第9話 惨劇と恍惚
そこからというものは、もう地獄のような有様だった。
ジャックは恐怖のあまり、へたり込んだまま声も出ず、ただ見ている事しかできなかった。
視界が歪む。世界が回る。呼吸がうまくできない。
胃がひっくり返ってしまいそうだ。
ミラは覆いかぶさるように、タマを貪り食らう。
骨が砕ける音がする。肉を潰す音がする。
その下から、かすかな声が漏れる。
泡を含んだような、途切れ途切れの音。
それが苦痛による叫び声なのか、歓喜による笑い声なのかは分からない。
判断する余裕など、ジャックにはなかった。
気がつけば、地面はすでに色を変えていた。
切り株も、周囲も、すべてが同じ色に染まりつつある。
ジャックは、どうしようもできない極限状態の中で、顔を両手で覆い。ただ、子供のように泣くことしかできなかった。
その一方で⸺タマは。
白目を向いたまま、どこか恍惚とした表情を浮かべていた。
あぁ⸺ミラさんが、ボクを食べてくれている。
こんなにも必死に。
こんなにも夢中になって。
ボクが。
ボクのような存在が。
誰かの役に立っている。
あぁ⸺ミラさん、ミラさん、ミラさん。
⸺なんて、食欲に忠実で、素敵なお方なんだ!!!
腹を喰われ、手足を引きちぎられ。
痛みに支配された脳で。
本能が警告を出し続ける中で。
それでも、タマは笑っていた。
ボクは…ボクはなんて⸺
⸺幸せものなんだろう!!!!!!
そして、タマは絶頂した。
ジャックは、自らを覆う手の隙間から、ふいに光が漏れているのを感じた。
ゆっくりと顔を上げる。
泣き腫らした視界の先⸺
ミラの下で、タマが光り輝いていた。
それは、神々しい光だった。
周囲をやわらかく包み込むような、静かな光。
やがてその輝きは、タマの胸元へと収束していく。
一点に集まり⸺
次の瞬間、弾けるように天へと跳ね上がった。
光は空へと昇り、
そのまま、きらきらと砕けて散っていく。
ミラはその光を見つめたまま⸺
ふっと糸が切れたように、力を失い、崩れ落ちた。
⸺光が舞う世界に残されたのは、静寂だけだった。




