第6話 違和感
「ジャックさん! ミラさんは、一体どうしてしまったのですか!!」
タマが叫ぶ。
⸺ミラはもう、ここにはいない。
先程とは嘘のような静けさの中、ぽつりぽつりと喋り始める。
「ミラは…」
ジャックの声は、どこか上の空だった。
「満月が近くなると、食欲が抑えきれなくなるの…。そして、正気を失ってしまう…」
「正気を…?」
「昨日が、満月だったわ…」
かすれた笑いが漏れる。
「油断した…今日も、あんなに肉を食べさせたのに。
足りなかったみたいね…あはは…」
食費がバカにならないのでケチって暴走しないギリギリのラインを攻めていたというのはある。
問題ないと思っていたが⸺道を間違えて森を走り回ったせいで、計算が狂ったのであろう。
「…あの状態になったミラは、三日三晩、森を彷徨うわ」
ジャックは、ぼんやりとした目で地面を見つめたまま続ける。
「目についたものを、片っ端から食べ尽くす⸺ただの食欲の化身よ」
「そ、そんな…」
「だから、私たちは町から離れた森の奥に住んでるの。
…こうなったときのために」
ジャックは力なくその場に崩れ落ちた。
「こうなったら、もう誰も止められないわ…」
目を伏せる。
「ここは町からうんと離れてる…被害は出ないはず。
…収まるのを、待つしかない」
「そんな…そんなことって…!」
⸺そのとき。
ジャックは、わずかな違和感を覚えた。
(…明るい?)
タマの声色が、妙に軽い。
顔を上げると、そこには。
決意と、どこか場違いなほどの希望を浮かべたタマの姿があった。
「…ジャックさん」
一歩、踏み出す。
「ボクなら⸺ミラさんのこと、助けられるかもしれません」
「…へ?」
「これは…運命なのかもしれません」
タマの瞳が、きらきらと輝く。
「この世界が巡り合わせてくれた、奇跡に近い⸺いや、必然か…!」
(な、なに?何を言って…)
「そうと決まれば、準備をせねば…!」
タマはくるりと振り返る。
「ジャックさん! ボク、行ってきますね!!
ミラさんのこと、任せてください!!」
そうしてジャックを全て置いてけぼりにして、タマは走り去って行った。




