第2話 海岸へ行く
オービットという世界は、海に囲まれた小さな島だ。
ただし、その島は少しばかり普通ではない。
中央には、空へと伸びる巨大な樹。
それは【オルビスの大樹】と呼ばれていた。
その根は地中に収まることなく地表へと広がり、絡み合い、島の骨格を形作っている。
表面は土や砂に覆われ、一見すれば普通の地面に見えるが、ところどころで隆起した根が顔を覗かせていた。
つまり、この島は大樹そのもの。
周囲を囲む海は、やがて果てにたどり着く。
そこにあるのは地平線ではなく、切り落とされたような崖。
本来なら流れ落ちるはずの海水は、決して落ちることは無い。
白糸のように細く垂れながらも、どこかで縫い止められるように、そこに留まっている。
そんな不思議な世界にまた一人。
大樹に喚ばれた来訪者が流れ着く。
与えるのは祝福か。
それとも⸺
「ぜーっ!はーっ!!」
荒い呼吸を繰り返しながら歩くジャック。
その後ろを、ミラがひょこひょことついてくる。
「ジャックちゃん大丈夫? 休む?」
「大丈夫…ぜんぜんだいじょぶ…っ」
住んでいる森から海までは、およそ2キロ。
とはいえ、足場の悪いこの道を進むには、元々体力も無く貧弱なジャックには少々きつい距離だった。
落ちたと思われる方向の海は、最も近い町からも遠く、むしろジャックたちの住む森の方が近い。
来訪の兆候があった場合、行ける者が様子を見に行く。そんな緩やかな取り決めになっている。
海に住む者たちもいるが、総じて排他的だ。
自分たちの領域を脅かしかねない外からの者を、理由も無くわざわざ助けようとする者は少ない。
「ねー本当に大丈夫なの?無理してない?大丈夫?」
ミラが歩きながら顔を覗き込み様子を伺う。
自分で見に行こうと言っておきながらこの有様、ジャックは少し情けなくなってきた。
「よいしょーっ!」
「へっ?」
ひょい、と。ミラがジャックを抱え上げる。
いきなり荷物の様に小脇に抱えられ、間の抜けた声が漏れた。
「ジャックちゃん疲れてるよね?無理しないで?
海ってどっち? こっちかな? いっくぞー!」
足場の悪さなど気にもせず、ミラは走り出す。
今までペースを合わせ我慢していた反動のように。
問題があるとすれば…。
「み、ミラ待って、逆!
そっちは逆方向〜!!!」
ミラがそれに気付いたのは、明後日の方向へ走り出してしばらくしてからで、さらに雑に運ばれたせいですっかり気分を悪くしてしまったのでした。




