本当は好きと伝えたかった
『じゃあ、おまえに出来るのか?』
鬼空の言葉がこだました。
一度は消え、また盛り返して来た。
自分の中で 何度もかき消したはずだが、恥ずかしい事に 何度もぶり返して来る。
気になっているのは自分だ。
僕は、鬼空と何がしたいんだ?
どーして、弥生くんに嫉妬してしまうのだろう?
鬼空はどーしてミキになってくれたんだ?
君は 女の子なのか?
本当の気持ちは一体何なんだ?
あぁ、寿樹が帰ってしまうと 何かと鬼空と気まずくなる。
寿樹の前じゃ、男らしく 鬼空を守ってやりたいみたいな事ぬかしちゃったけど、本当は僕の心のほうがブレている。
鬼空を、鬼空を、どう 扱ったら いいんだろう?
やっぱり、本人が言う通り、男として付き合って行った方がいいのかな?
今度のご祈祷は榊を落とさずに うまく行った。
鬼空が僕の方へ寄ってきて
「今度は 落とさなかったな。」
と皮肉げに言った。
そんな言葉でさえ 僕は敏感になって 顔も合わせられなくなっていた。
目は榊を必要以上見つめる。
鬼空が交通安全大祭の看板を取りに行くから 滝の小屋まで手伝ってほしいと健太に言った。
僕は、コロナでどうなるかわからない大祭だけれど、準備しておくのは良いことだと 大賛成して後を付いて行った。
参道は 草の踏み跡と ゴミで荒れ放題となっていた。
やっぱり、コロナで行くところが無くなった人たちが 人を避けるように山歩きをしているらしい。
「あちゃ、こりゃアルバイトの古森さんと弥生くんに清掃を頼まないといけないな」
「いつになく、仕事熱心だな、考える事は仕事しかないのか?」
カチンと来た。
こんなにも鬼空のことを考えて止まないのに、いともたやすく 人を仕事人間くらいにしか思っていない発言に……。
「仕事だけなんて 失敬な!いつも 鬼空のこと見てるよ 今度はちゃんと榊を落とさなかったし……。」
鬼空が振り返って 僕の顔に近づいた。
「それも仕事だ。」
不敵な笑みを浮かべる鬼空。
また、顔が近い。
幾度となく、恥ずかしそうにする健太を まるで楽しそうに見ている様でもあった。
鬼空は生まれ持っての意地悪だ。
僕は鬼空に聞きたい事が沢山ある。
「き、……き、」
そう思って声を掛けようとした時には 鬼空はさっさと歩いて前へ行ってしまった。
「待ってよ!」
長く伸びた草が 小雨により水気を帯びて 足に絡みついて来る。
そんなこんなで奮闘していると鬼空と距離が出来る。
「……足が速いな。」
鬼空にこれ以上の男性ホルモンなんて いらないよ。
強く思う健太。
しばらく、湿気で鬱蒼とした参道を歩いた。
鬼空が足取りを緩めて歩くと 息を切らした健太が追いついて来る。
「ところで、交通安全たる看板って大きいの?」
追いついた健太が質問をすると 目を細める鬼空。
「小さかったら、おまえを呼ばない。」
「それも、そうだね。」
まだ、息が落ち着かない健太。
鬼空は暖をとるための小屋を通り過ぎた。ここには無いんだと目を見張りながら通り過ぎる。
その先へ急ぐ。
健太は辺りを見渡す。
滝と滝壺、滝の近くに着替えるための小屋があって、そこは狭くて物なんか置けないのはわかっていた、あとは橋を渡った先の祠しかない。
「どこに、そんな看板があるんだい?」
鬼空と健太が小さな橋を渡って祠にたどり着く。
健太は祠を眺めていたが、鬼空は反対を向いて立っていた。
「鬼空?」
「これだよ。」
鬼空は振り返った僕の更に下を指さして言った。
今渡って来た橋だった。
いや、橋だと思っていた。
岩を伝って渡り祠にたどり着くための架け橋だと思っていた。
何度と足の踏み台になっていたのは、良く見るとまぎれもなく看板の裏だった。
「……こ、こっれ。」
「そうだ、ちょうど良かったので橋替わりに使ってしまったが、これが交通安全の看板だ。」
健太が確かめるため、その看板を持ち上げると裏にしっかり、交通安全大祭と描かれていた。
流石に大きかったので、直ぐに下ろそうとした時、鬼空が後ろから手伝って僕の手に触れたから「きゃっ」と声を上げてしまった。
瞬間ちゃんと噛んでいない看板が 大きくバランスを崩し、そのまま清流まで滑り落ちてしまった。
看板が大きすぎて、清流の流れが変わる程 下で引っかかった。
それを見た鬼空が
「なにやってんだよ健太」
と嘲笑う。
「何って!鬼空が急に来るから ビックリして落としちゃったじゃないか!」
何が起きたのか ドギマギ胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。
鬼空が岩の下を見て笑う。
「あーぁ、橋を落としたら、帰れなくなるっつーのに」
確かに そうだった。
僕は やらかしてしまった この後 一体どーしたらいいのか?
鬼空は祠の方へ行くと、扉を開けて座った。
持っていた電子タバコのスイッチを入れた。
「さて、どうしたものか。」
そう言いながら 電子タバコを吸引する。
僕が落としてしまったせいで 鬼空が怒っているのがわかった。
けれど、祠の前で 喫煙するのは間違ってると思った。
「その前でタバコを吸うのは止めて。」
「うるさい、ここしか腰を降ろすところはないんだよ。」
健太が電子タバコを取りに向かうと
逆に腕を掴まれて ねじ伏せられた。
「くぅ……。」
毎日トレーニングしている鬼空の力に敵わない。
健太は 抑えつけられたまま 無理矢理電子タバコを口に銜えさせられた。
首を振って、抵抗する。
「吸えよ。」
「嫌だ!」
「頑固な奴だな。」
鬼空は 電子タバコを一気に吸い上げると 健太の口の中に吐き出した。
なにか ライムみたいなフルーツのフレーバーが口の中に潤った。
それより、鬼空が口移しをしてくれた事に 何か 胸の奥で満足感と充実を感じてしまった。
鬼空の唇が 甘い。
「な、タバコじゃないだろ?」
何を言っているのかわからないでいると。
「なんだ、おまえタバコの味も知らんのか?」
僕はタバコを吸った事もないから タバコか タバコじゃないかなんて区別もつかなかった。
急にゴホゴホむせながら 返答した。
「知らないよ!」
鬼空がしてきた行為に なんだかすごく恥ずかしくなって顔を赤らめた。
「おまえ、おもしろいよな。」
「?」
「俺が ミキに みえるのか?」
鬼空が 僕の顔を覗き込む。
僕は恥ずかしくなって 視線をそらした。
「俺が 男になっているというのに お前は 顔を赤くしたり 青くしたり、弥生と何かあったら首を突っ込んでくるし。」
「それは、鬼空が好きだからだよ。」
「どこまで好きなんだ?」
「それは……。」
「寿樹程好きではあるまい。」
何も 言えなくなった健太。
「ここで ちゃんと 懺悔するんだな。」
「何を?」
「おまえの罪を言うんだよ。」
寿樹が居るのに 鬼空が好きな事?弥生くんと一緒にいる姿見ていると 嫉妬する自分が居る事?
健太は考えて考えて 答えを出した。
「懺悔することなんて ないよ。」
「なに?」
「言ったじゃないか!君たち双子が好きだって、鬼空には信じてもらえないけど 僕にとって双子は2人で一つなんだ。
こんな事言って二人から嫌われるのが怖かったから 言えなかっただけだ。そもそも人を好きになる人数って一人って方が 可笑しいと思わないか?」
鬼空はなるほどという顔をした。
「じゃあ、恋愛って出来るのか?」
鬼空が僕に求めているモノがある。
「出来るよ。」
声が震えていた。
「廃人になって…た お前を…救えるなら 俺が寿樹の…真似してもいいと…思ったんだ!」
健太が疑問に思っていた事を 鬼空に聞いた答えがこれだった。
「僕を救うために 寿樹の代わりになろうとしてくれたんだ。ありがとう。ありがとう。鬼空。」
鬼空は祠の前を見据えて言った。
「じゃあ、誓え。お主は俺の影となり手と足となって いつ何時も俺を助ける事を!」
「ん…」
「俺の観賞はするな。俺が誰を好きになろうと勝手だ。」
「弥生くんは止めてね。」
「奴は 好きじゃない。」
「うん。」
それから鬼空はなにやら 好き勝手なことを喋っていたが 僕は君を助けるつもりになんら変わりはない。
ただ、好きでもない人と 夜遅くまで話をしていたり 部屋へ入れたりするのは 止めて欲しかっただけだ。
桜の木の下で 君を美しいと思ってしまった時 僕は罪人となったのだ、自分の感情を捨てようと必死だった。
噛み締めた唇が痛かった苦い想いが思い出された。
あぁ、僕は 鬼空を好きなんだ。
二人が好きなんだと 思った瞬間僕は 自分の心を 騙す事は出来なかった。
「おい、看板取ってくれ。」
鬼空が 長い脚で 崖の下へ数歩で下りた。
上で 看板を引き上げる健太。
すごいな、僕より身長が高いだけで あんなに 軽く看板を持ちあげてしまった。
橋として 使って 引き上げる。
鬼空は 沢から上がってきて 看板の先を持つ。
二人は後ろと前で看板を持って 参道を下りた。
何だか スガスガしい気持ちで歩いて行った。
胸が 涼しいっていうのかな?
口がスガスガしいのかな?
あ、鬼空の電子タバコを口に入れられたせいかもしれない。
思い出して 一人顔を赤らめる健太であった。




