恋愛の駆け引き
次の日、健太は寝付けなかった。
体は寝ているのに、頭は起きている感じだった。
疲れが取れない。
…………苦しい。
寿樹が赤城家
へ帰っちゃう…………
君個人として好きだよって言ったのに 鬼空が元気がない…………
なんで?…………全力でいつも頑張ってるのに 誰も僕を癒せない…………
…………癒されたい…………
…………苦しい。
「健太。」
呼ばれて目を覚ますと 目の前に 寿樹が居た。
目を覚ましたはいいが、これは夢なんだと思った。
寿樹がこんな 近くに居るハズが無い。
まして、キス出来るくらいの こんな近距離で…………と思っていたら、寿樹が僕に近づいて来て、身動き一つ出来ないまま僕は寿樹の柔らかくて温かい唇を受け取った。
はぁ、ため息が出るくらいリアルだ。
寿樹の唇に温もりを感じ寿樹の香りもした。
「夢なら、もっとして欲しい。」
離れていきそうになった唇を逃すまいと、口を寄せて、寿樹の体を両手でギュっと抱きしめた。
瞬間、キャという甲高い小さな声と同時に吐息が漏れて、なんて可愛いんだと思った瞬間。
その柔らかい唇がなにか喋ろうとモゴモゴ震え、突如、両肩を突き放された。
「寝起き 最悪だぞ 健太!」
けたたましく怒鳴られた。
眼をパチクリする健太。
健太の目の前、そこには、本物の寿樹が居た。
「寿樹!?」
「仕返しにしてやったら 寝ぼけながらキスしてくるなんて……。」
寿樹がワナワナ怒っていた。
健太は夜遅く、寿樹が居る事に 驚いた。
「ご、ごめん!」
寿樹はとっくに寝ているものと思っていた。
でもそれは 御師の時だけ。
本来、寿樹は御師を降りたのだから 夜早くに寝る必要はないのである。
「どおしたの?こんな時間に」
「施しに来た。」
「え!?」
健太がモジモジし始めた。
「妙な事を考えるでない。最近お主の抱えているモノが気になってな、その悩みを聞こうではないか。」
「え?」
僕の悩み。寿樹に言えないから悩みなのに……。
健太は困った。
「最近のお前、変だぞ。」
「やっぱり?……。」
寿樹の感の良さには隠せない。
「じゅ、寿樹に言えないから 悩みってあるよね。」
寿樹はフフーンという顔をした。
「なんだ、では帰って良いか。」
「いえっ言います!居て下さい。」
健太は記憶の無くなった部分を整理するためわかっている範囲を寿樹に順を追って話した。
「じゃあ、どうして寿樹は僕に告白しようと思ったの?」
「駆け引きじゃ。」
「寿樹が 僕に?」
「駆け引きをするのはお主じゃろ。」
「そうですね、でも懸けても引いてはいないよ。」
「引かれたから 告白出来たのじゃ。」
「!?」
寿樹が告白してくれた事?あれは僕にとって結婚式が挙がったのと同じ想いだった。
「健太が、病気になったから。」
「引いたつもりはないけど 僕の病気が寿樹の気持ちを引き出すきっかけになったんだね。」
「おまえが脳の手術をしてどれだけ心配したことか、記憶が戻らないと聞いてどれほど悲しんだ事か、お主にわかるまい。健太が居なくては、私は不自由なのだ。」
やっぱり、恋愛に駆け引きは必要なんだなと考える健太。今回は病気で偶々寿樹の気を引くことが出来たけど、今後は寿樹の気を惹かせることを考えないといけないな。
「…………。」
「…………。」
2人とも黙り込む。
「…………。」
「……えっ?……。」
沈黙に耐え切れず健太が声をもらした。
「…………。」
「…………。」
「お主の番じゃろ!」
寿樹が怒っている様子に健太が慌てた。
「や、や、や、やっぱり?僕だった?」
寿樹は、襟元をシュッと閉めた。
もう、瞳はあさっての方を見ている。
まずった、寿樹の機嫌を損ねた。
一生の不覚だぞ!
さっきから チラチラ見える胸元にばかり気を取られてしまった。
「健太が居ないと不自由だと言ったのだ。」
寿樹が 襟元を何度と直すが むなしくまた開く。
やっぱり、寿樹の胸、大きくなってる。
寿樹が健太の目線に気が付くと
「やっぱり、エロ健太!話がかみ合わんと思ったらっ」
寿樹が叱り口調で言う。
「言うよ。僕がどうして寿樹に話せないのか。」
健太がうつむいて話し出す。
「それは、寿樹が僕を嫌いになるのが怖くて 言えないんだ。」
「じゃあ、なぜ、最初に…話があるなんて言った。」
「それは、寿樹に隠し事しても、いつかバレてしまうだろうと思って。」
「バレてしまうような事なら話してしまえばいい。」
「寿樹なら見てればわかるよ、僕の事なんか。」
「記憶が戻ったとかか?」
「もう、とっくに戻っているよ。」
「結局、聞き出せずじまいか。」
「私が健太を嫌いになるような事が、あるか?」
「嫌いにならないで。軽蔑してほしくない。そんなの、僕に耐えられないよ!寿樹はせっかく僕に気づいてくれたんだから。僕に好きって言ってくれたんだから。」
「嫌いにはならぬ。今までいろんな事を一緒に体験して過ごして来た。健太の事、簡単に嫌いになんてなれる訳がないんだ。」
「例え、僕から嫌いと言われても?」
「嫌いと言われても、嫌いにはなれん。なんだ?私との駆け引き まだ続けているのか?」
「あは、ちゃんとした駆け引きしてないからね。僕の記憶の無い間だけの駆け引き何て……記憶の無い間に寿樹は どんな可愛い気持ちでいてくれたんだコラ。」
「赤城家に帰したくない。」
「また、記憶喪失になるかな?」
「なるから、行かないで。」




