寝ている寿樹にキスをした
精魂尽き果てたのか?何だろう、このやるせなさ。
健太がパソコンに向かって仕事をしているが、何をしているのかわからない。
手ごたえも無い、達成感も無い。すべてに無気力さえ感じた。
あの、いつも明るい鬼空が、元気にならなかった。
何故だろう……
…………
「…………た、……健太。」
心地よい響きの声が聞こえた。
「健太、体調悪いのか?」
寿樹の声だ。
「いや、あ。ごめん うたた寝してた。」
「最近、元気ないな。」
寿樹にはウソは付けない、何でもお見通しだ。
「寿樹…、今日の時間が空いた時に、…いいかな?」
「それは、人払いが必要な事か?」
「う……ん」
「わかった」
寿樹は直ぐに状況を判断して答えを出してくれた、こういう所が頼もしくて好きだ。
とは言ったものの、僕が全く仕事が進まず、寿樹は隣で寝入ってしまった。
仕事が終わって、寿樹の寝顔を見に行く。
均等のいい顔立ちに僕の好きな寿樹の唇を眺める。
鬼空と弥生くんが仲良くしている姿に嫉妬する自分を報告したかった。
あぁ、けれど、今の寿樹を離したくない。
そんな事話したら……、寿樹が消えたりしたら、これ以上どうやって生きて行ったらいいかわからない。
寿樹の唇を指でなぞった。
僕からして、サクランボのような、思わず口にほおばりたくなる感覚に襲われる。
少しだけ、
少しだけ、自分を癒したかった。
少しだけサクランボに触れてみた、寿樹の香りがして僕はたまらなくなって、何度もサクランボに触れてみた。
ビックリして起きる寿樹。
「ホントに人払いが必要な事だな」
少し怒り口調で言う。
「ごめん、起こしちゃった。遅くなっちゃってごめんね、オヤスミ寿樹また明日。」
健太は、恥ずかしくなって早口で喋ると 自分の部屋に隠れるように出て行った。
はぁ、ドキドキした。寿樹少し怒ってたな、そりゃそうだよね。
僕って嫌われるような事ばかりしているのかもしれない、少し自分を改めよう。
布団を深くかぶってみたが、自分のしてしまった失態は隠れる事が無かった。
寿樹は、健太の様子に本当に深刻な状態を知る。
弥生くんにヘアスタイルを頼む鬼空。
健太の胸がチリっと痛んだ。
やっぱり、短くなったからといって、弥生くんは必要なんだね。
短い方が、セットに時間がかかるかもしれない。
僕は男だから、短い髪の事はわかる。
僕が鬼空を見つめている事に気が付いた様子だ。
鬼空が健太の方へやって来る。
来て、欲しい。
弥生くんのいる所から、僕のところへ来て。
「なんだ?」
「コホン。」
僕の目の前に来てくれた事が一番うれしかった。
「今日は、10時から祈祷が入ってます。」
鬼空に仕事のスケジュールを伝える。
「よし、おまえが段取りを組んでくれ。」
僕が時間の指示を出せという事だった。
鬼空は、スケジュールを見ない人だから、僕が時間前に度々言いに行かないとならない。
寿樹の時とやり方が違う。
でも、弥生くんから離す事が出来るので、少しこのままでいようと思う。
弥生くんは、庭の掃き掃除をしていればいい。
鬼空が着替える時間になっても 呼んでやらない。
僕一人で十分なのだから。
このセリフ、どこかで聞いたことがあるぞ。
弦賀さんだ。
たしか、弦賀さんも同じセリフを言った。
側近は自分も出来ますよ。って
僕に悪霊が付いたかもしれない。
祭壇で払って来よう。
幣殿に入ると、寿樹が祭壇を掃除していた。
「寿樹、掃除しなくていいのに。」
「これから祈祷があるだろ、その前に整えておこうと思ってな。」
「それは鬼空がする事だよ!ダメだよ甘やかしちゃ。」
「私がいる間しかやってやれん。」
「甘やかしだよ。」
「私のする事も無くなるのでな、助け合いというものだ。」
「寿樹……。」
……好きだよ。
言葉を押し潰した。
寿樹は赤城清一郎の妻だから。
お腹には、清一郎の子供を身籠って、正常に産まれるかわからないし、流産するかもしれない、産まれる確率の低い子供だとわかっていた。
「昨日は、私に話したい事があったんじゃないのか?」
「あ、それはもういいんだ。」
「本当か?あのキスだけで良かったのか?」
「あ、あれは、ごめんなさい。」
顔を真っ赤にして昨晩の事を思い出す。
「別に、私も告白したわけだし、今さら文句も言わん。」
「色々考える事があってね。まとまったらいつか寿樹に相談すると思うから。」
「そうか。」
「まだまだ、そのお腹の子も生まれて来ないし、寿樹はここに居るし。」
「そうだな。お腹の子に気を遣うでないぞ。」
「あ、あは。そこまで考えてないから 大丈夫。」
健太は笑って見せた。
僕は増々、悪い人です。
寿樹は赤城家の子供を身籠っているのに、僕はまだ寿樹の事が好きです。
ミキ役をしてくれた鬼空がどうしても気になって、弥生くんと一緒にいる姿に嫉妬しています。
弥生くんを外掃除にまわすし、寿樹のお腹の清一郎の子に、気は使えなくて……。
僕って最悪だ!
汚い、汚い、汚い。
「寿樹……、僕の何処が好き?」
突然聞いてしまった。
少し、考える素振りがかわいい。
「一生懸命なとこ」
また、少し考えている。
もどかしいな
「空気のような存在。」
ガーン!
居ても居なくてもいいのか、味も匂いも無し?
空気は僕も吸ってるよ、でも毎回吸ってるのに 気が付かないから。
気が付かない存在。
「そうなんだ。」
「そうだな。」
寿樹が誉め言葉でいったのも気が付かず、健太は落ち込んだ。
「どうした?」
「いや、何でもないよ。」
一生懸命やっても、空気のような存在の僕です。
祭壇の神具を拭く事に何の意味があるのか?と疑問に思う健太。
こんな所で、神具を磨いても 誰も喜ばないし、キレイにしてあって当たり前だし。
毎日、毎日この繰り返しで、僕は世の中の一体 何に役立っているのだろうか?
好きな寿樹は赤城家へ帰っちゃうし、鬼空はなんだか浮かない顔をしているし、弥生くんは邪魔だし、良い人を我慢して続けるって辛いんだよなぁ。
神具にため息がかかった。




