鬼空に怒られてみた
10時前、寿樹がキレイにしてくれた、幣殿に鬼空が斎服で挑む。
弥生は、お守りを売る巫女さんの隣で無駄話をしているのが見えた。
どーせ、弥生くんはあのレベルだ。
心の中で笑った自分がいた。
鬼空が、思ったより真面目に祈祷を始めた。
へぇ、やるときはやるんだ。
祈祷に来ている方にする挨拶の仕方も、自分の言葉でちゃんと気持ちを伝えていた。
ホ~偉いぁ ただの、チヤホヤされている宮司ではない事に尊敬した。
多分、寿樹だったらそんな事普通に見えただろう。
あの、日常だらしない鬼空がするから 素晴らしく見えたんだと思う。
その時、いつかの夢を思い出した。
鬼空が僕と結婚しようと言ってきた夢だ。
理屈が理にかなっているから、夢の中で感心してしまった内容だ。
あぁ、今の鬼空だったら、同じこと言いそうだな。
そう思ったら、何だか急に恥ずかしくなってきてしまった。
僕より高い身長で、いつも筋肉質の上半身で部屋にいて、筋肉を愛でている。
ホルモン剤打っているせいで、体はガッシリしてきた。近づくと影になるからわかる鬼空の存在。あの身体が僕に抱かれていたなんてとても信じられない。
なのに、動揺一つ見せないで、僕を真っ直ぐに見る眼。奇麗な切れ長の眼。スッとした鼻筋と端正な唇……。
ハッとして気が付いた。
祈祷が始まっているのに、タイミングを逃した。
鬼空に榊が渡らない。
慌てて持って行く健太。
鬼空が受け取ろうとして、榊が 落ちた。
あ…………。
失敗した。
僕が不純な考えをしているから、失敗してしまった。
片付けをしていると、鬼空がお客様を見送った後に僕のところへやって来た。
影が暗くなるからわかる。
こわごわと顔を上げると鬼空の罵倒がやって来た。
背が縮む思い。
「おい、何なんだ!!」
「ごめん。」
見上げると、あの時の夢と同じ位の距離で、鬼空の顔がそこにあった。
「俺が何かしたか?」
とっさに 顔をそらしてしまった。
デジャブ?
という位 夢のその光景が重なった。
しかし、現実は怒られている。
「榊を出すタイミングがずれた。ごめん。」
鬼空は更に、顔をそらす健太に食い入った。
「はぁ?榊だけだと思っているのか?」
「?」
「違うだろ!全てにおいて、距離が遠すぎんだ!」
健太は思った。無意識に鬼空との距離をとってしまったかもしれない。
だって、今だってまともに鬼空の顔が見られない。
「だから、榊が落ちたんだ!わかったか?」
あぁ、しっかり真面目にやっている鬼空に申し訳ない。
今回は僕が、不純な心でいたせいだ。
ジロジロ見る鬼空に 健太が目を合わせようとしないから鬼空が勘ぐった。
「おまえ、俺を避けてんのか?弥生と俺の関係がイヤらしいと思って避けてるんだろう?」
思いにもよらない鬼空の発言が、僕を攻め立てた。
「ちがうよ!」
顔が近いので思わず後ずさりする。
「じゃなんだ?」
「!!」
後ろへ行こうとする健太の腕を掴む鬼空。
夢がフラッシュバックした。
なんで、こんな時に僕の胸は 張り裂けそうになるんだ。
僕は鬼空に何も悪い事しないよ。
する気ももうとうない、でも怒られても近くに居られるんだ……。
「当て付けか?」
「鬼空が、弥生くんを好きなら いいんだ。」
「好きじゃない。」
やっぱり、鬼空は弥生くんの事は好きじゃなかった。
嬉しかった自分が居た。
真面目にハッキリと鬼空が言う。
そんな鬼空に、我に返って返答した。
「じゃ、じゃあ好きじゃない人と 変な事しないでよ。」
自分で言って、変な事が頭を汚していくのが嫌になる。
「じゃあ、おまえが出来るのか?」
「!」
何を言ったか、もう訳がわからなくなっていた。
頭の回路がショートしたのだ。
理解不能
だけど YES!を言わないと、と一生懸命自分を励ました。
YES!
心の声が叫んでいた。
でも、寿樹がいる手前、そんな事言えなかった。
健太は 神具を一式揃えると、片付けるフリをしてそそくさと逃げた。
「な、何言ってるかわかんないや。鬼空。」
「……。」
鬼空はまだ、何か言いたそうだっが、僕はその場を逃げるのに 精一杯だった。
廊下を進んで行く健太。
思い返して、もしかしたら、今のジョーダンだよ!って鬼空が言うかもしれなかった。
変にドキドキなんかしているから、いつも通りに行かないんだ。
そうだよ、鬼空ならジョーダンだって言いそうだ。
なんだよ、あと少し待ってれば良かったんだ!
あれから鬼空は何か言いたそうにしてたもんな。
はぁ、僕の勘違いか。




