仲直り。しかし裏では不穏な動きが
夕食の時間、いつもの様にメアリーのベッドの横で食事をするガルフ。食べ終わる頃にはデザートと紅茶が三人分運ばれ、ティアと共に食後のお茶を楽しむのだが、この日はデザートと紅茶が二人分運ばれてきただけだった。
《ティア、怒ってるのかな……》
ほんの数時間会っていないだけだというのに何だこの喪失感は。ティアの存在の大きさにあらためて気付かされたガルフだった。
眠れない夜が明けて、朝食の時間。さすがに朝はバタバタする(特に女の子は)のでティアが兄妹二人の朝食に乱入する事は無い。ガルフはぽそぽそとパンを齧りながら心ここにあらずといった体でしきりに時計を気にしている。
「お兄ちゃん、早くティアお姉ちゃんを呼びに行きたいんでしょ」
勘の良い十二歳である。いや、誰でもわかる事か。それはともあれ朝、学校へ行く時間になると部屋までティアを呼びに行くのがガルフの日課だった。
「ティアお姉ちゃんとどんな顔で会えば良いんだろうって考えてるでしょ?」
つくづく勘の良い十二歳である。図星を突かれて黙り込むガルフにメアリーは凄いアドバイスを与えた。
「女の子を落としたいなら、変に格好付けちゃダメ。素直にならなきゃだよ!」
……とんでもない十二歳である。もっともこのアドバイスはイケメンにしか適用されないのだろうが。もちろんガルフには適用されると思われる。
そうこうしているうちにやっと時間になり、ティアの部屋に足を運ぶガルフ。扉の前で深呼吸し、ノックする。
「ティア、おはよう! 学校行く時間だよ」
出来るだけいつも通りに振舞うガルフ。扉が開き、ティアが顔を出す。あまり眠れなかったのか、少し疲れた様子。心配になったガルフは思わず今日は休んだ方が良いのではと提案したが、彼女はそれを聞き入れなかった。
「ううん、大丈夫。ありがとう、行こ」
ティアは言葉少なく答えると先に立って歩き出した。
二人が城を出た後、デュークはジェラルドに耳打ちしていた。
「そろそろ頃合かと」
ジェラルドは複雑な顔で答えた。
「そうか……汚れ役を押し付けてしまってすまんな」
「いえ、ティア様の為になるのでしたら……」
「方法は任せる。私が撒いた種、咎は私が受ける。よろしく頼む」
「御意に」
頃合? ジェラルドが撒いた種? そして咎? ジェラルドは一体何をデュークに命じたというのだろうか?
*
「昨日はごめんね、変な事言っちゃって」
歩きながらガルフは素直にティアに昨日の事を詫びた。
「うん……」
ティアは曖昧な返事と共に頷くが、ガルフと目を合わせようとしない。気まずい空気で歩く二人に救いの声。ジュリアが現れた。
「おっはよー。あれっ、どうしたの二人共?」
二人の間に流れる微妙な空気にジュリアは残念ながら二人の救世主にはなれなかった様だ。
何でも無いと答えるティアにジュリアは怒った様に言う。
「何でも無いって顔じゃ無いでしょ! 私達、何年付き合ってると思ってるのよ? だいたいアンタみたいな解り易い人、そうそう居ないんだからね!」
相変わらず王女に向かってボロカス言うジュリア。ティアは何か言い返すかと思えばそうでは無く、肩を震わせボロボロと涙を流し始めた。
予想外の反応に焦ったジュリアはガルフに離れて歩く様に言い、ティアの肩を抱く様にし、小声で二人話し出した。
二人の話は校門まで続き、何の解決にもならないまま三人は教室に入り、それぞれの席に着いた。
授業中、何も手につかないガルフ。休み時間もジュリアと何か話していて、近寄り難い空気を醸し出している。
そして昼休み。ティアがガルフの席に近付いてきた。やっと話をする機会が! ガルフは色めき立ったが、彼女の暗い表情に動く事が出来なかった。
「お弁当、食べよ……」
ティアの言葉にぎくしゃくしながら立ち上がるガルフ。いつもの様に机と椅子がセッティングされ、ジュリアもしっかり座っている。ティアの顔が暗いのに対し、ジュリアは何故か明るい顔をしている。
「さっ、早く食べましょ。私、お腹空いちゃって……」
妙に早く食べようと促すジュリア。不思議に思いながらも包みを解き、弁当箱を開けたガルフは声を上げた。
今日の弁当はいつものコックが作った物では無かった。見た目こそ……いや、おそらくは味もいつもの弁当に及ばないだろうが、食材一つ一つに心が込められたまさしく女の子の手作りの弁当、いや、お弁当だった。
「あらっ、今日はコックさん、調子悪かったの? 仕上がりが整ってないわね」
わざとらしいジュリアのセリフ。決定的な言葉をティア本人の口から言わせたいのだった。それを受けてティアは投げやり気味に言った。
「う、うるさいわね。そうよ、今日のお弁当は私が作ったのよ。それが何か?」
大事な一言が抜けてるだろうとばかりにジュリアはわざとらしいセリフをもう一つ。
「へえ~、ティアが作ったんだ。どうしたの? やっぱりコックさん、調子悪いの?」
ティアは真っ赤になって黙り込んでしまった。さすがにこれ以上は無理かと思ったジュリアはガルフに向かって言った。
「ガルフ君、ティアだって君と仲直りしたかったのよ。だから今日のお弁当は自分で作ったのよ。もちろん君の為にね」
もちろんガルフにもそれぐらいはわかっている。しかし、ジュリアが背中を押してくれなければ、最悪ティアがせっかく作ったお弁当を出せなかった可能性もある。彼女に感謝しながらガルフは喜びを言葉にして表した。妹に言われた様に素直な気持ちで。
「ティア、ありがとう。凄く美味しいよ」
ガルフの素直な気持ちはティアにしっかり伝わり、彼女の顔も明るくなった。なんとか仲直り出来た二人。しかしまだ二人の関係は曖昧なまま。お互いに好意は抱いているのだが、それを口に出せてはいない。そんな二人に大きな事件が迫りつつあった。三人の様子を面白く無さそうに見る見ている男が一人。言うまでも無いだろうが、ジョセフだ。取り巻きと共に弁当を食べていたのだが、いきなり弁当箱を机に叩きつけると不機嫌な顔で教室を出て行った。




