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罪人の王冠  作者: ZeroOne
1/5

獣たちの世界

(ここは……どこだ? 暗い)


(ああ、そうか。俺、死んだんだったな)


 妙だな。


 じゃあ、ここが死後の世界ってやつか?


 生きていた頃の俺は、相当な馬鹿だった。


 喧嘩、バイク、つるんでいた仲間たち――そんな生活をしていれば、喧嘩の末に死ぬことになったって、別に不思議じゃない。


 けれど今は、不思議なくらい穏やかな気分だった。


 何か温かいものに引き寄せられているような……まるで、母親の温もりに包まれているような。


 突然、目が開いた。


 また、知らない場所だ。


 俺は地面に横たわっていた。


 周りを見れば、同じように大勢の人間が倒れている。


 立っているのは、たった一人。


 一人の男が、笑っていた。


 なぜだろう。


 その笑顔を見た瞬間から、俺は妙に気に入らなかった。


「皆さん、こんにちは。死後の世界へようこそ!」


 例の奇妙な男がそう言った。


 周囲の人々がざわめき始める。


 誰一人、自分たちがどこにいるのか分かっていないようだった。


「まずは『システム』と口にしてみてください」


「システム? 何の――」


 その瞬間、目の前に半透明のウィンドウが現れた。


 まるでゲームだ。


【あなたは呪われています。あなたは死にます】


【試練1】


【レベル:3】


【筋力:15】


【敏捷:15】


【生命力:10】


【魔力:0】


【スキル:―】


【所持金:0】


「それが皆さんのステータスです。ご覧の通り、皆さんは呪われています」


 誰かが乾いた笑いを漏らした。


「それって……どういう意味だ?」


 男は笑った。


「皆さんは死ぬ、という意味ですよ」


 静寂。


「それまでは試練を乗り越えてください。戦い、強くなってください。そして、もちろん……」


 男は人差し指を立てた。


「お金を払うのも忘れずに」


【試練1:戦場を観察してください】


【残り時間:09:59】


 俺は周囲を見回した。


 俺たちを囲むように、巨大な障壁がそびえている。


 そして、その向こうでは凄惨な戦いが繰り広げられていた。


 いや――戦いなんて生易しいものじゃない。


 虐殺だ。


 エルフ。


 オーク。


 ゴブリン。


 それだけじゃない。


 地球で見たことのある、ごく普通の動物までいる。


 誰も彼もが、互いを殺し合っていた。


 地面は血と踏み荒らされた草が混ざり合い、泥のようになっている。


 そして一番近くの木には――


 キリンの頭がぶら下がっていた。


(なんだよ、これ……)


 当然、この光景を楽しめる奴なんてほとんどいなかった。


 俺もその一人だ。


「な、なんなんだよ、これ……!」


 周囲が一気に騒がしくなる。


 障壁の向こうは、文字通りの地獄絵図だった。


 そのとき、突然新たなウィンドウが現れた。


【武器を選択してください】


「まさか……俺たちも……」


「おい、てめぇ! これはどういうことだ!」


 群衆の中から一人の男が剣を取り出し、笑っている男へと切っ先を向けた。


「おや~? いいですよ。やってみなさい、ひよっこ君」


 男が剣を振り下ろす。


 だが――


 ガキンッ!


 剣は弾かれた。


「なっ……!? お前、人間じゃないのか!?」


「れっきとした人間ですよ。ただ、私はレベル344です」


 男は何事もなかったかのように笑っている。


「皆さんも同じレベルまで到達すれば、このくらいにはなれますよ」


 一瞬だけ間を置き、


「――そこまで生きていられれば、ですが」


 ここで丸腰のままなのは危険だ。


 俺は剣のアイコンを押した。


 すると次の瞬間、一本の剣が手の中に現れる。


 剣を前に構え、俺は障壁を背にした。


 喧嘩なら嫌というほど経験してきた。


 剣を使ったことはないが、それでもここにいる連中の大半よりは自分の身を守れるはずだ。


「それ、使えるの?」


 俺は声のした方へ振り向き、反射的に剣先を向けた。


 十七歳くらいの少女が、俺の剣を見つめている。


「ここの大半よりはな」


「軍人だったの?」


「似たようなもんだ。バイカー」


「……全然違うと思うけど」


「近すぎる。離れろ」


「ん」


 沈黙が流れた。


 少なくとも、俺たち二人の間には。


 他の連中は違った。


 全員であの笑顔の男を質問攻めにしていたが、男は頑なに沈黙を貫いている。


 すでに戦う準備を整え、障壁の前に陣取っている奴もいた。


 だが俺は、障壁に背を向けたままだった。


 このシステムが自分で示したルールを守るのなら、制限時間が切れるまでは障壁も消えない。


 そう考えたからだ。


 少女は言われた通り少し離れたものの、まだ俺の近くにいた。


 俺のそばにいる方が安全だと思っているらしい。


 妙な奴だ。


 そうして、残り時間は何事もなく過ぎていった。


【残り時間:00:10】


 俺は障壁の方へ振り返った。


【残り時間:00:00】


 何も起こらない。


 障壁は消えない。


 オークたちが襲いかかってくることもない。


 門が開くこともない。


「……で?」


 誰かが最初に沈黙を破った。


 男は肩をすくめる。


「何がです?」


「俺たちは戦わなくていいのかよ!?」


「私がいつ、戦えと言いました?」


 俺はゆっくりと剣を下ろした。


 このクソ野郎。


 まだ笑ってやがる。


【試練1 クリア】


【報酬:銅貨2枚】


 ウィンドウの右端に表示されていた数字が変化した。


【所持金:銅貨2枚】


 銅貨二枚。


 十分間、突っ立っていただけ。


 悪くない。


 剣をしまおうとした、そのときだった。


「お前、ふざけんなよ!?」


 近くから怒鳴り声が聞こえた。


 振り返る。


 障壁のすぐそばで、二人の男が掴み合いになっていた。


 一人は切られた手を押さえ、もう一人はまだ剣を握っている。


「わざとじゃねえよ!」


「わざとじゃないだと!? 手ぇ切りやがったくせに!」


 数滴の血が地面に落ちた。


 俺はそれを二秒ほど眺め――視線を逸らした。


 俺には関係ない。


「あなたも二枚?」


 またあの少女が隣にいた。


「何が?」


「お金」


 俺はシステムを開いた。


【所持金:銅貨2枚】


「ああ」


「それで何を買うの?」


「知るかよ」


 少女はあの男へ視線を向けた。


「お金を払うのを忘れるなって言ってたでしょ」


 そうだった。


 もう忘れかけていた。


【スキルショップが解放されました】


【アクティブスキル】


【鑑定Ⅰ――銅貨3枚】


【応急手当Ⅰ――銅貨3枚】


【パッシブスキル】


【剣術Ⅰ――金貨10枚】


【痛覚耐性Ⅰ――金貨20枚】


【魔法Ⅰ――金貨70枚】


「なんだよ、この値段……。一個も買えねえじゃねえか」


「さて、それでは次の試練を始めましょう」


【試練2:戦ってください】


【制限時間:―】


(……やっぱり、そうなるよな)

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