武将 島津義弘 第35話 耳川の戦場確認
天正四年(1576)九月下旬。
耳川手前の段丘に着くと、
川音がはっきりと聞こえてきた。
水量が多い日は、
川面が岩に当たって砕ける音が
遠くまで響く。
義弘は馬を止め、
川霧の有無を確かめた。
耳川は夕刻になると霧を吐きやすく、
視界が揺らぐことが多い。
南岸の地形を見渡すと、
段丘が幾重にも重なり、
その先に川面が光っていた。
川幅を測るため、
家臣が棒を持って浅瀬へ入った。
流れは速く、
足を取られそうになる。
耳川は川底が砂利と砂の混じる場所が多く、
踏み抜きやすい。
義弘は流れの速さを見極め、
川底の硬さを確かめさせた。
浅瀬は日によって位置が変わるため、
渡河可能な場所を探す必要があった。
家久も馬を進め、
川沿いを歩いて浅瀬を探した。
湿地帯に入ると、
足が沈む音がした。
湿地は広く、
荷駄隊が通るには
慎重な判断が必要だった。
義弘は地面の沈み具合を確かめ、
荷駄隊の通行が可能かどうか
家久とともに歩いて判断した。
湿地の縁は草が濃く、
踏み跡が残りやすい。
敵が伏兵を置くには
十分な場所でもあった。
南岸の段丘に登ると、
見晴らしの良い丘があった。
段丘の高さを確かめ、
陣を置ける平地の広さを測る。
耳川南岸は段丘が多く、
布陣に適した場所が点在していた。
段丘の上は風が通りやすく、
焚き火の煙が流れやすい。
義弘は丘の上から
川面と北岸を見渡した。
北岸には、
大友軍の陣幕が張られていた。
白と黒の陣幕が
川沿いに長く続き、
焚き火の煙が
細く立ち上っていた。
大友軍は鉄砲の比率が高く、
陣幕の後ろに鉄砲隊を置くことが多い。
先鋒の位置を目視で確かめ、
焚き火の数と煙の方向を確認する。
陣の広がりを地図に記し、
敵の兵数と配置を
家久と照らし合わせた。
義弘は地図を広げ、
家久が指し示す敵の位置を
一つずつ書き込んだ。
地形と敵布陣の噛み合わせを確認し、
渡河点と敵先鋒の距離を測る。
耳川の浅瀬は限られており、
敵がそこを押さえていれば
渡河は困難になる。
義弘は家久とともに
浅瀬の位置を再度確かめた。
夜営の準備が始まった。
夜営地の平地を選び、
兵を配置する。
荷駄隊の位置を決め、
見張りの交代時間を定めた。
耳川周辺は夜になると
川霧が濃くなることがあり、
見張りの目が頼りになる。
火薬の湿りを避けるため、
荷駄隊は段丘の上に置かれた。
段丘の風通しの良さは、
火薬を守るには好都合だった。
義弘は家久とともに
翌日の配置を決めた。
先鋒・中軍・後詰の位置を決め、
渡河の順番を定める。
伝令の配置を決め、
地図に翌日の布陣を書き込んだ。
耳川の流れと敵の位置を
何度も照らし合わせ、
最も損害の少ない渡河の形を
探った。
島津軍は渡河後の展開速度を重視し、
伝令の動線も細かく決めた。
夜になると、
焚き火が灯り、
川音が響いた。
北岸には大友軍の灯りが
点々と並び、
川面に揺れて映った。
兵たちは静かに休み、
明日の戦いに備えた。
義弘は段丘の上から
耳川の流れを見つめ、
地図を巻いた。




