがとうございます。空さま。」
「それにしても なにゆえ寿樹に手を出した?」
「空ちゃんが 相手してくれないから。」
「なんだと!?俺と寿樹は似てるか?」
「似てます。髪を切る前の空ちゃんに。」
健太は 別々で好きといった事を思い出した。
似ていて好きになるのと 別で好きになるのって 一体 何が違うんだろう。
と考える鬼空。
弥生くんは 解雇はされなかった。
実際、解雇は出来ないが、寿樹の方が先に赤城家へ戻ったから解雇の話は無くなった。
これ以上ヘマをすると 健太に本気で怒られそうで、弥生は機嫌を伺いながら 生活していた。




