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罪人の王冠  作者: ZeroOne
4/5

功績

【試練4】


【目的:戦ってください】


【制限時間:―】


 次の瞬間、俺たちは明るい密室に立っていた。


 いるのは俺たち参加者と、教官だけ。


「今回の試練はとても簡単です。皆さんには二人一組になっていただきます」


 目の前にウィンドウが現れた。


【護衛対象:水瀬 葵】


 背筋に寒気が走る。


(なんでまたこいつなんだよ。……つけ回されてる気分だ)


 その本人が俺のところへ駆け寄ってきた。


「また一緒だね。これって運命?」


「パートナーが死亡した場合、その時点で失格となります」


 誰かがほっと息を吐いた。


「じゃあ、お互いを守ってればいいってことか?」


「その通りです!」


 教官が人差し指を立てる。


「そして、ここからが面白いところです」


【参加者殺害報酬:銅貨10枚】


 部屋が静まり返った。


「最初の死者が出た時点で、十分間のカウントダウンが開始されます。時間切れまで生き残れば、試練クリアです」


「……誰も殺さなかったら?」


 教官は笑った。


「その場合、試練は永遠に終わりません」


(このクソ野郎……)


「それでは、試練開始です!」


 俺は葵の手首を掴んだ。


「えっ!?」


「来い」


「どこに!?」


 そのまま教官目掛けて走る。


「ちょ、まさか――」


 教官の首目掛けて剣を振り抜いた。


 ――キィン!


 見えない何かに弾かれ、剣が跳ね返される。


「おお~、面白いことを考えますねえ。ですが、やはりルールには従っていただかないと」


 教官は親指を立てた。


 ……いい加減、その仕草が腹立たしい。


(教官は相変わらずその場から動かない。それに、攻撃も通らない)


 俺は教官の後ろへ回り、壁に背中を預けた。


 葵の手はまだ離していない。


(ここで殺し合えば、次の試練に持ち越せる人数が減るだけだ)


「最初の一人が死んでから十分……」


 周囲を見回す。


 誰も動いていなかった。


「だったら、誰も殺さなきゃいい」


「いつまでここにいるつもりだ?」


「こいつが飽きるまでだ」


 教官を見る。


 相変わらず笑っている。


(……それか、誰かが銅貨十枚を欲しくなるまで)


「おい、お前ら! 今のうちに休んどけ! 誰かが死なない限り試練は終わらない。だったら、戦わずに休めるってことだ」


 しばらくすると、皆もようやく緊張を解き、次々と床に腰を下ろした。


 少しくらい休めるのは、誰にとってもありがたいはずだ。


 ――休んでいる無防備な人間を狙おうなんて馬鹿が出てこない限りは。


 俺は教官に目を向けた。


 そこで、ようやく妙なことに気づく。


 笑っていない。


 初めてだった。


 腕を組み、険しい目でこちらを見ている。


 いや。


 俺を見ていた。


「……ずいぶん頭の回る方がいたものですね」


(なるほど)


 思わず口元が緩む。


(気に入らねえってわけか)


 だが、何も起こらない。


 教官が気に入らないからといって、試練の条件が変わる様子もなかった。


 つまり、こいつはシステムを完全に支配しているわけじゃない。


 権限そのものが存在するのかは分からない。


 だが、少なくとも自由自在ではないらしい。


「ねえ、何歳?」


「二十」


「私は十八」


「聞いてない」


「犬、飼ってた?」


「いや」


「猫は?」


「いない」


「彼女は?」


「どうでもいいだろ」


「じゃあ、いたんだ」


「そんなこと言ってねえ」


「じゃあ、いなかったんだ」


「……」


「なるほど」


「暇なのか?」


「暇だから話しかけてるんだけど」


 十分。


 二十分。


 皆、床に座ったまま、それぞれのパートナーと話していた。


 葵も何度か話しかけてきたが、俺はほとんど短く返すだけだった。


 だが、時間が経つにつれて、少しずつ空気が張り詰めていく。


 皆、十分に休んだ。


 つまり――銅貨十枚が、再び魅力的に見え始める頃だ。


 俺は立ち上がった。


「葵。もっとこっち来い」


「ん?」


 肩を掴んで引き寄せ、葵を壁との狭い隙間に入れる。


「ちょっと……」


「離れすぎると守れねえ」


「……先にそう言ってよ」


 葵は少し頬を赤くしたが、離れようとはしなかった。


 そのとき。


 一人が立ち上がった。


 四十歳くらいの、禿げた男。


 ここ数分、何度もこっちを見ていた奴だ。


 その手には斧が握られていた。


(……来たか)


 教官が笑った。


 男が駆け出す。


 俺じゃない。


 葵に向かって。


 当然か。


 俺ではなく――弓を持った女。


(クソ野郎。一番やりやすそうな相手を選びやがった)


「死ねえええ!」


 唾を撒き散らしながら、男が斧を振り上げる。


 俺は剣を前に出しながら、葵を後ろへ押しやった。


 斧が振り下ろされる。


 剣で受ける気はなかった。


 腕を狙って斬る。


 刃が手首の少し上に食い込んだ。


 男の指が開く。


 ――ガランッ。


 斧が石床に落ちた。


 一瞬遅れて、絶叫が部屋中に響き渡る。


「ぎゃあああああっ! 俺の腕があああ!」


 男が傷口を押さえる。


 だが次の瞬間、我を失ったように俺へ飛びかかってきた。


「てめえ……てめえも死ねええ!」


 二度目を待つつもりはなかった。


 一歩踏み込む。


 剣を突き出した。


 刃が男の首に食い込む。


 そして、システムは何の感情もなく告げた。


【参加者を殺害しました】


【殺害報酬:銅貨10枚】


 目の前の文字を見つめる。


(……金のために殺したんじゃねえ)


【罪悪感を検知しました】


【スキル『罪悪感抑制Ⅰ』を使用しますか?】


【使用料金:銅貨5枚】


(使わねえ)


【銅貨10枚を獲得しました】


(……黙れ)


【レベルが上昇しました】


(レベル?)


 これまでの試練で蓄積していた疲労が、嘘のように身体から引いていく。


 拳を握る。


 強い。


 明らかに、さっきまでより力がある。


【試練終了まで:09:59】


 一分。


 二分……。


 意外なことに、それ以上の戦いは起こらなかった。


 葵が俺の身体に寄り添っている。


 こんな狭い場所じゃ、弓使いにできることなんてほとんどない。


 結局、頼れるのは自分だけだ。


 ……だが。


(情を移すな)


 こいつだって、いつ死ぬか分からない。


【試練終了まで:00:00】


【試練4 クリア】


【報酬:銅貨15枚】


【功績ランキング】


【1位:佐藤悠真(死亡)】


 俺はその名前をもう一度読み直した。


 それから、足元に転がる死体を見る。


(……こいつ?)


 今回、死んだのは一人だけ。


 自分の意思で最初に戦いを始めたのも、こいつだけ。


 そして、一位になったのもこいつだった。


 殺した俺じゃない。


 パートナーを最後まで守った奴らでもない。


 俺はゆっくりと教官へ視線を移す。


 教官は笑っていた。


(……ここじゃ、これが『功績』になるのか?)


(先に殺そうとした奴が、一番評価される……)


【あなたは呪われています。あなたは死にます】


【試練4】


【レベル:4】


【筋力:17】


【敏捷:17】


【生命力:12】


【魔力:1】


【スキル:―】


【所持金:銅貨55枚】


(全部二ずつ上がったのか)


 もう一度、拳を握る。


(……まあいい。これは使える)

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