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武将 島津義弘 第23話 貴久死去と家中の再編

天正三年(1575)初夏。

大口城の支配線を整えた直後、

義弘のもとへ急使が駆け込んだ。

「内城より急報。貴久様、御病状悪化とのこと」

使者の顔は青ざめ、馬の汗がまだ乾いていなかった。

貴久はこの頃、長年の持病が重く、

政務の多くを義久に任せていた。

だが「急変」という言葉は、

ただの病状悪化ではないことを示していた。

島津家中ではすでに不安が広がり、

家老衆が内城へ集まり始めていた。

義弘は地図を閉じ、

「大口は家臣に任せる。すぐに薩摩へ戻る」

と短く告げた。

 大隅から薩摩へ戻る道は長い。

義弘は馬を急がせ、道中で家中の様子を聞き取った。

「内城では家老衆が集まり、対応を協議しております」

「殿下(貴久様)は床に伏したまま、政務が滞り……」

「義久様が家中をまとめようと動いておられます」

貴久は薩摩・大隅・日向の三州をまとめ上げた当主である。

その病は、家の柱が揺らぐことを意味した。

薩摩の中心が揺れれば、大隅の戦線も揺れる。

義弘はそのことを誰より理解していた。


薩摩・内城に着いたのは、申の刻に差し掛かる頃だった。

城内は異様な静けさに包まれ、

廊下には家臣たちが整列していた。

義弘が奥へ進むと、

貴久は家族と家臣に囲まれ、静かに横たわっていた。

「父上……」

義弘が膝をついた瞬間、貴久はわずかに目を開けた。

その目は、戦場で見せた鋭さではなく、家を託す者の目だった。

「義久……家を……頼む」

かすれた声が漏れた。

義久が深く頭を下げる。

その直後、貴久は息を引き取った。

島津家を再興し、薩摩をまとめ上げた当主の死は、

家中に深い悲しみと緊張をもたらした。

家臣たちは静かに頭を垂れ、内城の空気は重く沈んだ。


翌日、葬儀の準備が始まった。

内城の庭には白布が張られ、家臣団・一門衆が次々と参列した。

葬列は城下を静かに進み、村人たちが道の両側で頭を垂れた。

薩摩中が喪に服し、太鼓の音だけが低く響いた。

喪の期間が定められ、家中は沈痛な空気に包まれた。

だが、戦は待ってくれない。

大隅ではまだ肝付残党が動いている。

 葬儀が終わると、義久を中心に家中の再編が始まった。

義久は正式に家督を継ぎ、家老衆がその下に再配置された。

大隅・日向の戦線をどう維持するかが、最初の議題となった。

「大隅方面の指揮は、これまで通り義弘に任せる」

義久の言葉に、家臣たちは静かに頷いた。

義弘は軍事の柱として、家中の期待を一身に背負う立場となった。

義弘は大隅の戦況を確認し、必要な兵と物資を整えた。

「殿、前線へ戻られますか」

十郎太が問う。

義弘は頷いた。

「父上の遺した線を、途切れさせるわけにはいかぬ」

 義久が義弘の前に立ち、

「頼む。大隅を固めよ」

と静かに言った。

義弘は深く頭を下げた。

「承知」

出立の日。

内城の門を出ると、薩摩の空はどこまでも澄んでいた。

だが、その空の下で、家中の秩序は新しい形へと動き始めていた。

義弘は馬に乗り、大隅へ向かう道を進んだ。

外界の戦線と家中の秩序。

その両方を背負う戦いが、ここから始まる。


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