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第三話:仮初彼氏

「夢じゃなかったか……」


悠一が目覚めて携帯を確認する。


メッセージの着信が十件を超えている。


『悠一さん大学生なんですよね何年生ですか?』

『どこの大学ですか?』

『教育学部って言っていましたよね』

『大学は楽しいですか?』

『悠一さんは普段何をしてるんですか?』


そんな感じの内容ばかりが並んでいた。


「質問攻めだな……」


くくく、と苦笑いがこぼれる。


ピロン。


再度の通知が来る。


『おはようございます。今日、会えませんか?』


返信を打とうと携帯を操作するとすぐにメッセージが送られてきた。


『ダメですか?』


早い早い、こっちはまだ返事を書いてる途中なんだが……

返事を書く。

『今日か?何か相談事か?』


すぐに返信が来た。

『相談じゃ、ありません』

『デートのお誘いです』


「……は?」




悠一は、大学の講義を流し聞きしながら、スマホを確認する。

何度見直しても『デートのお誘いです』と書いてある。

後から、場所と時間もご丁寧に送られてきた。


「なーに、呆けた顔してるんだ?」

「なんか今日一日ずっと変だよ?」


休憩時間になり、悠一の元へ友人たちがやってくる。


「そうか?いつも通りだよ」

「いいや変だ、スマホを見ては、ため息ついてる」

「なんだ、彼女でもできたのか?」


ドキリと心臓が鳴る。


「……彼女じゃないよ」

「ふぅん?なら厄介毎か、お前ってそう言う所あるよな」

「困ってるやつ見ると自分の事を後回しにするタイプだからな」


べしべしと友人は悠一の背を叩く。


「ま、お前さんが誰かの相談に乗るのはいつもの事か」

「たまにはお前が相談なりをできる相手作った方がいいぞ?いつかお前がつぶれちまう」

「分かってるよ、御忠告どうも」


軽口を返せば、「やべ、時間だ」と言いながら慌てて教室を出ていった。


「頼れる相手を作れか……」


奇しくも昨日、栞にアドバイスした事と同じ事を言われてしまった。


「そんな奴が居ればいいけどな……」


ポツリと呟くが、声を拾う者はいない。荷物をまとめて学校を後にした。




天野井市駅商店街、その裏通りに栞が指定した店があった。


「ずいぶん年季が入ってる建物だな……」


レンガ風の外観だが、壁は半分以上がアイビーに覆われている。

コーヒーの絵が書かれた置き看板の上に屋号が書かれている。


「純喫茶 月並亭……か。地元にあるのに知らなかったわ……」


隠れ家系のカフェだろうか?

ネットで見ても出てこなかった。


カランコロンカランコロン


扉を開ければカウベルの音が響く。

昭和レトロな木造の内装。

古びたスピーカーから小さく流れるピアノジャズ


カウンター内の柔和な顔のマスターと顔を見合わせる。


「いらっしゃいませ」

「えぇと……連れがいる……あ」


そこまで言いかけて、カウンターの一番奥に座る栞に気が付いた。


「……こういう時の待ち合わせって、テーブル席が普通じゃない?」

「ここが私のお気に入りの席なんです」


栞が微笑みながら答える。


視線を感じ振り向くと、マスターが驚いた様子でこちらを見ていた。


「あの……なにか?」

「いえ、栞さんが誰かと一緒にいるのが珍しいと思いましてね。

栞さんは、いつも一人でくつろいでいらっしゃるから」

マスターが目を細めて栞を見る。その目は、まるで孫を見るようだった。


「彼女はここに来て長いんですか?」

「初めて来店してから、かれこれ三年ほどになりますかね」

「ちょっとマスター!あんまり私のこと言わないでください」


栞が少しすねたようすを見せる。

普段、完璧な女子高生だと言っていたが、こうしてみると年相応の女子高生に見えてくる。

砕けた口調で話す栞を見たのも初めてだと思う、確かに長い付き合いのようだ。


「これは失礼しました……栞さんはいつもので良いかな?君はどうする?」

「では、ブレンドを」

「ミルクと砂糖は?」

「ミルクだけで」

「かしこまりました」


マスターがカウンターでコーヒーを入れ始める。


「なるほど、栞の席が一番よく見えそうだな」

「そうなんです、ああやって出来上がる瞬間を見るのが好きなんです」

「……分かる気がする」


淀みなく流れる様なマスターの手さばきは、長年培った技術をうかがわせる。

プロの手並みに見惚れる。

そう言う楽しみ方もあるのだろう。


やがてコーヒーが目の前に置かれ、カップを手に取る。


「いい香りだ……味も良い」

「ほっとします」


栞が両手でマグカップを持ちミルクココアを飲んでいた。


「コーヒーじゃないのか……」

「あんな苦いの飲めませんよ」

「ふふふ」

「あ、笑った!」

「ごめんごめん可愛くて」

「かっかわ!?」


ぷくぅ、と赤い顔で頬を膨らませる。


「そう言えば、今日は相談があったんじゃないのか?」

「え?ありませんよ?」

「ん?でも会いたいですって」

「あぁ、それは会いたかったからですね」

「……」

「デートのお誘いですって送りましたよ?」

「それは……そうだな」


栞の口角があがり妖艶な笑みを浮かべる。


「悠一さんは私に『彼氏いないのか』って聞きましたよね?」

「そうだな」

「頼れる人が必要だって」

「言ったな」

「私の頼れる人になってくれると」

「……話を聞くだけな?」


栞が人差し指を立てた。


「だから今日はデートなんです」

「どうしてそうなる」


「二人きりで会ってくれるんですよね?」

「まぁ……そうだな。」


「私の事を気にかけてくれるんですよね?」

「それは……そうだけど」


「やってる事、彼氏ですよね?」


……詰んだ。


どうあっても彼氏にしたいらしい。

キラキラという擬音が付きそうな期待のまなざしとは裏腹に、拳は固く握られかすかに震えている。


安心させる為には仕方ないか……仕方ないよな?


「分かった、彼氏でいい、ただし(仮)な」

「(仮)ですか?」

「あぁ、元々更生させるための『頼れる人』だからな」


一瞬だけ栞から笑顔が消えた。

けれどすぐに、いつもの笑みに戻る。


「……わかりました。それで結構です」


栞が、悠一の手を握る。


「お願いですから、私がちゃんと治るまで見ていてください

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