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健太の日記  作者: 蔓草登上
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岩に染みいる健太の泣き声

挿絵(By みてみん)

まだ、外の空気は冷たかった。




鬼空(きくうは、行衣ぎょうえを持って準備した。


「止めて下さいよ、今日は寒いですって。側近そっきんの言う事だって、鬼空さまなら却下きゃっか出来るじゃないですか。」


「いいんだ。」


弥生やよいくんと鬼空が小声で会話をしている。




健太けんたが、向かって行って


滝行たきぎょうは、もう少し温かくなってからで、いいよ。」


と鬼空に言った。




「それでは、滝行の意味がないだろう。」


と鬼空は参道さんどうへ向かった。


「あ」


「健太さんが、おれ達の事に口出しっておかしいですよ。」


横を通り過ぎる弥生くんが言った。




「な、なんだって?」


「だって、健太さんは寿樹じゅきさまがいるじゃないですか。心から繋がってる仲じゃないんですか?」


「やめなさい。」


鬼空が弥生を止めた。




「とにかく、おれ達の関係にとやかく言われる筋合い……。」


「弥生くーん!」


遠くで弦賀つるがが呼ぶ声があった。




「ほら、買い物の手伝いだ。呼んでるから行ってきなさい。」


「あ、はい。」


弥生はしぶしぶ向かって行く。






「僕は、最低だ。」


「そうか?健太は御師おんしを注意する、側近そっきんとして当然の事だ。だろう?」


「う、うん。」


行衣ぎょうえとタオルを沢山持って一緒に参道さんどうを上がる健太。






やっぱり、滝の周りの空気は、一層 寒そうだった。


「鬼空、滝行するの?」


「あぁ。」


「やめてもいいよ」


「おまえが代わりに滝行してもいいぜ。俺は見てるから。」


鬼空がお得意の顔をして健太を挑発する。


健太は 震え上がった。


そんな 度胸は無い。鬼空は そんな健太をいじっては笑った。




 滝の水は 雨が降らないせいで、それほど流れてはいなかった。


行衣ぎょうえに着替えた鬼空の胸板が、滝の水を吸うとうっすらと筋肉の形が現れ、水をはじき出す。


 手を合わせる指先により力が込められる。


精神統一をしている。


鬼空が真面目にする仕草ってやっぱりカッコいいな……。


健太はシッカリと見守り続けた。


 滝からの冷気がやってきて、見ている健太を身震いさせる。

服を着ているのに寒さを感じるのに、鬼空は裸で冷たい水に打たれている。

いつの間にか、先程まで鳴いていた鳥たちの声が無くなり、時が止まったかのように 滝音だけが健太の脊髄まで走り去って行く。

心地よい想いは何もなかった。

早く、早く、終わって欲しい。


ごめんなさい……僕が口走ってしまったばかりに……と祈る健太だった。




 終った鬼空が歩いて来るのを待てずに、滝壺たきつぼへ向かった。

タオルを直ぐに身体からだへかぶせる。

抱えるように、小屋の中へ連れて行く。


小屋の中は火をくべて温めておいた。

ココへは 電気が通っていないから、囲炉裏なのだ。



 鬼空が濡れた行衣を脱ぐと、手が凍えてうまく拭けない。健太はタオルで摩擦が(まさつ)が起こるかのように全身を拭いた。

摩擦で温めてやろうとゴシゴシ拭いた。


ゴシゴシ


ゴシゴシ


ゴシゴシ


「そんなに、ゴシゴシするな!」

鬼空が悲鳴を上げた。


「ごめん、やり過ぎた。」

白かったハズのタオルが 朱色に滲んでいた。


「あ、血?」


「ん?」


出血の出どころを探すと、小さなガラスを踏んでいたみたいだった。


「また……ガラス?」

寿樹もこれと同じように、足を切った事があったのを思い出す。


「寒くて気が付かんかった。」


「最近、人が来てゴミを捨てて行ってるようだから、ちゃんとした靴を履いた方が良いかも。」


「そうだな。」



鬼空の胸板に小さな水滴が落ちた。


一つ、…二つ、…落ちた。


その雫は暖かかった。



健太は背中を覆ったタオルを引きよせて、鬼空の胸元で泣いた。

鬼空の前で すするように大きく息を吸った健太。

「僕のいう事なんか 聞かなきゃ良かったのに……バカだなぁ」


健太の息が首に染みた。


「なんで、こんな時期に滝行なんてするんだよ!」


「おまえの気が済まんだろ?」


「僕だって頭に血が上るときぐらいあるさ。その時は叱ってよ。」


健太の背中をヨシヨシと撫でおろした。


鬼空に触れて、身体が冷めたいことがわかった。


慌ててギュっと抱きしめた、ガムシャラに鬼空を抱きしめた。


「ミキ……。」


僕のミキ。


「もぉ、ミキは居ないぞ。」


「わかってる!…………わかってる、わかってる、わかってるよぉうわぁぁぁぁぁぁぁ」


泣き叫んだ声が、滝の岩にしみいった。




「僕の中に、ミキが居る。」


「おまえに ミキは必要ない。」


「どうして?寿樹がいるから?」


乾いた白衣を着ると 囲炉裏の火に身を寄せる。




「俺がミキになっても、健太は寿樹を追っていたんだ。」


「記憶が無い時も、寿樹が気になっていたのは自分でもわかる。」


鬼空が囲炉裏の光に照らされて、こっくりと影を落とす。



「何を言っているの鬼空。僕の愛情は寿樹と変わらない、鬼空も好きだよ。」


鬼空は身体を暖めているだけで、何も言ってくれなくなった。




何がいけなかったんだろう?


やっぱり、双子とも好きなんて言ったのが鬼空を傷つける事だったのかな?






濡れた行衣とタオルを持って下山した。


「弦賀さんに診てもらって、消毒してもらってね。」


「こんなの、ほっとけば治る。」


「駄目だよ!ちゃんと消毒しなきゃ。」


幸い、鬼空は自分で歩けた。僕は おんぶする事は出来ないから良かった。


「今度は靴履きましょうね。」


鬼空は黙っていたので


健太は笑ってみせた。



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