↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪人の王冠  作者: ZeroOne
3/5

敵は人間

「さてさて、次は……これです!」


「は? もう!?」


 休む暇すら与えられなかった。


 前回、上位十名に入れなかった者たちは、ゴブリンとの戦いで負った傷からまだ血を流している。


 一人の男は立っているのがやっとで、別の男は裂けた腹を手で押さえていた。


 だが、そんなことは誰も気にしていない。


【試練3】


【目的:戦ってください】


【制限時間:―】


 試練のフィールドが消えた。


 次の瞬間、俺は馬に轢かれかけた。


 慌てて後ろへ飛び退き、そこでようやく自分たちがどこにいるのか気づく。


 周囲には、何百もの騎兵が静止していた。


 黒い鎧。


 角。


 牙。


 剣と長い槍。


 悪魔のような異形の騎兵たちが、俺たちを取り囲んでいる。


 それなのに、辺りは不気味なほど静かだった。


 馬は前脚を上げたまま。


 マントは風になびいたまま。


 舞い上がった砂埃さえ、空中で静止している。


 時間が止まっていた。


「皆さんには、参加者の半数が死亡するまで最前線で戦っていただきます」


 俺の視線が教官に止まる。


 汚れ一つない服。


 傷一つない腕。


 血もない。


 傷もない。


(待てよ)


 ついさっきまで、こいつの身体には十人分の傷が刻まれていたはずだ。


(……どこに消えた?)


「半分だと!?」


 群衆から上がった叫びに、思考を遮られた。


「それと、もう一つ」


 男は人差し指を立てる。


「国家への裏切りには、罰が与えられますのでご注意を」


「どこの国だよ!?」


「それでは、頑張ってください!」


「待て、クソ野郎!」


 男の姿が消えた。


 同時に――世界が動き出した。


 凄まじい蹄の音が耳を打つ。


「下がれ!」


 遅い。


 馬が俺の身体すれすれを駆け抜けた。


 すぐ近くにいた誰かは避けきれず、地面に弾き飛ばされる。


 その身体を、後続の騎兵たちが次々と踏みつけていった。


 悲鳴はすぐに途切れた。


 悪魔たちが隊列を詰める。


 俺たちは強制的に前へ押し出されていった。


「押すな!」


「このままじゃ潰される!」


「どこに行けってんだよ!?」


 答えはすぐに現れた。


 前方に、もう一つの軍勢が見えてきた。


 俺は剣を構え――固まった。


 人間。


 普通の人間だ。


 角もない。


 牙もない。


 見たことのない紋章を掲げ、その槍先をこちらへ向けている。


(俺たちの敵が……人間?)


 背後では悪魔たちが咆哮を上げる。


 前方では人間たちが槍を構える。


 そして、その間にいるのが俺たちだ。


(なんだよ……これ)


 ようやく分かった。


 この世界は、本物の地獄だ。


 俺たち人間が、少しずつ悪魔になっていく地獄。


 俺たちは化け物の軍勢に放り込まれ、人間を殺せと命じられている。


 拒めば、味方であるはずの連中に踏み潰される。


「玲司!」


 聞き覚えのある声。


 数メートル離れた場所に、弓を手にした葵がいた。


「どうするの!?」


「生き残る!」


 それ以外の答えなんてなかった。


 二つの軍勢が激突した。


 まるで巨大な壁同士が正面からぶつかったような衝撃だった。


 金属が鳴り響く。


 馬がいななく。


 誰かが叫ぶ。


 血が宙を舞う。


 そして俺たちも、その中へ飲み込まれた。


 一騎の騎兵が俺へ向かってくる。


 人間だ。


 若い。


 俺より少し年上くらいか。


 手には槍。


 俺は反射的に少しでも弱そうな相手を探し、その中でも小柄な馬に目をつけた。


(くそっ)


 剣を両手で握り直す。


(徒歩で馬に挑むなんて、自殺行為だろ)


 だが、他に選択肢はない。


 一歩下がれば、悪魔の騎兵に踏み潰される。


 前へ進めば、人間を殺すことになる。


 なら、人間側につく?


【国家への裏切りには罰が与えられます】


 そもそも、何をすればシステムに「裏切り」と判断されるのかすら分からない。


 騎兵が迫る。


 十メートル。


 七メートル。


 五メートル。


 男が槍を下げた。


(考えるのは後だ)


 俺は横へ飛んだ。


 穂先が顔のすぐ横を通り過ぎる。


 そのまま馬の前脚へ剣を振り抜いた。


 刃が肉に食い込む。


 馬が甲高い悲鳴を上げた。


 巨体が前へ崩れ落ち、騎手が鞍から投げ出される。


 男は俺のすぐ近くに叩きつけられた。


 目が合った。


 人間だ。


 怯えた、一人の人間。


 さっきまで殺していた化け物たちとは、まるで違う。


 男が剣へ手を伸ばした。


 俺も剣を構える。


(……最悪だ)


【スキル『罪悪感抑制Ⅰ』を使用しますか?】


【使用料金:銅貨5枚】


 俺は数秒間、その表示を見つめた。


(……ふざけんな)


 上段から斬りつける。


 男は剣で受け流した。


 横から振るう。


 また防がれる。


 もう一度。


 外れた。


(なんなんだ、こいつ!?)


 そこでようやく気づいた。


 俺がゴブリン相手に戦えていたのは、あいつらが俺より弱く、頭も悪かったからだ。


 こいつは違う。


 この男は剣の使い方を知っている。


 俺は――知らない。


 最初の傷が肩に走った。


 次は脇腹。


 数秒後には、もう攻撃なんてしていなかった。


 ただ生き残ろうとしていた。


 身体に一つ、また一つと傷が増えていく。


 そしてついに――


 剣が俺の首元まで迫った。


 その刃が、止まる。


「……は?」


 男も。


 馬も。


 飛び散った血も。


 すべてが再び静止していた。


【試練3 クリア】


【報酬:銅貨7枚】


「また一分もかかりませんでしたね~。皆さん、本当に優秀です!」


「お前、ふざけてんのか!? 俺たちは虫みたいに死んでんだぞ! 何がおめでとうだ!」


 傷だらけの男が教官の胸ぐらを掴んだ。


「さて、そろそろ功績ランキングを発表しましょうか」


 だが教官は、男の言葉など聞こえていないかのように無視した。


【功績ランキング】


【1位:黒川玲司】


【2位:高橋美咲】


【3位:水瀬 葵】


【あなたは1位です】


【追加報酬:銅貨15枚】


【1位連続獲得ボーナス:銅貨1枚】


(……また?)


 前回は、まだ分かる。


 俺はゴブリンを何匹も斬った。


 だが今回は?


 あの男一人すら殺していない。


(なのに、なんで俺が一位なんだ?)


 当然、何を基準に「功績」と判断しているのかなんて説明はない。


 しかも今回は、三位までしか表示されていなかった。


 システム側の制限なのか。


 それとも、四位以下には「功績」と呼べるものすらなかったのか。


 分からない。


「おお、また一位じゃん」


 葵がこちらへ駆け寄ろうとした。


 だが彼女より先に、教官が俺の目の前に立つ。


「また一位ですか。素晴らしいですね」


 教官は親指を立てると、再び俺の手に触れた。


 痛みが消えていく。


 傷と一緒に。


 いや。


 消えたんじゃない。


 別の誰かへ移っただけだ。


 俺の胸の傷が閉じる。


 同じ傷が教官の胸に開いた。


 俺のものより深い。


 続いて腕の切り傷が消える。


 教官の腕が裂けた。


 俺は目を逸らさなかった。


「どうしました?」


「別に」


 男が笑う。


「私のことが心配ですか?」


「死ね」


「ひどいですねえ」


 そう言って、教官は美咲のもとへ向かった。


 俺はその背中を見続けた。


 前回、あれだけあった傷は一分もしないうちにすべて消えていた。


 自分の手を見る。


 『鑑定』を使えば、システムは金を奪う。


 治療をすれば、こいつは自分の身体で代償を払う。


(なら……こいつは傷を消すために、何を払った?)


【あなたは呪われています。あなたは死にます】


【試練3】


【レベル:3】


【筋力:15】


【敏捷:15】


【生命力:10】


【魔力:1】


【スキル:―】


【所持金:銅貨30枚】


(……は?)


 もう一度、表示を見る。


【魔力:1】


(魔力……?)


 確か、前はゼロだった。


 いや。


(……本当にゼロだったか?)


「さあ! それでは試練四に進みましょう!」


 誰も文句を言わなかった。


 少し前まで、あれだけ教官に怒鳴っていたのに。


 今はただ、静まり返っている。


 俺も何も言わなかった。


 諦めたわけじゃない。


 ただ――


 もう怒る気力すら残っていなかった。


【試練4】


 新しいウィンドウが目の前に現れる。


「……またかよ」


【試練4】


【目的:戦ってください】


【制限時間:―】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。