腐らない保存庫
食料保存庫を作ります
「……狭いわね」
作りかけの保存庫を覗き込んだヴィオレッタが、腕を組みながら呟いた。
「まだ何も入れてないよ?」
隣に立っていたルシオンが、不思議そうに首を傾げる。
「だから問題なのよ。何も入れていない状態でこの広さなら、食料を運び込んだらすぐにいっぱいになるわ」
「でも、昨日までは十分だって言ってなかった?」
「昨日まではね」
ヴィオレッタは畑の方へ視線を向けた。
そこには、つい先日まで小さな芽だったとは思えないほど立派に育った野菜が並んでいる。
最初は四人で食べる分だけを育てるつもりだった。
ところが、収穫できる量が予想を遥かに上回ってしまったのだ。
「まさか、こんなに早く収穫できるようになるなんて思わなかったもの」
「いいことじゃん」
「もちろん嬉しいわよ。でも、食べ物は収穫すれば終わりじゃないの。保存できなければ腐らせてしまうでしょう?」
「じゃあ、もっと大きくする?」
「そうしたいけど、せっかくここまで作ったのよね……」
ヴィオレッタは保存庫の中を見回した。
地面を少し掘り下げ、木材で壁を補強した半地下式の保存庫。
屋根もほとんど完成している。
今から広げるとなれば、せっかく作った部分を一度壊さなければならない。
「だったら、隣にもう一つ作ればいいんじゃない?」
「もう一つ?」
「うん。こっちは普通の食料を入れて、もう一つは野菜とか果物用にすればいいと思う」
「……なるほど」
ヴィオレッタが考え込む。
「確かに、その方が管理しやすいかもしれないわね」
「では、用途を分けましょう」
いつの間にか近くへ来ていたミネットが口を開いた。
「こちらには穀物や乾燥肉、塩などを保管します。新しく作る方は野菜や果物の保存に使うのがよろしいかと」
「いいわね。それなら傷んだ食料を見つけるのも簡単になるわ」
「ただし、野菜の種類によって適した保存方法は異なります。すべて同じ場所へ入れるのは避けた方がいいでしょう」
「そこは棚を分ければいいわね」
二人が相談を始める。
ルシオンはしばらく話を聞いていたが、やがて小さく手を挙げた。
「じゃあ俺、隣を掘ってくる」
「待って」
「何?」
「まだ大きさを決めてないわよ」
「あ、そっか」
「あなたもリゼットと同じで、すぐ作業を始めようとするんだから」
「考えるより先に動いた方が早いかなって」
「それで何度やり直したと思ってるの?」
「……何回だっけ?」
「数えてないわよ!」
ヴィオレッタが呆れたように息を吐く。
そんな二人の会話を聞きながら、ミネットは紙を取り出した。
「では、先に配置を決めてしまいましょう」
地面に紙を広げ、保存庫の位置と大きさを書き込んでいく。
ルシオンが覗き込む。
「結構広いね」
「今後も収穫量が増える可能性がありますので、余裕を持たせておきます」
「まだ畑を広げてないのに?」
「広げる予定はあるのでしょう?」
「もちろん」
「でしたら、最初から想定しておいた方がよろしいかと」
「さすがミネット」
「ありがとうございます」
ミネットは淡々と答えた。
「ただし、ルシオン様には予定通りの大きさで掘っていただきます」
「俺、そんなに信用ない?」
「姉さんほどではありません」
「それならよかった」
「褒めてはいません」
ちょうどその時、森から薪を抱えたリゼットが戻ってきた。
「ただいま戻りました! 何の話ですか?」
「保存庫をもう一つ作ることになったの」
「おお! では私が掘ります!」
「駄目!」
「まだ何もしてませんよ!?」
ヴィオレッタの即答に、リゼットが不満そうな顔をした。
「この前みたいに大穴を開けられたら困るもの」
「あれは少し力加減を間違えただけです!」
「少しで地面があんなに陥没するの!?」
「次は気をつけます!」
「その言葉、前にも聞いたわよ……」
リゼットは肩を落とした。
その様子を見て、ルシオンは思わず笑ってしまった。
午前中は、まず一つ目の保存庫を完成させることになった。
残っていた屋根を取り付け、入り口に扉を設置する。
棚はミネットが寸法を測り、ルシオンが組み立てた。
リゼットは木材を運び、ヴィオレッタは完成した棚の配置を確認していく。
「こっちの棚はもう少し高くできない?」
「高くすると上の物が取りにくくならない?」
「軽い物を置けばいいのよ。下には重い袋を置いて、上には乾燥させた薬草や布袋を置くの」
「なるほど」
「それから、壁にぴったりつけないで。湿気が籠もると困るから、少し隙間を空けてほしいわ」
「分かった」
ルシオンが棚を動かす。
その間にミネットは換気口を確認していた。
「空気の通り道は確保できていますね。雨水が入り込まないよう、外側に覆いをつければ問題ないでしょう」
「じゃあ、これで完成?」
「ええ。少なくとも使い始めることはできます」
「やった!」
リゼットが嬉しそうに声を上げた。
ヴィオレッタも保存庫の中を見回し、満足そうに頷く。
「最初に比べたら、随分まともな生活になってきたわね」
「最初からまともだったと思うけど」
「床で寝て、川まで水を汲みに行っていた生活が?」
「自然に囲まれててよかったよ」
「あなた、本当に不便を不便だと思わないのね……」
「不便だったら直せばいいし」
「それを簡単に言えるところが、あなたらしいわ」
ヴィオレッタは小さく笑った。
完成した保存庫には、町で購入した穀物や塩、乾燥肉などを運び込んだ。
袋ごとに中身を書き、棚へ並べていく。
さらに、森で討伐した魔獣から得られた肉も運び込むことになった。
魔獣の肉は種類によって食用に適さないものもあるが、リゼットとミネットが仕留めた中には食べられるものも多い。
「このお肉は、なるべく早く食べた方がいいわね」
ヴィオレッタが肉の入った容器を確認しながら言った。
「どうして?」
「傷みやすいからよ。ここは地下だから多少涼しいけど、冷却魔法を使っているわけじゃないんだから」
「冷却魔法かぁ」
ルシオンは保存庫の中を見回した。
自分には魔力がない。
当然、冷却魔法なんて使えない。
「ミネットは使えないの?」
「使用は可能ですが、常に発動し続けるとなると魔力を消費します。私が外出している間も維持するとなれば、魔道具が必要ですね」
「魔道具って高い?」
「性能によりますが、安くはありません」
「そっか」
ルシオンは棚に並んだ食料を眺めた。
せっかく畑で野菜が採れるようになったのに、保存できずに捨てることになったらもったいない。
肉だって、リゼットたちが苦労して仕留めた魔獣から得られたものだ。
できることなら、最後まで美味しく食べたい。
(せっかく保存庫を作ったんだし、ここの食べ物がずっと新鮮なままだったらいいのにな)
ルシオンは心の中でそう願いながら、最後の容器を棚に置いた。
「ルシオン、終わった?」
「うん。全部入れたよ」
「じゃあ、次は野菜の保存方法を考えましょう」
「まだ仕事あるの?」
「当たり前でしょ。畑にはまだたくさん残ってるんだから」
「今日は忙しいなぁ」
「誰が畑を広げたいって言ってたのよ」
「俺です」
「分かってるなら手伝って」
「はいはい」
ルシオンは保存庫の扉を閉め、ヴィオレッタの後を追った。
昼食を済ませると、今度は収穫した野菜の保存作業が始まった。
テーブルには、朝採った野菜が並べられている。
「まず、すぐに食べる分はそのまま残すわ。残りは乾燥させたり、塩漬けにしたりして保存しましょう」
「乾燥させるって、干すの?」
「そうよ。薄く切って水分を抜けば、種類によっては長く保存できるの」
「へえ」
「ルシオン、包丁を持って」
「俺もやっていいの?」
「もちろん。ただし、厚さを揃えてね」
「分かった」
ルシオンは野菜をまな板に置き、慎重に切り始めた。
しばらくして、ヴィオレッタが手元を覗き込む。
「……ルシオン」
「何?」
「厚さを揃えてって言ったわよね?」
「揃えてるつもりだけど」
「これとこれ、倍くらい違うわよ」
「食べれば一緒じゃない?」
「乾燥させる時間が変わるの!」
「ああ、そっか」
ルシオンは改めて包丁を握り直した。
隣ではリゼットも野菜を切っている。
「私はどうですか?」
「……上手ね」
「本当ですか!?」
「ええ。意外と器用なのね」
「料理は好きですから!」
リゼットが嬉しそうに答える。
「力仕事ばかりしているから忘れそうになるけど、あなたって料理もできるのよね」
「忘れないでください!」
「姉さんは細かい作業も得意ですよ。力加減さえ間違えなければ」
ミネットが補足する。
「最後の一言、いりませんよね!?」
「事実ですので」
そんなやり取りをしながら、四人は野菜を切り分けていった。
乾燥させる分は清潔な網の上へ広げ、塩漬けにする分は瓶へ詰める。
ヴィオレッタは瓶を並べながら、ふと手を止めた。
「……そういえば、こういうことをする日が来るなんて思わなかったわ」
「保存食作り?」
「ええ。公爵家にいた頃は、食料の管理なんて使用人に任せきりだったもの」
「でも詳しいよね」
「領地経営の勉強はしていたから。食料の備蓄や流通についても教わっていたわ」
「じゃあ役に立ってるじゃん」
「知識だけはね。実際に自分で野菜を切ったり、瓶に詰めたりするのは初めてよ」
「でも、ヴィオレッタがいなかったら俺たち、採った野菜をそのまま置いてたと思う」
「……それは困るわね」
「だから助かってるよ」
ルシオンが笑う。
ヴィオレッタは一瞬だけ手を止めた。
「……そう」
それから、少し照れくさそうに視線を逸らす。
「だったら、もう少し丁寧に切ってくれると助かるんだけど」
「はい」
「返事だけはいいんだから」
ヴィオレッタも笑い、再び作業へ戻った。
夕方になる頃には、保存用に加工した野菜がかなりの量になっていた。
完成した保存庫には、瓶や袋を並べるための棚も増やしてある。
「これなら、しばらくは困らないわね」
ヴィオレッタが瓶を眺める。
「でも、畑にはまだ残ってるよ」
「分かってるわ。明日も少しずつ収穫しましょう」
「全部採らないの?」
「一度に採っても保存しきれないもの。必要な分だけ収穫した方がいいわ」
「なるほど」
ミネットが帳簿を開く。
「食料の購入量を減らせるのであれば、今後の支出も抑えられますね」
「そうね。魔獣素材を売って金貨四十三枚を手に入れたとはいえ、無駄遣いはできないもの」
「山羊は?」
ルシオンが尋ねる。
「まだ買わないわよ」
「そっか」
「そんなに山羊が欲しいの?」
「牛乳が飲みたい」
「だったら町で買えばいいでしょ」
「毎日飲みたい」
「……あなたね」
ヴィオレッタが呆れる。
だが、ミネットは少し考えてから口を開いた。
「乳を得るために家畜を飼育するという考え自体は、悪くありません」
「ほら!」
「ただし、飼育場所と餌の確保が先です。それに、毎日乳が出るとは限りません。乳を得られる状態の個体を選ぶ必要もあります」
「山羊って大変なんだね」
「生き物を飼うのですから当然です」
ルシオンは納得したように頷いた。
その時、外から鶏の鳴き声が聞こえてきた。
「コケッ! コッコッ!」
「あ、鶏!」
リゼットが立ち上がる。
「様子を見てきます!」
「もうすぐ夕食だから、あまり長くならないでね」
「はーい!」
リゼットが外へ駆けていく。
ミネットはその背中を見送りながら、帳簿を閉じた。
「姉さんはすっかり鶏を気に入ったようですね」
「可愛いって言ってたもんね」
「卵を採るのが目的だったはずなんだけど」
ヴィオレッタが苦笑する。
「まあ、ちゃんと世話してくれるならいいわ」
その日の夕食も、収穫したばかりの野菜を使った料理になった。
自分たちで育てたものを食べる生活にも、少しずつ慣れてきている。
もっとも、野菜が異常な速度で成長する理由については、誰も説明できないままだった。
翌日から、ルシオンたちは二つ目の保存庫作りに取りかかった。
今度は最初から寸法が決まっていたため、作業は順調に進んだ。
リゼットは大量の木材を一度に運び、ミネットは正確な寸法で木材を加工する。
ルシオンも穴を掘り、壁を補強し、屋根を組み立てた。
ヴィオレッタは必要な資材を確認しながら、四人の作業を手伝った。
数日後には、野菜や果物を保管するための保存庫も完成した。
「これで食料を置く場所には困らないね」
「そうね。あとは収穫量を見ながら調整していけばいいわ」
「じゃあ、畑をもっと広げてもいい?」
「今ある野菜を全部食べてから考えましょう」
「はーい」
ヴィオレッタは呆れながらも笑った。
その日の昼食を作ろうとした時だった。
「……あれ?」
保存庫から戻ってきたヴィオレッタが、不思議そうな声を上げた。
「どうしたの?」
「ねえ、ミネット。このお肉って、いつ保存庫に入れたものだったかしら?」
ヴィオレッタが持っているのは、魔獣から採れた肉だった。
ミネットは帳簿を確認する。
「六日前ですね」
「六日?」
「はい。保存庫が完成した日に運び込んだものです」
「……おかしくない?」
ヴィオレッタが肉を見つめる。
色も匂いも、保存した時とほとんど変わっていない。
触れてみても、表面に異常は感じられなかった。
「普通なら、もっと傷んでいてもおかしくないはずなのに」
「地下だから涼しいんじゃない?」
ルシオンが横から口を挟む。
「それはそうだけど……」
「ミネット、鑑定できる?」
「はい」
ミネットが肉へ手をかざす。
しばらくして、わずかに眉を動かした。
「……腐敗は確認できません。食用として問題ない状態です」
「ほら、よかったじゃん」
「よかったで済ませていいのかしら……」
ヴィオレッタは首を傾げる。
しかし、食べられるものを捨てる理由もない。
結局、その日の昼食には、その肉を使うことになった。
「おいしい!」
リゼットが嬉しそうに声を上げる。
「本当に保存していたお肉なんですか? さっき獲ってきたみたいです!」
「そうなのよね……」
ヴィオレッタも料理を口に運ぶ。
味も食感も、まるで新鮮な肉を調理したかのようだった。
「この保存庫、すごいですね!」
「そんなに特別な作りにはしていないはずなんだけど」
「魔境だからじゃない?」
ルシオンが言う。
ヴィオレッタがじろりと睨んだ。
「あなた、何でも魔境のせいにするのやめなさいよ」
「だって、他に理由が思いつかないし」
「……それはそうだけど」
ヴィオレッタも、それ以上は何も言えなかった。
さらに数日が経った。
ルシオンたちは畑の手入れや鶏の世話を続けながら、家の周囲を少しずつ整えていた。
そんなある日、保存庫の食料を確認していたミネットが、ヴィオレッタを呼んだ。
「ヴィオレッタ、少しよろしいですか?」
「どうしたの?」
「こちらをご覧ください」
ミネットが差し出したのは、以前収穫した野菜だった。
「……これ、いつの野菜?」
「最初に保存庫へ運び込んだものです」
「最初って……十日以上前じゃない!」
「はい」
ヴィオレッタは野菜を手に取った。
葉は青々としており、実にも張りがある。
まるで今朝収穫したばかりのようだった。
「どういうこと……?」
「私にも分かりません」
「乾燥させたものじゃなくて、生のまま保存していたのよね?」
「その通りです」
「……冷却魔法は?」
「使用しておりません」
「保存用の魔道具は?」
「設置しておりません」
ヴィオレッタは野菜を見つめたまま黙り込んだ。
「……ルシオンを呼んできて」
「承知しました」
少しして、畑で作業していたルシオンがやってきた。
「何かあった?」
「これを見て」
ヴィオレッタが野菜を差し出す。
「野菜だね」
「見れば分かるわよ!」
「じゃあ何?」
「十日以上前に収穫した野菜なの」
「へえ」
「へえ、じゃないの! どうしてこんなに新鮮なのよ!」
ルシオンは改めて野菜を見た。
確かに、今朝採ったものと言われても分からない。
「保存庫が優秀なんじゃない?」
「普通の木材と石で作っただけよ!」
「でも、地下だから涼しいし」
「それは前にも聞いたわ!」
ヴィオレッタが頭を抱える。
ミネットは冷静に口を開いた。
「念のため、保存庫内の魔力も調べてみましたが、特別な魔法が発動している形跡は確認できませんでした」
「じゃあ、本当に何もしてないのに新鮮なままってこと?」
「現時点では、そのように考えるしかありません」
「……そんなことある?」
ヴィオレッタが呟く。
ルシオンも保存庫の中を覗き込んだ。
棚に並んだ野菜。
容器に入った肉。
町で購入した食料。
どれも保存した時と変わらないように見える。
そこで、ふと以前のことを思い出した。
(……そういえば)
最初の保存庫が完成した日。
せっかく集めた食料を腐らせたくなくて、ずっと新鮮なままだったらいいのにと思った気がする。
(いや、まさかね)
ルシオンは小さく首を振った。
そんなことを思っただけで、食べ物が腐らなくなるはずがない。
もっとも、思い返してみれば、不思議なことは他にもあった。
森の火事で雨が降ってほしいと願った時には、突然雨が降った。
水汲みが大変だから近くに水が欲しいと思った時には、泉が現れた。
早く果物が食べたいと願った翌朝には、果樹が急成長していた。
野菜も同じだ。
(……偶然にしては、ちょっと多いような)
だが、以前試しに石を丸くしようと思った時には、何も起こらなかった。
もし自分の考えたことが現実になるのなら、あの時も石が丸くなっていたはずだ。
(やっぱり関係ないか)
「ルシオン?」
「ん?」
「何を考えてるの?」
「いや、何でもないよ」
ルシオンは笑って答えた。
「とりあえず、食べ物が腐らないなら助かるじゃん」
「それはそうだけど、原因が分からないのが問題なの!」
「でも、困ってないでしょ?」
「今はね! だけど、何か変なものが混ざっていたらどうするのよ!」
「鑑定では問題ないんだよね?」
「……そうだけど」
ヴィオレッタがミネットを見る。
ミネットは静かに頷いた。
「現時点で、食料に有害な変化は確認できません。ただ、原因が不明である以上、今後も定期的に確認した方がよろしいかと」
「そうね。それがいいわ」
ヴィオレッタは野菜を棚へ戻した。
「とにかく、しばらく様子を見ましょう。いつまでも新鮮だからって、無計画に食料を増やすのは禁止よ」
「えー」
「特にルシオン!」
「俺?」
「また畑を広げたいって言い出しそうだから」
「……ちょっと考えてた」
「ほら!」
ヴィオレッタが呆れたようにため息をつく。
そこへ、外からリゼットの声が聞こえてきた。
「ルシオン様!ヴィオレッタ!ミネット!」
「どうしたの?」
保存庫から出ると、リゼットが鶏小屋の前で手を振っていた。
「卵が三つありました!」
「おお!」
ルシオンが嬉しそうに声を上げる。
「じゃあ、明日は卵料理だね」
「はい!それと、鶏たちも元気いっぱいです!」
「よかったじゃん」
リゼットは満面の笑みを浮かべていた。
ヴィオレッタもその様子を見て、ようやく表情を和らげる。
「じゃあ、明日の朝は卵を使った料理にしましょうか」
「やった!」
「ただし、ルシオン。鶏をもっと増やしたいって言い出さないでよ?」
「……何で分かったの?」
「あなたの考えることくらい、もう分かるわよ」
ヴィオレッタが笑う。
ルシオンは少し不満そうな顔をしたが、すぐに笑い返した。
保存庫の食料が腐らない理由は、結局分からなかった。
それでも、食料を無駄にせずに済むのはありがたい。
ルシオンは完成した二つの保存庫を眺めながら、これからのことを考えた。
野菜も果物も育つようになった。
鶏も卵を産んでくれる。
保存庫には食料がたくさんある。
こうして少しずつ暮らしが便利になっていくのは、なかなか楽しい。
「ルシオン、何してるの?そろそろ夕食の準備をするわよ」
「あ、今行く!」
ヴィオレッタに呼ばれ、ルシオンは家へ向かって歩き出した。
その途中、もう一度だけ保存庫を振り返る。
(……でも、本当に不思議だよな)
自分が願ったことと、実際に起きたこと。
その奇妙な一致が少しだけ気になったものの、家から漂ってきた夕食の香りに、ルシオンの意識はすぐにそちらへ向いた。
「今日のご飯、何?」
「お昼に確認したお肉を使ったシチューよ」
「やった!俺、シチュー好きなんだよね」
「知ってるわよ。だから作ってるんでしょ」
ヴィオレッタが笑い、ルシオンも嬉しそうに食卓へ向かった。
保存庫の謎を調べるのは、明日でもできる。
今は温かいシチューを食べる方が、ルシオンにとってずっと魅力的だった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
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よろしくお願い致します。




