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罪人の王冠  作者: ZeroOne
2/5

すべてに金を払え

【試練2:戦ってください】


【制限時間:―】


 俺たちを囲んでいた障壁が徐々に白く濁り始めた。


 やがて向こう側が完全に見えなくなる。


 次の瞬間、障壁の境界がどんどん遠ざかり、足元には草が生え始めた。


 気づけば俺たちは、何もない広大な平原の真ん中に立っていた。


「皆さんにはゴブリンと戦ってもらいます。頑張ってください!」


 あちこちから不満の声が上がった。


「でも……私、戦い方なんて知らない……」


「どうせ全員死ぬんだろ!? だったら、なんで戦わなきゃいけないんだよ!」


 男は相変わらず、不気味な笑みを浮かべていた。


「立派に死ぬために戦ってください」


 その瞬間だった。


 俺たちの周囲に、大量のゴブリンが出現した。


 千匹――いや、それ以上いるかもしれない。


 対して、こちらはたった五十人ほど。


 だがゴブリンたちは動かない。


 まるで俺たちだけを残して、時間そのものが止まっているかのようだった。


「参加者が十人死亡した時点で、この試練は終了します。そして、最も多くの命を奪った方々には報酬を差し上げましょう」


 男の周囲に障壁が現れた。


【殺害した生物:0】


「ですが――」


 男の笑みが深くなる。


「別に、ゴブリンを殺せとは誰も言っていませんよ」


 ざわめきが止まった。


「人間を十人殺せば、その瞬間に試練は終了します。そして少なくとも、あなた自身は死なずに済みます」


 相変わらず、ムカつく笑顔だ。


「おい、クソ教官。俺もその障壁の中に入れろ」


 返事はない。


 男はただ笑っていた。


 次の瞬間――


 ゴブリンたちが、一斉に動き出した。


「おい、そこの女。さっさと武器を選んだ方がいいぞ」


「守ってくれないの?」


「断る」


「ひどい」


 少女の手に弓が現れた。


 そして、ゴブリンたちが襲いかかってきた。


 最初の犠牲者が出るまで、大して時間はかからなかった。


 多く殺した者ほど多くの報酬を得られる。


 そう聞かされてはいた。


 だが、実際にはそんなことを考えている余裕なんてない。


 これは競争なんかじゃない。


 ただの生存戦だった。


 敵が多すぎる。


 視界の端で、二人の男が互いに掴みかかっていた。


 どうやら、あの「教官」は思惑通りに事を運んだらしい。


 俺は少女にも警戒していた。


 だが意外にも落ち着いていて、俺に襲いかかってくる様子はない。


 俺が元バイカーだと聞いて警戒しているのかもしれない。


 ゴブリンが俺に飛びかかってきた。


 剣を突き出す。


 刃が、生き物の身体に突き刺さった。


 人の鼻をへし折ったことなら何度もある。


 だが、生き物に刃物を突き刺したのは初めてだった。


 少女は離れた場所から矢を放っている。


(……剣なんか選んで最前線に立ったのは失敗だったか)


 だが、考えている暇はなかった。


 二匹目。


 三匹目。


 四匹目。


 肉を斬るのは、思っていたより簡単だった。


 だが刃が骨に当たるたび、嫌な震動が腕から全身へと伝わってくる。


 ゴブリンは次から次へと押し寄せた。


 やがて、数が多すぎて捌ききれなくなる。


 剣を弾き飛ばされた。


「くそっ!」


 拾おうと手を伸ばした瞬間、背中に激痛が走った。


 ゴブリンが俺の背中に噛みついている。


 さらに、斧を持った一匹が俺に一撃を叩き込んだ。


 鈍い衝撃。


 死ぬほど痛い。


 それでも止まれない。


 ゴブリンは噛みつき、殴り、頬を引っ張り、武器を振り回す。


 俺はもう立っているのが不思議なくらいボロボロになりながら、それでも抵抗を続けた。


 ――そして突然。


 すべてのゴブリンが消えた。


「……は?」


 周囲を見回す。


 生き残った人間たちの間に、十人の死体が転がっていた。


 その中には、さっき互いに掴み合っていた二人もいる。


(大勢の化け物に囲まれてる最中に、人間同士で殺し合いかよ)


 馬鹿にもほどがある。


【試練2 クリア】


【報酬:銅貨5枚】


「おお~! たった一分で終わりましたね~! おめでとうございます!」


 何がおめでとうだ。


 俺たちはたった一分で、十人も仲間を失ったんだぞ。


 少女は生きていた。


 そりゃそうだ。


 他人を肉壁にして後ろから撃ってりゃ、生き残るのも楽だろう。


 まあ、俺の周りにいたゴブリンもかなり射抜いてくれていた。


 文句を言う筋合いはない。


「おい……お前、一体何がしたいんだよ……!」


 傷だらけの男が障壁へ近づき、血まみれの拳を叩きつけた。


「さて! それではランキングを発表しましょう!」


 教官は何事もなかったかのように続ける。


「殺害数上位十名は、私が直々に治療して差し上げます!」


【1位:黒川玲司】


【2位:水瀬 葵】


【3位:佐藤悠真】


【4位:高橋美咲】


【5位:中村拓海】


【……】


【あなたは1位です】


【追加報酬:銅貨7枚】


(俺が……一位?)


【あなたは呪われています。あなたは死にます】


【試練2】


【レベル:3】


【筋力:15】


【敏捷:15】


【生命力:10】


【魔力:0】


【スキル:―】


【所持金:銅貨14枚】


「私、二位だった。あなたは?」


 また少女が近すぎる距離にいた。


「たぶん七位くらいだ」


 その直後、「教官」がこちらへ歩いてきた。


「おや、いましたね。我らが第一位」


(……速攻でバレた)


「嘘つき。ふん」


 少女は腕を組み、そっぽを向いた。


「じゃあ、黒川玲司っていうんだ? 名前までバイカーっぽい」


「どうでもいいだろ」


 俺は男に手を差し出した。


 男がその手に触れる。


 しばらくすると、背中の痛みが少しずつ消えていった。


 俺はゴブリンに噛まれた場所へ、反射的に手を伸ばす。


 傷がない。


 血すら残っていなかった。


「これは……」


 そこで言葉が止まった。


 男の腕に傷が現れた。


 俺にあったものと同じ――


 いや。


 違う。


 深い。


 俺の傷より、遥かに深い。


 肩に残っていた斧の傷も消える。


 その瞬間、男の身体がぐらりと揺れた。


 男の肩の肉が裂けていた。


 俺は男を見つめる。


「……何してる?」


「あなたを治しているんですよ」


「なんだよ、そのスキル」


「傷を治療できます。強力でしょう?」


 男は笑った。


「あなたもこれくらい強くなってください」


「……スキルってのは、全部何かしら代償が必要なのか?」


 男は答えなかった。


 そのまま俺から離れていく。


 そして順位の高い者から順番に、上位十人の傷を治療していった。


 だが――


(本当に、あのランキングは教官が言った通りの基準で決まってるのか?)


 そう考えた、その瞬間。


「うっ……!」


 突然、胃の中のものが込み上げてきた。


「おぇっ……!」


 俺はその場で吐いた。


 まあ、当然といえば当然だ。


 あんなものを見て、あんなことをした直後なんだから。


「うわ……」


 少女が顔を背ける。


【スキルを使用しました:嘔吐】


【料金:銅貨1枚】


 俺は固まった。


(……は?)


 ゆっくり口元を拭う。


(これもスキル扱いなのか?)


 じゃあ、他には?


 走ることは?


 寝ることは?


 呼吸は?


(……いや。呼吸はさすがに無料だろ。じゃなきゃ、とっくに全員破産してる)


 たぶん。


(なら……)


 俺は心の中で「鑑定」を使おうと念じた。


【スキルを使用しました:鑑定Ⅰ】


【料金:銅貨3枚】


 教官へ鑑定を使う。


【鑑定に失敗しました】


【料金を徴収します……】


(ふざけんな。だったら……鑑定!)


【スキルを使用しました:鑑定Ⅰ】


【料金:銅貨3枚】


 今度は少女へ向けて使った。


【性別:女性】


【料金を徴収します……】


 俺は数秒間、その結果を見つめた。


 それから少女を見る。


 もう一度、結果を見る。


(……そりゃどうも。自分じゃ絶対分からなかったよ)


【あなたは呪われています。あなたは死にます】


【試練2】


【レベル:3】


【筋力:15】


【敏捷:15】


【生命力:10】


【魔力:0】


【スキル:―】


【所持金:銅貨7枚】


(……これで、金の半分が消えた)

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